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悪魔化

「翔、起きろ。翔?」

「うぅうう」


「そろそろ昼だ。炒飯を作ってくれないか?」

「嫌だ。面倒」


「そんなこと言わずにさぁ」

 ユリカが俺の体を揺らす。


 時々瞼が開かれ、見える風景が揺れた。

「とりあえず、起きろよ」


「分かってる、分かってるって」

 言われた通りに起きて、机の傍らに座る。

 ああ、もうちょっと寝ていたかったな。


「なあ、翔腹減った」

「俺もだよ。出前でも取るか。ちゃんとした炒飯を食わせてやろう」

「君の炒飯じゃ駄目なのか?」


「寝起きの俺が作って、アパートが火事になる事態を逃れるための否定を否定するのなら、どうぞ」

「ぶー」

 ユリカは不満そうに頬を膨らませたが、それ以上異論を唱えることはなかった。



「うーん。美味いが――君のに比べると今一だな」

「は?」


 俺はその言葉に驚愕した。


 人には――いや、人ではないけど――十人十色と言って、それぞれ異なっている。

 そう、それは確かだ。趣味や、好きな曲、あの人は好きと言っているけど、自分は好きになれない。

 分かる。当たり前の感情だ。


 しかし、これに関しては俺は首を傾げてしまった。


「それはないだろ」

 遂、言ってしまった。


 謙虚とかそういうのではなく――というか、そういうことを考える暇もなく、自然と滑るように、口から出た。


「いや、本音だが?」

 当たり前のように神は小首を傾げた。


「いや、こっちの方が美味いだろ」

 そりゃあ、俺の料理を褒めてくれ嬉しいが。


「いや、そんなことはない」


「まあ、いいや」

 また不毛な論理が繰り広げられることだけは避けたい。


 本人が美味いと言うのなら、美味いのだろう――とクールを内面でも表面でもクールを装ってみるが、結構、やばい。


 こんな可愛い、少女に自分の作った料理が美味いと言われれば、そりゃあ健全な男子高校生は興奮してしまうだろう。

「どうした?」


「いや」

 俺はそれでも、何とか伸びそうな鼻の下を押し戻して、平常を装った。



「翔」

「なんだよ」

 トイレから帰って来ると、ユリカは肩を落として、しょんぼりした顔をしていた。


 炒飯を食べていたときのテンションとは明らかに違う。

 ユリカは立ち上がって、俺に寄って来る。


「ごめん」

 その声が聞こえたかと思うと、目の前が真っ暗になった。



 ピピ――短くて、小さいのに、鮮明な音が耳に響いた。


「翔?」

「ん」

 聞き覚えのある少女の声。


「ごめん。いきなり、変なことしてしまって」

「なにが?」

 朦朧とする意識にぼんやりと見える風景。


 ゆらゆらと揺れる橙色のものが視界で揺れる。

 俺の部屋ではないことは確かである。


「何処だここ?」

「ここは――」

 天界だ。


 その言葉を聞いて、俺の意識はすぐさま覚醒した。

「天界?」

「ああ、実は翔に頼みがあって来たんだ」


「俺に?」

 段々と意識が明瞭になる。


 頭がずきりと痛んだ。


 そして視界に映ったのは。


 生首。


「なんだよ? これ」

「大神さ」

 長髪の青年――これが大神?


「もうちょっと老けた人を想像したんだがな」

 最初に出てきた言葉がそれだった。


「はは。しかし、そんなことで笑っている場合じゃない」

 ユリカは真面目な顔つきになった。


 生首の横に立っている蝋燭の火が風も吹いていないのに、揺れる。


「人類悪魔計画」

「は?」


「それが魔界で進行している。そう、大神が言った」

「人類悪魔計画?」


 もう計画の名前からして、内容が把握できるが。

「人類を抹殺するのが悪魔の当初の計画だった。しかし、人類を悪魔化して、人類や死人の抹消。人間は書き込みができないから、完全に悪魔化は出来ない。表面上を悪魔にし、人類を抹消する」


「なんでそんなこと俺の言う」

「逃げてくれ」

「なに?」


「逃げてくれ」

「何を言ってるんだよ」


「君に死んで欲しくない」

 ユリカの顔は今にでも泣きそうな顔をしていた。俺にしがみ付いてくる。

「死んで欲しくないんだよ」


「なあ」

「なんだ?」


「お前誰だよ」

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