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暗闘

 人の波に押し流されて、溺れそうになる。

「逃げろ! 一旦、引け! 死ぬ――ああああ!」

「やべっ! 早く来い! 来い!」

「ちょっと、何処? 何処なの――きゃああっ!」

 俺は誰かに手を引っ張られて、そんな雑踏の中から助け出された。

「こっちへ来い」



「はぁはぁ」

「すまないな。いきなり連れ出して。僕の名前は内山翔平(うちやましょうへい)だ」

 顔を上げると、先ほど俺の隣に居た大学生っぽい人だった。


「俺は木田翔(きだしょう)って言います」

「翔か――翔同士仲良くやろうじゃないか」


「な、なんで僕なんかを?」

「隣に居たからさ」

 呆気ない理由に俺は、少し呆けていた。



「おわあああ! 怖いいいい!」

 暗闇の染まる家々の屋根を飛び移る。いつか踏み外して、深潭の中に落ちて死にそうで怖い。


「大丈夫か、少年」

「いや、大丈夫じゃ――あ!」

 横様からゴリラが飛び出してきた。


「おおっと!」

 翔平さんはそのゴリラに回し蹴りをかまして、それだけでは留まらず、前方の屋根に着地したのである。


 すげえ。


「ふぅ、危ない」

「大丈夫でした?」

俺も飛び移って、翔平さんと並ぶ。


「恐らく、あのゴリラは死んでない。感触で分かる。僕は力が足りないんだよなぁ」

「いや、でも凄いですよ」

 本音である。


「ははっ。殺せなきゃ意味ないだろ。まあ、止まってないで、早く進もう」

「あの、今更なんですが――何処に向かってるんですか?」

「いや、ゴリラを捜している」


「ああ」

 翔平さんはまた、屋根に飛び移る。俺もそれについて行った。



 そういえば、五十嵐と裕次郎は来ているのだろうか。まあ、あれだけ人が居たら会わないのも何ら不思議はない。

「少年! 危ない!」


「うおっ!」

 翔平さんの声で我に返って、間一髪、家々の間に落ちることを免れた。


「考え事とは余裕だな、少年」

「いや、そんなことは――」

 しかし、一難去ってまた一難。


 目の前に二匹のゴリラが現れた。

「少年行けるか?」

「はい」

「じゃあ、少年は右を頼む」

「はい」


 やべえ、怖い。


 しかし、いけるだろ。


 攻撃さえ当てればいいんだ。


 俺は屋根を蹴る。

「少年! 待て! 落ち着け」


 あ。


 やば。


 また、闇雲に突っ込んじまった。


 ゴリラの拳が迫る。

 俺は咄嗟に左手を出す。

 しかし、その拳は左手に変な角度で入った。


「ぐあああっ!」

 嫌な音が肩からして、俺は真上に吹っ飛んだ。


 抵抗できず、空気の中を突っ切る。


 左手が思うように動かない。動かそうとすると、激痛が電撃のように走る。


 ブランブランと間抜けに揺れる。


「あっ! 痛ええええええええ」

「少年、そっちに一匹向かったぞ!」


 下から声が聞こえた。

 そんなこと言われたって――痛い。


 空中に寝そべっている俺は、何とか頭を持ち上げる。

 自分の腹、足が見える。その先にゴリラが山から出る太陽のように現れた。


 俺はその穢れた太陽を思い切り蹴る。

「ふごぉっぉ!」

 ゴリラの声が遠ざかっていく。

「はぁはぁ」

 右手で何かが疼いている。右手がやけに重たい。

 


「おぶっ!」

 道路に叩きつけられた。

 背中に伝わる感触から言って、コンクリートだろうか。


「ふぅっ! ふぅっ」

 俺は何とか立ち上がる。


「ふぅっ! ふぅ!」

 汗が頬を伝う。


 翔平さんが上空から現れて、俺に肩を貸してくれた。

「大丈夫か? 骨が折れたのか?」

「はい」


 声がうまく出ない。 


 頭がぐわんぐわんする。


「君の神はどうすれば来る?」

「え?」

「もしかして、合図かなんかを決めていないのか? 名前を呼べば来るとか」


「決めてません」

「じゃあ、取り合えず名前を呼んでみよう。君の神はンなんて言う名だ?」


 この場合、ユリカとリンどちらを言えばいいのだろうか。

 ユリカを呼んだところで、そもそも天界に声が届くとは思えない。


「リンです」

「リンンンンン!」

 翔平さんが大声を上げる。しかし、聞こえてくるのは、何かが壊れる音やゴリラと戦闘している音だけだった。


「リンンンンンンンンン!」

 俺も大声で叫ぶ。 


 しかし。


 現れたのは。


 長髪の美少女ではなく。


 体毛を存分に生やしたゴリラだった。 

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