懐かしい町
「なるはど、記憶喪失になってしまったのですね」
僕は泣きながら、全てを話した。
キャンパさんは、ニコリと笑い、
「極めて珍しいのですが、前例がない訳ではありません。
それは多分、時空移動性の健忘症です」
「ええっ!
健忘症ですか」
なんだか、凄い病気みたいだ…。
「驚くほどのことはありませんよ。
ウラガスミさんのように、21世紀の日本から大きめの時空移動をされた方は、一時的に、そういう症状が出ることは、よくあるのです。
ただ、普通は、落ち着いてくると記憶を取り戻すものなのですが、ウラガスミさんは、逆に、今まで健康そのものだったのが、多分、何か、ちょっとした事をきっかけに潜在していたものが、一気に出てしまったのでしょう。
荒野でいきなり、というのは危なかったですが、もう町の中なのですから心配はありません」
「そうなんですか…」
僕は安心のあまり、ため息混じりに言った。
「でも…、僕、全然、知人に会わないんですが…」
「それは、きっとウラガスミさんが、昨日、イザベラの廃墟を攻略するため、このマイラの町に来たところ、だからですわ。
元々は500キロ離れたイフの町で過ごされていたので…」
あ…、
僕は思い出した。
そうだった。
懐かしいイフの町で、僕はレベル1の頃からの仲間、パントンやクローラーと、レベルアップに励んでいた。
そして僕は、より強くなるために、マイラの町にやって来たのだ。
「きっと、この町に来るための短距離空間移動が、健忘症の引き金になったのかもしれません」
僕はキャンパさんに励まされ、ギルドを後にした。