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死人

 死んだらどうなるのだろう――最近、そんなことばかり考える。

 アパートで独り暮らしを始めて、早一か月。


 独り暮らしを始めたものの、案外楽しいものではなく、ただ虚しい空間とそれに対する解放感が体を包み込むだけだ。

 だから、そんなことを考えてしまう。


 誰しも経験はないだろうか。

 寝る前、死や将来について考えてしまうことが――その延長線上にあるのがこれである。


 飽きれば、テレビやゲームをやって時間を潰す。

 無意味な思考だと自分でも分かっている。

 しかし、人は死んだらどうなるのだろう。



 雑踏の中に入り込んで、学校へ向かう。気怠い体に燦燦と照り付ける太陽が心底、鬱陶しい。そもそも、学校が面倒だ。体が怠いの理由の殆どがそれである。


 信号が赤になった。何故、俺が来ると信号は赤になるのだろうか?


 車が往生する。ここに飛び込めば、そこは非日常である。生きている俺たちから見たら死の世界は非日常だ。

 いや、まず死の世界なんて存在するのだろうか。


 何気なく、隣にいたおじさんを見つめる。

 顔が四角いな。

「なんですか?」

「い、いえ」

 俺は急いで目を逸らす。


 初対面の人と話すのは苦手だ。

 後ろの人は今の俺の光景をどう思ったのだろうか。

 俺に見つめられたおじさんは今、どんなことを思っているのか。

 息苦しくなる。ここに居たくない。


 信号が青に変わる。

 俺は少し急ぎ足で信号を渡る。

「ちょっと君!」

 おじさんの声が後方から聞こえる。

 心臓が高鳴った。

 何かしたか? 俺。


「きゃああ!」


 悲鳴が上がる。

 轟轟と近づいてくる音に耳を傾けると、どうやらそれは俺に迫ってきているようだった。

 甲高い悲鳴とおじさんの声が耳に残って、そこで意識は途切れる。


 信号はまだ、赤だった。



「うおっ!」

 勢いよく体を起き上がらせて、周囲を見渡す。

 俺の――部屋?


 今のは夢だったか――って、ん?

 部屋を見渡した時、俺の部屋にあるはずのないものがあった気がするが、気のせいだろうか。

「やあ、やっと起きたね」

「え? は?」

 そこには少女が居た。


 時々、アパートに妹が来てくれることがあるけど、それとは違う。

 俺の妹は細胞を変異させることもできなければ、怪盗でもない。

 目の前にいたのはまったくの別人であった。


 肩まで伸びた髪の毛はとても艶やかである。右側の(びん)から小さく結った髪の毛がちょこんと出ている。


「だ、誰?」

 恐る恐る、尋ねる。

「私の名か? うーん。これと言った名は無いが。ユリカと呼んでくれ。此処に来た時、一番初めに聞いた名だ」

 訳の分からぬ間に自己紹介されてしまった。

「いや、そういうことじゃない! 名前とかじゃな――」

「君が混乱する理由も分かる。神が目の前に居るのだからな」

「は?」

「私は神だ」

 ――頭が破裂しそうだった。



 俺はベットから降りて、自称神と対峙していた。

「何なりと訊くがいい」

「いや、訊くって」

 ああ。喋り辛いなぁ。初対面の女の子なんてどう対応したらいいんだよ。

 しかも、結構、可愛いし。


「あの、あなたは誰ですか」

「君はまさか、頭が悪いのか? 先程から言っているとおり――名はユリカで構わないし――」

「いや、だから。そういうことじゃなくて」

「じゃあ、どういうことさ」

 

 どうやら自称神様は、質問の意図が分かっていないらしい。

「あの、知らないんだけど、あなたのこと」

「心得ている」

「え、あ」

 言葉に詰まる。


「だからさっき自己紹介したじゃないか」

「だから、名前とかそういうのじゃないくて」

 駄目だ。頭で思っている事が言葉に変換されない。

 即席で作ってしまう。


「君の言いたいことがよく分からないんだが?」

「あの、なんでここに居るんですか」

 俺が尋ねると、自称神は何か考えている顔をした。

「まあ、君は死んだわけだな」

 そして、長考した末に出てきた言葉は俺の頭を更に混乱させるものだった。


「はい?」

「君はトラックに撥ねられて死んだんだよ」

「は、はぁ」

 返事をしてしまったけど、状況が読み込めない。


 夢ではなかったのか? あれは。


 反射的に自分の頭に手を伸ばしていた。それから、手の平を見つめた。

 何ともないよな?

