冬が終われば春が来ます、これ常識
じわり、瞼の裏に浮かび上がるのは暑い暑い夏の日。
カンカン照りの太陽の下で、真っ白なユニホームを着た彼が、声を張る。
夏が終わって秋も終わって、今度は年が終わる。
私達は、変わらずにあの場所を覚えていた。
冬になって、もう年末で、雪が降ってて、駆け回ったグラウンドが白く覆われる。
毎年のことだけれど、何だか物悲しくて、今年はより一層それが強い。
「いやぁ、寒ィな」
「寒いですなぁ」
冬休み真っ只中で先程も言ったように年末の学校は、入ること自体は可能だが生徒の姿はない。
いやぁ、年越し前に何してんだろ。
白い息を二人で吐き出しながら、真っ白なグラウンドに足を踏み入れる。
ここで三年間過ごしたんだなぁ、と思いながら足元の雪を蹴り上げた。
彼はザックザックと雪を踏みしめては、あー、と唸っている。
冬のグラウンドは、三年間過ごしたのにアウェー感があるのは何故か。
「俺らの三年間もこれで終わりかぁ」
「終わりですなぁ……って、それ引退の時も聞いた」
デジャヴを感じたが、すぐに思い出す。
似たようなどころか同じ会話を、夏の大会が終わった後に話していた。
彼もそれを思い出したのか、肩を揺らしながら笑う。
引退後も受験だ就職だプロ入りだ、なんて言いながらも、しょっちゅう部活に顔を出していた私達に、引退って概念があったのかも微妙だ。
あぁ、でも、後輩達にお疲れ様です、なんて言われた時は泣いた。
「次の夏には、ここにいないんだからな」
「ここどころか、甲子園の舞台にも立てませんが」
そう言い合って顔を見合わせる。
どちらともなく笑い合えば、少し楽しくなった。
次の夏どころか、来る春にはこの場所から卒業することになるのだ。
学生という身分で自由気ままにしていられるのも、これが最後なのかと思うと物悲しい。
いや、私は進学だから関係ない気もするが。
「甲子園、もう一回行きたいなぁ」
「いやぁ、もう無理だわ」
足元の雪をすくい上げて、素手でギュッギュ、と握る私の言葉に、彼が笑いながら否定した。
甲子園に行けたのは結局一回だけだったじゃん、なんて私の言葉に、一回行けただけでも凄いんですぅ、と彼。
そんなに固くない雪玉を彼にぶつけると、彼もまた私と同じように雪玉を作って投げてくる。
左足、と言って投げてくる彼は、本当に左足に当てるので、流石野球部、と褒めておく。
甲子園出場した学校でレギュラーだった人が、ノーコンとかないだろうけど。
「三年間、悔いはありませんかー?」
彼にじゃなくて、空に向かって叫ぶ。
彼は雪玉片手に笑い、私の真似をして空に叫んだ。
「スッゲー、あるー!」
「あるのかよー!」
「もっと、お前と、ここにいたかったわー!!」
空に向けていた視線を彼に向ける。
こちらを見ている彼の、してやったり顔といったらない。
一発雪玉を当ててもいいような顔をしていた。
「チームメイト忘れるとか、可哀想過ぎるわー!」
冬の空に叫んで彼にダイブ――タックルを食らわす。
雪で足を取られた彼は、そのまま私ごと倒れ込んで笑い声を上げた。
倒れる瞬間にさり気なく私を抱き締めているのはポイントが高かったので、私も笑った。
頬と鼻を真っ赤にして笑い合う私達は、三年間この場所にいられて幸せだっただろう。
忘れられない記憶を抱いて、来る春に飛び立ちたい。