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第6楽章 砂漠劇

それは目の眩むような夏の夜語られた 三人の旅人の不思議な話だ


子供たちはその話に震えて 母親の傍らに潜り込むだろう


老人たちは口元をショールで覆い 声をひそめるだろう


若い男たちは、強い酒を片手に笑い飛ばすが やれやれ そういう連中こそがあの女に出会うんだ



小さなスツールに座った老婆は、誰に話すともなく囁き続ける。

濃い日陰にいるせいで、彼女の姿はほとんど見えない。

低く抑揚のない声が、暗がりから小さく聞こえてくるだけだ。



日没の迫った砂漠 溶けた鉄の夕日


どこまでもどこまでも広がる 気が狂いそうな赤い空の下


旅路を急ぐ3人の若者が ふと砂漠の果てになにかを見つけた


煙のような 陽炎のような 淡い光の人影


それは 暑さで濁った夕日を浴びても なお白い白い髪の女であった



『あれは魔女だ』と ひとりめの旅人が怯えた


『あれはまやかしだ』と ふたりめの旅人が喚いた



ひとりめの旅人は 天幕に魔女除けの鏡を飾った


ふたりめの旅人は ブランデーをたっぷり飲んだ


さんにんめの旅人だけは ただ静かに夜を迎えた



次の朝 目が覚めたのは さんにんめの旅人だけ


あとのふたりの姿は 影も形もなかった


残った旅人は 白髪の女がいた方角に なにごとかを呟いた


『あれは 魔女でも まやかしでもなく――』


最後の旅人が なんといったのか



「なんて、言ったの?」

いつのまにか、ひとりの少年が、老婆の話に聞き入っていた。

「さんにんめの助かった旅人は、その女の人を追い払ったの?化け物を追い払う呪文とか身を守る秘密の言葉を言ったの?」

老婆は、わずかに顔を上げ、切れ込みのように歪んだ口を動かす。


「旅人がなんと言ったか、知りたいかい」


その老婆に話しかけてはならないと親に聞かされていたのを、少年は今思い出した。

「お前が大きくなって、もしも白い女を見たら、すぐにお逃げ。その旅人がなんと言ったかは、どこにも伝わっちゃいないんだ」

「でも……その人が、旅から帰ってきて、だれかに教えたかもしれないよ……」

老婆は、引きつったような声で笑った。


「だれも帰ってきやしないさ」




さんにんめの旅人は 白い女を追いかけて そのまま永遠に帰ってこなかった







評価をくださった華胥様、骨様、櫻紫陽様、どうもありがとうございました。

また、コメントをくださったサザエさん様、ブルー様ありがとうございました。


ブログ閉鎖に関して頂いたメッセージも、改めてお礼申し上げます。

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