「大丈夫だよ。体は完璧に治しておいた」

「ふざけないでくれよ! じゃあ、なんで俺はここにいる? 生きてるからだろ」

 何が何だか分からなくなって、何が何だか分からぬうちに俺は怒鳴っていた。

 頭が混乱して、遂言ってしまった。


「あっ。いや」


「まあ、いきなり、君は死んだ、と言われたらな。そういう反応も頷ける。しかし、君は死んだんだ」

「じ、じゃあ、此処に居る俺は? ロボット? それとも――」

 何が何だか分からない。しかし、この神――ユリカだったか――が言っていることも尤もだ。

 確かにこの少女が俺の夢の内容を知っていることもおかしい。


「慌てるんじゃない。事を急ぐと、元もこもなくすぞ」

「す、すみません」

「すぐに謝るなよ」


「すみません」

 反射的に謝ってしまった。

「はは、君、面白い子だね――そういえば、まだ名前も聞いていなかったな」


木田翔(きだしょう)

 知らない人に名を名乗ってしまった。

「『しょう』ってのはどんな漢字を書くのかね」

「空を翔るの『かける』です」

「ほう。いい名だ。ああ、そうそう。先程から私に対する言葉に敬語が混ざっているが、敬語はやめてくれ。まあ、私の偉そうな口調は今更、変えようがないので我慢してくれ」

 そっちはいいかもしれないが、俺はまったく構う。

 ほぼ初対面の女子を呼び捨てにするなど、心臓が内側から爆発してしまうこと請け合いである。


「ほら呼んでみ?」

「へ?」

「私の名を」

 意地の悪い笑みが神の顔面に浮かぶ。

「ほら、翔」

「え。ああ――ユ、ユリカ」

 俺が勇気を振り絞って言うと、ユリカは一旦停止して、

「ああ、もっと面白い反応すると思ったんだけどな」

 と言った。 


 面白い反応ってなんだよ。完全に遊ばれるている。


「で、なんで神様がいるんですか?」

 答えがまだたったので、訊いてみる。

「敬語」

「――んん! なんで神がいる?」

 とても恥ずかしいんだけど。


「説明が面倒。却下」

 ユリカが机に突っ伏しながら言った。

 初めて、異性を思い切りぶん殴りたいと思った。


「本当に面倒臭そうな顔してますね」

「敬語」

「本当に面倒臭そうな顔をしているな」

 なんでこんなことせにゃならんのだ。てか、なんで俺は素直に従っているんだ。


「ま、簡略して言えばいいか」

 ユリカは顔を上げて言った。どうやら、説明する気になったようである。

「簡単に言うと、君は悪魔と戦ってもらうことになる」

「は?」

「悪魔さ」

「ちょ、ちょっと待ってくださ――くれよ。悪魔?」

「悪魔だよ。何? 漫画に例えるか? それならGA――」

「いや、そういうことじゃなくて」


「なんだい? 何が不満だね」


 何が不満って、お前の説明不足にだよ。


「いや、悪魔って意味が分からないし。っていうか、ユリカがなんでここに居るか答えになってないよ!」

「丁度いいな。よし外へ出てみ?」

「外?」

 


 言われた通りに外へ出てみる。

 俺が通う学校の辺りに何か蠢いている。外が暗いので、はっきりと見えるわけではないが。

「あれが悪魔だ。早く行かないと、人が沢山死ぬぞ」

「は?」

 なんだよ、それ。

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