待ちぼうけ
ほ…、本当に、どうしたらいいんだろう!
僕は、自分が、簡単に物事を考え過ぎていた事に気がついた。
町に帰れば、きっと知り合いや身内がいて、すぐに相談に乗ってくれるもの、と楽観してしまっていた!
こ…、こんな時、どうすれば…。
僕はオタオタと石畳から立ち上がり、周囲を見回した。
しばし呆然と立ち尽くした。
あ…、そうだ。
ギルドだ!
ギルドに行けば、登録はしてあるのだから、その分ぐらいは判るはずだった。
あと、デバイスのキャンパさんぐらいが知り合いと呼べる、思い出せる全ての人物だったが、多分僕は、キャンパさんの顔は知らない。
会話しているのに、顔が思い出せないのだから…。
急に不安が押し寄せてきた…。
なんだか、人混みが怖い…。
今まで、何の裏付けもなく、みんな仲間のように思っていたが、急に回りの人が、いつ物陰から石を投げてくるかも判らないように感じた。
あ…あれだ!
朝、学校に来たら机に、死ね、と書いてあったり、不意に後ろから突飛ばされたり、トイレで水をかけられたり。
僕は21世紀の虐めのイメージに、精神を襲われ、泣きそうになりながら、逃げ込むように白いギルドの建物に飛び込んだ。
輝く大理石のロビーに、落ち着いた木製のカウンターが並ぶ。
だが、カウンターの奥に人の姿は無く、グレーの金属ボードに、デバイスと同じような光りの板が浮かんでいるだけだった。
まずデバイスをつけろ、と文字が浮かぶ。
デバイスをかざすと、画面が変わり、空中にいくつかの文字が浮かんだ。
仕事のこと 住居のこと パーティのこと
病気・怪我 その他
やはり、病気・怪我だろうか。
そう思って、タッチすると、病名がズラズラと浮かび上がった。
が記憶喪失は見つからなかったので、最後の、その他、を選ぶと、ギルドの保険対応外です、と文字が浮かんでしまった。
最初に戻って、初めから、その他、を選んでみる。
すると、係員が対応します、と出て、124番の番号札が僕のデバイスに浮かんだ。
僕は、奥の茶色い皮のソファーに座り、名前を呼ばれるのを待った。
ソファはふかふかだったが、僕の心はパニックだった。
そう言えば、今更だけど、なぜ21世紀人の僕が、こんなところで戦いの日々を過ごしているんだろうか…。
とはいえ、じゃあ僕は21世紀の誰で、日本のどこで生きていたのか、とか聞かれても、全然判らないんだけど…。
なんだか、他の座っている人たちは、次々と呼ばれていく気がする。
僕だけが、ずっと同じソファーで小さくなって、じりじり、と声がかかるのをひたすら待ち続けている。
そういえば、お腹空いたなぁ…。
今、何時ぐらいなんだろぅ…。
ロビーで待っていた人たちが次々消え、奥の女の人と僕だけになってしまった。
が、その人も名を呼ばれ、スタスタ歩き去っていった。
広いロビーに、大理石の純白のロビーに、僕一人が残ってしまった…。
消え入りそうになっていた僕は、何か声がするのを聞き、はっ、と目を上げた。
「ウラガスミさん、どうなさいました?」
あ、キャンパさんだ!
僕は、この世界唯一の知り合いを前にし、みっともなく声を上げて泣いてしまった…。