玉蘭に散りにけり
軍刀に溺れ果て、錆びる留金。今凭れ掛かる革の椅子。
鞘より放てば散れる雨音の、君と音無。夏の香。
「在りし日々の君の背姿に流星を」
想ひ返して染まる鋼の、きらむで散りぬるを。
弓と張る月、唄ふ鈴虫。思フ侭走った墨のあと。
名は轟けど空の盃。時代は移れど、君の影。
「在りし日々の君の横顔に彗星を」
酌み交わして触れる指先。忘れてなるものか。
駆けめぐる夢と荒野、馬の背に崩れたら。
茜射した道半ば途絶えた友人の。
名を叫べよ。その残り火に。
無性に。縋りつけたら。
若かりし日々への手向けに。花を介して。
肩を並べる野暮を許せよ。
と。