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論議

「で、何から話そうか」

 ユリカは腰を下ろして言った。


 俺は先ほどの学校での出来事が、まだ自分がしたこととは思えなくて、呆けていた。

「ちょっと? 翔?」

「うおっ」

 少女の顔が唐突に目の前に現れたので、体が跳ね上がった。


「そんな吃驚することか?」

「いや、すまん」

「まあ、いいや。で、何を訊きたい?」

「えーと」

 訊きたいことがありすぎて、いざそうやって言われると、何から訊こうか迷う。


「ああ、大神ってのはなんだ?」

「大神ってのはこの地球の創造主であり、人間、神を作った人だ」

「偉い人なのか?」

「偉い人に決まっているだろう。しかし、今は衰えてしまって、脳だけで活動している」


「脳だけで?」

「ああ。まあ、ある程度のことは出来るけど、かなり制限されている。悪魔の殲滅ができていないのがいい例だ」

「それで、人間を使ったと」


「そうだ。話せば長くなるが、悪魔は元、神だったんだ。しかし、ある事件が起きた――大神が一人の神を処刑した。その神はとても邪悪でね――大神暗殺計画まで建てていたなんて噂まで聞く。天界での悪事、そして地上で人間を殺害した。そんなことをする神は現れたことないから、天界は大混乱に陥った。神々が怯えた。だからね――」


 大神はそいつを殺したんだ――ユリカは少し寂しげに言った。

「仕方のないことじゃないか?」


「しかし、幾ら大神だからって神の生死を勝手に決める権利はあるのかと死刑反発派が現れた。魔術で永劫封印という案もあったが――大神はそれを受け入れなかった。その理由も言わない。そんな態度ばかりを取ったから一部の神々は憤った、殆どの神は仕方がない何か理由があるのだろう、という意見だったんだがね」


 それが悪魔の始まりか。

 俺の心を読むように、ユリカはこくりと頷いて話を続ける。


「その一部から魔界は始まった。大神、神の抹消。そして人間の抹消」


「なんで人間?」


「人間は神を(ベース)に作られているんだよ。そりゃ、神とまったく同じにしたらおかしいから、かなり制限が掛かってるし、所々、作り変えられているがね。だから、神は死人の力が出せるよ」


「じゃあ、神が悪魔を倒せばいいじゃないか」

「悪魔は元、神なのに風采が違うとは思わないか? それは自分に禁忌魔術をかけて風采を変え、我流に対神に発展させていった。こちらは勝てないんだよ。あっちは禁忌魔術を使いまくって、進化していく」


「なんで禁忌なんだ?」

「あのね、禁忌魔術の殆どは殺人目的だ。しかも、その中には生贄魔術まである。悪魔は神を浚い、殺した。それは今も現在進行中だ。一応、神サイドには検問が設置してあるが――偶に入り込まれてしまう」


「なんでだ? そいつらも結局は人殺しをしてるじゃないか。しかも、自分らが反発した大神よりも理不尽な」

「あっちから見ればこっちは完全なる悪だからね――となれば、あっちは善だ。かなり矛盾しているが、悪は殺されてもいいらしい」

 その理屈でそんなことをするのだったら、大神も正義じゃないか。害となる悪を、殺したのだから。


「奴らの理屈はいつも矛盾していて、まるで子供が母親に反駁するような――兎に角無茶苦茶さ。理由の後付け、真実の捏造、大神が殺した神は実は善意的な行為をしていた――なんて徹底的に大神を悪に仕立て上げた」


 理不尽だな。


 俺は冷蔵庫から野菜ジュースを取り出して、神に薦める。ユリカは有難う、と言って受け取る。

「元々、大神に不満を抱く人はいたのかもね。大神に従うのは当たり前だったから、ちょっと理不尽な法律を作ってもそれに大きく反発する者はいなかった。因みにことが起こったのはもう百年前の話だよ」


「は?」 


 俺は素っ頓狂な声を上げた。


 夜の森閑とした空間に間抜けに響く。


「神は風采が衰えてくることがあれども、魔術や力が衰えていくことはない。風采だって、大神に頼めば止めてくれる。寿命で死ぬことはまず、ない。悪魔に殺されると、悪に毒され再生は不可能だが、それ以外のことだったら、作り治すことが可能だ。しかし、大神は例外だ。大神の能力や風采は確実に衰えていっている。まあ、死ぬことはないと思うけど」


「じゃあ、ユリカは何年生きてるんだ?」

「ざっと、五十年」

「もう、ババ――ああ! いや、なんでもないです」

「もうほぼ言っちゃってるじゃないか」


 五十歳?

 これが?


 信じられない。


「しかし、それが危ない。神は上書きができないんだ。悪魔に対抗する術を作るのには、こちらも禁忌魔術を使わなければいけない。悪魔は禁忌魔術を使い、独自に進化を重ねられる。だから厄介だ。そこで――大神が目をつけたのは人間だ。しかし、人間でも生きているものを使うのは不味い。だから死んだ者を使うのだ」


「はぁ」


「人間の上書きは可能なのだ。神を(ベース)に作られているから、大きな上書きは出来ない。しかし、人間の能力を引き出すことは容易で、悪魔に対抗することも可能だ。悪魔がどう頑張っても、違う世界のも者に対抗する術は作れないんだ。禁忌魔術の守備範囲は人間に届いていない。さっきも言ったとおり、人間と神は=じゃない。しかし、完全に影響を受けないわけでもない、悪魔に殺されると、悪に犯されて土から、天界に戻ることができない。本来、人間が死ぬと、大地の法則により、土を通って天界に還るわけだが――悪とはその行為を自然的に阻害する」


「じゃあ、さっきの人は」

「消えた。完全に消滅した」


 ぞっとした。

 存在が完全に消えてしまう。


「ここまででいいか?」

「へ? でも」

「もう眠いんだ」

「ああ」

 時計を見ると、時計の針は十一を指している。

「そうだな」

 


「あの、なんで俺の布団にスタンバイして――」

 俺がシャワーを浴びて、戻ると布団の上にはユリカがいた。因みに、ユリカは俺の前に風呂に入っている。


「いいじゃないか」

 ユリカは意地の悪い笑みを浮かべもせず、普通の顔で小首を傾げた。


 マジかよ。


「じゃあ、俺は床で寝る」

「じゃあ、私も」

「なんでだよ」

「逆になんで嫌なんだ」

「いや、だってな」


 健全なる男子高校生が――たとえ、五十年生きた婆あだとしても――女性で風貌だけで言えば、これほど可愛い人を横に置いて寝るなど、クラスの女子ともまともに話せない自分がやったらどうなるか。


「君、今、失礼な事思ったろ」

「思ってないよ」

「思ったろ」


「話を逸らすなよ。じゃあ、俺は何処で寝ればいいんだ」

「だからここで寝ろって」


「嫌だ」


「駄目だ」


 これじゃあ、決着がつかない。

 どうしたものか。

 俺が寝たとしても、少女は何の恥じらいもなく入ってくる。

 しかし、ここで俺が妥協してしまえば、朝までに羞恥心で焼死している自信がある。


「分かった。こうしよう、君は私がいるなか入るのに抵抗があるんだろ?」

「違う。女性と寝るということが駄目なんだ」


「なんでそんなことで恥ずかしがる? 母親と寝たことないのか?」

「それとこれとは完全に違う」


「何処が?」


「初対面だし」


「それだけ?」

「兎に角!」

 埒が明かない。

「分かったよ。私が床で寝る」

「いや、俺が」

「いや――」

 

 論議の声は朝まで絶えなかったと言う。

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