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ある朝の出来事

作者: 鯛委員長

その夜、2件目の緊急コールが入ったのは朝の4時45分。そのときオレは大井埠頭にある得意先で機械の修理を終えたところだった。

『珍しく、夜間のコールがダブル事も在るもんだなあ・・・』

荷物を片付けた私は、駐車場に止めた愛車のゴルフⅢGTIに飛び乗った。


首都高湾岸線の大井南上りインターで料金を払ったのが5時ちょうど、

『こんな早朝に首都高走るのは久々だし、たまには・・・』

邪な考えが頭をよぎり、領収書を受け取るとアクセルを深く踏み込む。


走り始めた途端、湾岸大井JCTから1号線に。1車線の左、右コーナーを2速で踏んでいく。1号線に合流しながら3速へ。天王洲のS字コーナー前で4速全開から3速にシフトダウン、2つ目の右コーナーは見通しが悪いので注意深くアクセルを踏む。4、5速とシフトアップしていくと、あっという間にレインボーブリッジの合流だ。TBS深夜の浜崎橋カメラを見ている人がいたら、驚くようなスピードで駈け抜ける。


浜崎橋JCTから首都高環状線内回りに合流、その先の汐留S字コーナーは、そろそろ走り始めた一般車両で、3車線を使ったアウトインアウトは無理だ。右コーナーに向かって3速ハーフスロットル、2車線を使いながらクリアする。八重洲線乗り継ぎの新橋発券所でチケットを受け取る右手が小さく震える。1車線部分で一般車両に阻まれアクセルを緩めると、少し落ち付きを取り戻した・・・


銀座料金所でチケットを渡し、八重洲トンネルに飛び込んでいく。八重洲パーキングの左コーナーを2速ハーフで抜ける以外は全開だ。明るくなってきた空に飛び出すように、首都高環状線内回りに再び合流。環状線は一般車両で飛ばせない。もどかしさを振り払うように一ツ橋JCTから5号池袋線下りへ、ここからが正念場だ。


東京ドームに向かって4速全開から飯田橋の連続コーナーを3速で踏んでいく。一般車両が増えアウトインアウトは無理だが、3速でコーナーを立ちあがると短いストレートでもすぐに4速に入り、それも気合で踏みつけていく。飯田橋ICの合流をすぎ早稲田の右コーナーを4速ハーフスロットルでまわると護国寺までのストレートで4速が吹け切ってしまい一瞬5速へ。ちょっとビビる・・・


護国寺の連続コーナーを3速で立ち上がっていった途端、『ピピーーッ!!!』、レーダー探知機がHシステムを捉えて叫ぶ。Hシステムを3速ハーフスロットルでくぐり抜け、再び全開を続ける。北池袋の右コーナーで久しぶりに2速に落とした。


メーター内に表示された油温は108度、まだ大丈夫だ。エンジンを無駄にいじることはせず、足回り優位で、存分に扱えるクルマに仕上げるのがオレの好みだ。新しく入れたアイバッハとオーリンズの足は、ロールはするものの良く動いている。ブレンボとコックスの組み合わせはタッチに不満が残るものの、効きに付いては充分だ。


板橋本町のストレートで再び5速に入った。

『飛ばし過ぎかな..』

そんな気持ちを中台のオービスが冷徹に見つめる。


高島平の右コーナーをオービスに用心して立ちあがると美女木のJCTだ。外環内回りに入り、新倉のPAをすぎると車線が増え3車線になる。ここから関越道大泉JCTまでは高速コーナーの連続だ。点線のように明るさと暗さの出入りが続くトンネルの中、ヘッドライトとフォグライトを怒らせたゴルフⅢが疾走する。5速全開・・・


しかし、異変はそのとき起こった。

『ステアリング・シミーが収まらない・・・』

首都高のコーナリングスピード領域では問題なかったが、どうやら減衰力不足で細かいギャップを拾って共振しているようだ。操縦困難になるほどでもないが、リセッティングしている暇もない。やむなくアクセルを緩めながらも先を急ぐ。


大泉JCTのアプローチに4速のまま減速しながら入る。出口との分岐をすぎてから3速、2速、ゆっくりとテールが振り出した。2速ハーフスロットルで緩やかにカウンターをあててコントロール。慌てることなく関越自動車道に合流。この優れたコントロール性もゴルフⅢの素性の良さだ。


新座料金所でチケットを受け取り、気持ちを切り替えた。ここからの区間、用心するのは何といっても覆面だ。関越道に入ってから114度に上がった油温も気になる。


第3レーンにクラウン発見! ふう、ハイヤーだった・・・

前方にR34の4枚ドアを発見! ほっ、家族連れだった・・・


一般車両を横目で睨み、前方3:後方7の割合で注意しながらアクセルを踏む。国産車には追いつけないスピードで走りながら考える。

『今捕まったら、いくら急用だって言ってもタイホされるだろうなあ・・・』


偶然にも覆面やパンダに遭遇せず、5速全開に数回到達していたら、あっという間に東松山ICに着いた。一般道に下りてからも全開走行は続く。一般道とは言っても、中央分離帯ありの4車線で一部有料道路にもなっている。かなり走りやすくトバせる。目的地はもうすぐだ。


料金所を抜け、市街地に入る頃には車の台数もかなり増えていた。もうトバせない、到着に備え呼吸を整える。病院の駐車場に車を置いた私は、妻の待つ分娩室に向かって走り出していた・・・

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