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魔力





ーー魔力



それはこの、オラシオン大陸に生きるものにとって必要不可欠なものである。


私たちの身の周りはたくさんの魔力で溢れている。部屋の灯り、料理するのに必要な火、食料品の保存までありとあらゆるところに魔力は使われる。



この魔力を抽出する方法は二つある。


一つは、魔石と呼ばれる、魔力の結晶から抽出する方法。もう一つは、生きた動物または植物から抽出する方法である。


前者については、1000年以上前から知られており、魔石が出た地域は飛躍的な発展を遂げてきた。また、魔石をめぐる戦争も非常に多く、国同士の争いの種となっている。近年では、魔石の枯渇により、魔石を多く保有している国と、そうでない国との対立が激しい。


ちなみに、家庭で使用される魔力はこの魔石によるものが多く、少量だけでたくさんのエネルギーを生み出す。そのため、取り扱いは非常に注意が必要で、家庭に取り付ける際にも、魔石を取り扱える資格を持っている人もしくは専門の業者を呼ばなければならない。原理は未だにはっきりとは分かっていないが、一部の学者によると、大気中の魔力分子を魔石に含まれる成分が吸収しているのでは、とのことだ。



また、魔力抽出の後者に挙げた方法については、近年注目され始めているものだ。


本来、どんな生物にも、微量であろうとも少なからず、魔力が身体を流れている。もちろん私たち人間にもだ。しかし、稀に魔力量が通常よりも遥かに多いために、魔力による力の行使ーーいわゆる魔法というものが使える個体も現れたのだ。


その最たる例が、アーマンブルクに在住の今年、154歳をむかえるエヴァーグリーンという女性である。燃えるような赤毛をもつ彼女は、154歳には見えない美貌を保ち続けているという。彼女の美しさと長寿の秘密も彼女の持つ膨大な魔力にあるが、彼女は自分の力に関して多くを語らないため、真相は謎に包まれている。



さて、抽出方法についてだが、主に魔力を多く保有する植物や稀に動物から行う。実際の詳しい抽出行程については、専門家が口を開かず、私たち一般人には全く知られていない。


ちなみに、何故近年この方法が注目されているかというと、簡単な話、魔力を保有する生物個体がここ200年前まで全く現れなかったからだ。


学者の話によると、この魔力を持つ生物たちは、一種の突然変異によって誕生したのではないかということ。調べると、魔石が多く発見された地域に、このような個体が多く生息していた。つまり、魔石が私たち生物に何らかの影響を与えるのではないか、という説が専門家の間で多く飛び交っている。しかし、実際のところ詳しいことは何も分かっていない。





魔石が多く流通するこの時代、もしかしたら私たちにも、魔力の才が開花するかもしれない。



ーー『魔力~私たちを支えるもの~』

ーーリチャード・ブロスナン著








「…ふーむ、『魔力』かぁ…」



ある昼下り、アリアは自室のベッドに寝転がりながら、読書をしていた。この本は以前、アリアが子狼たちと出会った日に読む予定だったものである。二匹の世話に追われ、結局読めていなかったのだ。


ちなみに、彼女の両隣には黒い子狼が一匹ずついる。アマンダ曰く「お馴染み」の光景らしい。ここ最近はアリアの行くところならどこにでもこの二匹がいる。


というのも、赤紫の方の怪我が良くなってきて、二匹の行動範囲が広がったのが一つの理由だ。そして、もう一つの理由はーー



「私も魔法が使えるようになるのかしら。ルーとウィーはどう思う?」



そう、アリアが二匹の名前を決めたことだ。


赤目のほうをルーフス、赤紫のほうをウィオラと名付けた。どちらも古い言葉でそれぞれ『赤』と『紫』という意味だ。アリアは二匹を愛称で、「ルー」と「ウィー」と呼ぶ。


二匹はそれを気に入っているようで、名前を呼ばれると、無意識のうちに尻尾を振ってしまっている。



アリアが二匹の名前を決めようと言ったあの日から二匹は以前よりも遥かにアリアに甘えるようになった。名前をつけられたことが余程嬉しかったのか、と思うとニヤニヤが止まらない。ルーはそんな様子のアリアを、ジト目で睨みながら、顔にパンチを入れてくる。


しかし、全然痛くないし、依然として尻尾は左右に揺れているのできっと、照れ隠しなのだろう。このツンデレめ。そう思ってにやけると今度はキックを入れられる。最近はずっとこれの繰り返しだ。



一方、ウィーは素直に感情表現をしてくるタイプなので、今はもう、アリアの引っ付き虫と化している状態で始終、自分の身体をアリアの身体にぴっとりとくっつけている。


また、あま噛みしたり、ペロペロと舐めてくるものだから、くすぐったくてしょうが無い。特にアリアの首筋に顔を埋めてそこを舐めてくることが多く、首を狙うなんて、これが獣の本能ってやつかしら、と内心びくびくしている。



そんな感じで二匹はアリアから離れようとせず、アリアが行くところ行くところ全てについて来ようとする。この間、トイレにまで入ってこようとした時はさすがに焦った。


ここまで懐かれると、少し戸惑うところもあるが、嬉しいことには変わり無いので何をされても許してしまうのが今の現状だ。


夕暮れの森での出来事が遠い昔のように感じる。




アリアと二匹が出会って一ヶ月が経とうとしていた。











二匹の名前はラテン語からつけました。

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