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死球

 コンビニで買ってきた飯を適当に食う。

「日本の飯はそれ程、好きじゃないんだがな」

「じゃあ、いらないの?」

「いや、要る」

「はい」

「有難う」

 


 昼飯を食べた直後のことだった。

 無機質なチャイムの音が部屋に鳴り響く。

 食器を袋に詰め込んで、俺は向かう。


「はい」

 扉を開けた瞬間、俺は扉から離れていて、背中と壁を密着させたいた。


「は?」


 何が起こった? 


 俺はどうやら、客人に吹き飛ばされたようで、壁に止められたようだった。

 扉がゆっくりと開いて、客人の姿が見えた。


 ゴリラ?


『神もいるのか? まあ、死人優先ウホッ!』

 ゴリラは俺に突進してくる。


 咄嗟に足が突き出て、ゴリラは一直線に後方に吹っ飛び、扉の外と柵に激突したかと思うと、それさえも越えて、青空の中に消えていった。


「大丈夫?」

 リンはビンタでもすれば、泣きそうな顔である。


「お願いだから泣かないで」

「あ、ああ」

 背中の痛みにこいつの泣き顔という負担が重なったら、厄介である。


「いてえ」


 なんだったんだ?


 悪魔ぽかったが、吹っ飛んでったぞ。

「今の弱かったな」

「違う違う。今のはそういう悪魔だったんだ」

「はい?」

「悪魔にも派閥というか、集団行動を好む者たちが居てな、先ほどのゴリラの形をした悪魔はその一人だ。しかも、好都合なことに弱点が分かっている」


「弱点?」

「悪魔の集団は姿や能力などを統制している事が多い。つまり、弱点も共通していることが殆ど――一部例外もあるが――まあ、今回のゴリラは弱点がある。先ほどのゴリラは皮は硬く、攻撃で命を削るのは難しいが、すぐに吹っ飛ぶ。まあ、共通していると言っても個人差がある。先ほどみたいに、物凄く吹っ飛んでいく者も居るし、吹っ飛ぶには吹っ飛ぶんだけど、今一のもいる」


 抽象的な表現ばかりで分かり難いが、何となくは分かった。

「しかし、ここでゴリラと言うことは――気配はしないが――いつか襲撃はあるかもな」

「まあ、念頭に置いておくよ」

 


 夜。

 炒飯をリンに賄う。


「うおおおっ」

 少女が唐突に大声を上げたので、それに反応して俺の体が跳ね上がった。


「大声を出すな」

 俺は声を潜めて言う。

 また大家からどやされてしまう。


「いや、でも、これ! え」

「どうした」

「もっと食わせろ」


「いや、俺のを見ても、あげないからな? 俺も普通に腹減ってるから」

「いや、失礼。少し興奮してしまった――しかしだな」


 リンが言葉を詰まらせて、頬を紅潮させた。

「あ、明日も作ってくれるか?」


「おお、いいけど」

「ありが――ん? 翔」

「なんだ?」

「早く炒飯を食べろ」


 嫌な予感がする。 

 まさか。


「悪魔だ」

 


 炒飯を口の中に放り込んで、外へ出る。

 家々の上を人々が飛び移っていた。


 皆、同じ方向に向かっている。

 道路に出ると、丁度、少し老けているおじさんが通りかかった。


「すみません。何処に向かっているんですか?」

「ん? ああ、僕が見えるってことは君も死人か。野球場だよ」

「野球場?」


「皆が向かっている方向に子供たちが使う野球場があるだろう? 皆、そこに向かっているんだ。君も早く来なさい」

「はい」

 そう言い放って、おじさんは走っていった。



 野球場は子供たちが使うと言っても、結構広く、時々大人たちが草野球をしているのを見る。周りを住宅街が固めていて、それに被害が向かないように、柵が張られている。


 その中にゴリラが居た。ざっと五十匹は居るだろうか?

 俺が着くと、人が群れて、それを囲んでいた。

 まるで動物園である。ゴリラしかいないけど。


 俺は雑踏をかき分けて、群れの中に入り込んだ。幸運にも、一番前に入り込むことに成功した。

「よし! いくぞ? いいか? トンコツ」

「いいよ。俺たちはダクソやデモンズなどの難易なゲームをクリアしてきたんだ」


「よし、じゃあ、俺たちお先に!」

 反対側の方で暗闇の中に向かって、跳び上がる二人の影が見えた。


 皆、それを見守る。

 柵を悠々と飛び越えて、中に入った瞬間。


 一人の男の足がゴリラの拳によって、吹き飛ばされた。


「ぐわあああっ!」

 真っ赤な肉が飛び散り、骨が露わになった。


「うっ!」

 俺は口を押さえる。

 子供の泣く声が何処からか聞こえた。


「チェリー?」

「やべえ! 痛えええ! 助けて!」

 チェリーを呼ばれる男はゴリラに囲まれた。そこで、俺の視界もゴリラの背によって遮断された。


 ぐちゅ――厭な音が響く。


「チェリィ! あああああああ!」 

 刹那、暗闇に何か吹っ飛んでいった。


「ゴリラ?」

 隣の眼鏡をかけた大学生っぽい人が呟く。

「うおおおおおおおおお! 帰ったら! 帰ったら、一緒にゲーム、うああああああ!」

 次々とゴリラが吹っ飛んでいく。


「すげええええ! いける! いける」

 歓声が巻き起こる。


 ドォン! ドォン!


 爽快な音が聞こえて、次々とゴリラが吹っ飛んで――。


 暗闇の中から、何かが落ちてくる。


 あれは――。


 ゴリラ。


 一匹のゴリラが野球場に落ちた。

 先ほど聞いたような嫌な音が、響き渡る。


「まさか」


 上を見る。


 無数のゴリラが降ってくる。


 それはもう野球場に向いていなかった。


 外。

 柵の外。


「逃げろおおおおぉぉぉ」

 誰かの声が聞こえた。 

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