暗々裏
「翔!」
「んん~」
四角いテレビがまず、目に入り込んできた。次に手前にある小さな四角い机。
それがぐらぐらと揺れた。
「おお、起きたか」
少女の顔が視界いっぱいに広がる。
「ユリカ?」
「ユリカだよ」
少女は小さく笑って、手を振ってきた。
「俺の目の前から退いてくれないか? とりあえず」
「おお、すまん」
俺は少し朧げな意識のまま、立ち上がって、辺りを見渡す。
俺の部屋だ。
さっきのは夢だったのか?
いや、そんなことはない。あるはずがない。
部屋を一周、見渡してから、俺はユリカに目を止める。
「お前、本当にユリカか?」
「何を言っているんだ君は」
「俺を天界に連れていってくれないか?」
「何をいきなり。厭だよ――面倒臭い」
少女は言葉にしたことを顔に表すように、眉を中央に寄せた。
「ふぅ、良かった」
安堵に胸を撫で下ろす。
「何がだ? どうした」
これが判断基準とか、少し可哀想だな――言うと失礼なので、黙っておく。
俺は誤魔化すために、笑って頷いた。
「は? 少し気持ちが悪いぞ――君」
「うっせ」
短く言って、腰を下ろした。
「何かあったのか?」
俺は今あったことを、覚えているだけ話した。
※
「色々、尋ねたい部分はあるが、人間悪魔計画? 聞いたことないな」
「でも、なんで俺に言ったのか、いまだに分からないんだ」
「そこはあちら側の都合だから、考えるだけ無駄だ。私たちが今、やるべきことはそれに備えることだ」
「人間が悪魔になるとやばいのか?」
「男の話だと、半分悪魔になるんだろう? 確かに、禁忌魔法などを使っても人間を完全なる悪魔にすることは不可能だ。だが、人間が悪に感染すること自体恐ろしいこと――」
刹那、外からトンという靴と地面が密着する音が聞こえた。
していた話が話だけに、俺は自然に身構えてしまう。
しかし、ゆっくりと開いた扉の隙間から見えたのは、見覚えのある少女だった。
長い黒髪に、凛とした顔立ち――リンだ。
「翔」
リンは頬を突いたら、崩れて涙を流しそうな顔でこちらに床と足を擦らせながら近寄って来る。
「どうした」
俺と言えばそれを身構えを解かずに、顎を拉げて見上げてる。
「いや、翔に言いたいことがあってな」
「おう」
その言葉になんだか嫌な予感がした。
リンは唐突に座って、俺と顔を並べた。真っ赤な顔がすぐ近くにある。
鼻息が荒い。
そんな少女の顔に、俺もドキドキしてしまう。
「わ、私は――き、君のことが」
「はい」
リンは大きな深呼吸を間に置いて、
「好きらしい」
と顔を紅潮させて言った。
「はい?」
俺は言葉の意味を理解する行為が遅れてしまって、疑問符のついた言葉が一歩前に出てしまう。
「だから、君のことが――その、好き――らしい」
俺の顔は誰かに捩じられるように、自然とユリカへ向いてしまった。
ユリカも事態に頭の整理が追いつけていないようで、身を硬直させていた。
「なんだ? 私を見ても何もないぞ」
「いや、すまん」
どうしたらいいんだ。
取り敢えず、顔をリンの方へ戻す。
「返事をしてくれなくて、構わない――」
刹那、少女の声が地響きから来る轟轟とする音に掻き消された。
「うおおっ! 地震だ!」
相当大きな地震が建物を揺さぶる。
「机の下に隠れろ!」
※
――数週間後。
地震や津波が相次ぎ、原因が分からぬまま、日本は少しパニックになった。
世界各国でも地震が起こり、被害が拡大。
『青森県への津波が得にひ酷く、避難勧告が出されております』
ニュースキャスターが淡々と紙に書かれた文字を読み上げていく。
しかし。
テレビに映し出された地図に北海道の姿はなかった。
「は?」