現人神
「北海道が消えてるぞ」
「悪魔の仕業だ」
ユリカは神妙な顔つきで言う。
因みに、リンは隣の空き部屋に住んでいる。
金は大神から特別に支給してくれるそうだ。配属する死人が居ないので、一応、俺の隣にサポート役としているのだとか。
それを聞いて、ユリカは少し厭そうな顔をした。
※
「悪魔の仕業?」
「ああ、翔! 行くぞ」
「何処にだよ」
「海だよ。馬鹿もの」
そんなこと言われたって、俺が知るわけないだろう。
「海に行ってどうするんだよ?」
「君を海に放つ」
※
よく意味が分からなかったので――いや、正直なところ分かりたくなかったので――俺は黙ってついていくことにした。
状況を理解できないまま、俺は何処に連れていかれるのだろうか。
叫ぶと五月蠅いので、俺は目隠しをしたまま暗の中、風を受けていた。
しかし、暗闇の中で外側は空の中だと思うと、余計に怖い。
「おおおおおおおおおおおおっ! 今、何処だよ? もしかして、海の上にいないだろうな! おおいっ」
呼びかけても、神は応答しない。
手を二つ掴まれて、空中にぶら下げられ、更に俺は目隠しをされている。
特殊なプレイか何かか?
空中なんて遣り尽されてる!
なんてことを考えているんだ、俺は。
同様で頭の中の糸が絡まって、自分が何を考えているのか分からなくなってくる。
「翔! 目隠しを取るぞ」
刹那、俺の重心が左に寄った。どうやら、神は俺の右手を離したらしい。
「おおおおおおおおっ! いきなりやめろよ!」
「いくぞ!」
目隠しが外され、催促するような声が聞こえたかと思うと、俺の体は落下した。
※
下を見ると真っ青な海が広がっている。
「ええ? ええ? えええええええっ! やべっ! やべええ」
下から押し寄せる突風が俺の髪の毛やら、服やらを攫おうとする。
真っ青だ。
所々に白が混ざっていて、それにつられて青が動く。
ザバアアア。
その一律した動きが阻害された。
「は? はい?」
馬鹿デカい手によって。
「マジかよ」
俺の真下に大きな手が現れた。正確には大きな手のひらである。
「やべえええええええええええええ」
そんなことしている場合でないことは分かっているが、手の平に誰かいる――しがみ付いている?
人だ――見えたところで、手の平の上に行きついた。
「でけえ」
指が遠くに見える。
なんだこれ?
まさか、これが北海道を?
しかし、そう言われたら納得できる。
「これ、どうやって倒せばいいんだ?」
俺は首を傾げた。
ビュオオオオ。
変な音がしたので、上を見上げると指が雲を巻き込みながら此方に迫ってくる。
「やべえええ!」
俺は出来るだけの力で、地面――いや、手の平を蹴った。
雲の中に紛れ込んで、大きな手を俯瞰する。
「おい! 空中に居る連中! 聞こえたらなら! これから言うことを実行してくれ! 手に向かってパンチを放ってくれ! 落ちる力を利用して思い切りの力をあいつに当てるんだ!」
雲の向こうから声が聞こえた。
風に抵抗しながら、俺は頭を手へと向ける。
そのまま、俺は地球に従うように落下していった。
「うおおおおおおおおおおおおおお」
迫り来る手の平――それはもう恐怖でしかない。
「うおおおおおおおおおおおおお!」
ドドドドドドドドドド。
拳と手のひらが合わさる。
ドドドドドドドドド。
「やめろおおおおおおおおおお!」
後方から複数の声が飛んでくる。
いとも簡単に大きな手は弾けて、今度は真っ青の海が露わになる。
「それは人間が集まってでき――」
※
「数億人もの半悪魔化した人間が死んだ。自動的に魔界に還り、洗浄され、淘汰され、それは――」
男は不適に微笑む。
そして、生首だけの男を見つめた。
「復活する――『悪』は。いっひっひっひ」
復活まで三日。