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遭遇8

 星の瞬かない夜空に閉じ込められているようだ。世界は闇に閉ざされている。

 この世界には音がない。この世界には色がない。この世界には敵がない。

 あるのは色と認識できない青の光だけ。輝きは天と地に幾筋も走り、格子状の檻となって俺を内側に閉じ込める。

 地平に支柱が並んでいた。際限なく、四方に等間隔で連なっていた。

 目に映る圧倒的な光景は、ただ見るだけで意識を失いそうな情報量を有している。

 初めて来た時はリリアがいてくれたが、ここに彼女の姿はない。

 そもそも、知っているモノなど何もなかった。不安に翳る心は、本能的にこの世界を拒絶しようとする。

 だが、


 ――戻れば、エリゴールに殺される。


 この空間を拒むとは、つまりそういうことだ。

 拒絶はできない。

 入口も出口も見えない不明瞭な世界を、認めなくてはならない。

 認めなければ、俺は確実に命を落とすだろう。

 しかし、

 それは果たして、仰々しく覚悟を決めなければならないほどのことなのか?

 鮮やかに発光する支柱に、やや逡巡してから手を触れた。


「――魂の閲覧リーディング


 浮かべたのは、俺と正体不明の人影が刃を交える未来の光景。

 閉ざされた頁を開く呪文を声にして、無限の情報が詰まった記録書の表紙をめくる。

 直後、視界が万華鏡のように散乱した。

 それが何かまでは知らないが、この肉体では処理しきれないモノであることはわかった。殺人的な情報量。理解しようとすれば、脳が焼ききれて命を落とすのは必至だろう。

 けれども、それがどうかしたということもない。

 たとえ肉体で受け止めきれなくとも、俺には関係なかった。

 記憶は肉体に宿るが、記録は魂に刻まれる。

 視ようとしたのは、魂が持つ未来の情報だ。そこに許容限界の概念はない。

 この肉体は知らずとも、この魂は知っている。

 視界が、正常を取り戻した。

 乱れていた意識が再結合した時、俺は無意識に例の人影と戦っていた。

 人影は前回と同じく、腕と思しき部位の先端から影の武器を伸ばしていた。凶器らしき物体が、意志を無視して動く俺の視界を荒れ狂う。

 それは、前回視た未来とまったく同じ光景だった。


 ――なんだ。視えるじゃねぇか。


 この未来が視えるならば、この未来に繋がる現実は消えていない。

 俺がエリゴールに勝利する未来は、まだ消えていない。


 ――どうすればいい。どうすれば、奴を超えられる?


 自問する疑念の解答など、わかりきっていた。


 ――そんなの簡単だ。


 敵わない相手に勝つためには、どうすればいいか。

 より強い誰かを頼って、それを自らの功績だと虚栄を張るのか。

 それも悪くないと思う。頼ることもまた強さだなのだから。


 ――だが、俺はそうはなりたくない。


 頼られる側になるのはいいが、頼る側になるのは嫌だった。

 勝ちたかった。――何のために?


 ――誰かを救うために。


 救いたかった。――どうして?


 ――そう決めたプライドがあったから。


 プライド。――それが無価値でも?


 ――信念に無価値なものがあってたまるか。


 ならばどうする。――どうやって敵に勝つ?


 ――答えるまでもねぇ。


 それは誰からの問いかけだったか。

 今はそんなこと、心底どうでもよかった。

 俺は勝ちたい。

 俺を終わらせようとする敵を倒すために。

 誰かを救うという願いを叶えるために。

 いずれ邂逅する、眼前の人影と戦う未来のために。

 強欲と罵られても仕方のない様々な想いを織り交ぜて、俺は、俺を動かすモノに答えた。

 

 ――勝ち方なんざ、強者(お前)が知ってんだろッ!!!!

 

 人影の漆黒の凶器が、〝俺〟の視界を覆うように迫る。

 奇しくもそれは、現実の敵が振り抜いた刃と寸分違わぬ軌跡を辿った。

 次の呼吸すら許さない肉薄する死を凝視して、

 俺は、強者()に意識を重ねて、無音の世界で叫んだ。

 

魂の同期トランスッ!!!!」


 絶叫に応えるように、暗い色に覆われた世界が弾け飛んだ。

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