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なりゆき任せの戦国生活  作者: ハナヒル 
6/8

『生きていくだけでも大変な世の中みたいだけど、 何とかなるよね。』 五

うひひゃう。


二ヶ月以上も間を空けてしまった。

折角ブックマークして頂けたというのに、お蔭様を持ちまして、数が減っており申す。


いけませんな・・・・反省しろ、自分。





虚ろな目をしてとあるモノや話しを忘れようとしていると、またもや静々と誰かがやってきた。

先ほどのお手伝いさん達とはまた違う女性達だ。お手伝いさんどんだけ居るんだ…

あ、お手伝いさんじゃなくて…───っおぉっと、なにか思い出しかけた、危ない危ない。

それにしても、今度のお手伝いさんはさっきよりも人数が多い。

やはり十二単を着た女性が先導してるのは同じだけど、今度はほとんどが簡素な着物の人ばかりだ。

視線を上げないようにしながら、捧げ持つように足の付いたお膳を持って方仁さんの方へとやってくる。

よくあれでこけないな。


「主上、お待たせをいたしました。」

「おぉ、きたか。待っておったぞ。」


十二単の女性の言葉に、方仁さんが言葉少なに応じている。

その返事だけで女性には十分だったみたいで、お膳を持った人たちに、これはここそれはそちらと指示を出して置かせていく。

お陰で、座っていたボクにもお膳に載っているものが見えるようになった。

いくつかのお椀に、具材ののったお皿。うん、朝ごはんだ。

テレビで見たことのある旅館の一場面みたい。あんまり旅行経験が無いので、なんだか湧き立つものが。

並べられていくお膳をわくわくしながら見ていると、えらくお膳の数が多いことに気付く。

いやまあ、ずらずらと来てた時点でおやっとは思ってはいたんだけど。

方仁さんとボクの分にしては、これ多くね。てか多過ぎるよね。全部で14膳もある。

あ、そうか。当たり前だけど房子さんも食べるよね。

って、それにしても多いけど。

方仁さんもそう思ったみたい。


「ふぉっ。なんじゃ、えろう多いの。」


並べられるお膳を見ながら、そう洩らしてる。


「はい。新大典侍より、今朝は親王様がたや皆様で共に朝餉をおとりになると主上が仰せあるということにて、こちらへお運び申し上げました。宜しかったでしょうか。」

「左様か、新大典侍がのぉ。そうであったか。ならば全てここでよい。任せる。」

「はい、では。」


方仁さんの洩らした声に、何か手違いでもあったのかと動きを止めていた皆さんが、ほっとした様子で再び動き出す。

ご主人様に怒られるから、て事では無いだろうな。仕事に誇りをもってそうなプロな感じの方々だから、連絡の行き違いや手際の粗相をこそ恐れるに違いない。

それゆえの安堵なご様子なんだと思う。

まあなにより、方仁さんなら大抵の事に腹立てそうにないしね。

新大典侍って、房子さんの事だったっけかな。


「今日は賑やかになりそうじゃのぉ。」


そう言ってまた相好を崩す方仁さん。

ほんと、にこやかな人だ。

それにしても、賑やかに、か。横で聞いてた感じだと、家族がくるからっぽいけど、今日はってところがみそだね。

普段は静かってことだよね。

お金持ち、それもかなりのっぽいから、忙しくて中々一緒にはご飯を食べれないとか。

あー、うんうん。我らパンピーこと一般ピープルのご家庭でもよくある話っぽいし、きっとそうなんだろうなぁ。あ、ボク一般家庭じゃなかった。

とにかく、そんな団欒にお邪魔していいんだろうか。

やっぱ遠慮した方が。


「しきたりがどうのと煩くてのぉ。いつも朝は一人でおるんじゃが、それが侘しくてのぉ。今日は子等と共に食せるようじゃ。これはハルのお陰じゃな。」


なんてホクホク顔でおっしゃる。

こんな顔で言われたら、やっぱりご遠慮しますとは言いにくい。

あれ、しきたりで独りで食事?

忙しくて一緒に食べられてないって事じゃなかったのか。

しきたりかぁ。田舎のお金持ちだから、ボクみたいな庶民では窺い知れないやつってのがあるんだろうかなぁ。

庶民には庶民の、お金持ちにはお金持ちの苦労、ってやつだねぇ。

なんにしろ、諦めてご相伴に預ろう、うん。





畳の位置が直され、歪な凹字に配される。そこに並べられたお膳を前に、方仁さんと雑談して過ごすこと、しばし。

ご飯もとっくに冷めてるんじゃないかな、と思われる頃、複数の足音が耳に届いた。

あ、これはお子ちゃまだな、と思わせる騒がしいものが幾つか。

その大きな足音が近づくにつれ大きくなり、やがてそこそこ離れた雨戸の向こうに、幾人かの女性と、その彼女達に手を引かれた幼児が姿を現せた。

う~ん、やっぱり平安ちっくなコスプレ姿だ。

それぞれ柄模様はシンプルだけど、艶やかな色合いの十二単で身を包んだ女性たち。そして、飾り気はなくて無地ながら、上質そうな質感をもった拵えの着物を着ているお子ちゃまたちが近づいてくる。

朝からこんな衣装着込んで大変だ。文字通りお手伝いさんに手伝って貰ってるんだろうけど、毎日これだとボクなら堪らないだろうな。

方仁さんに文句言ってラフな格好での生活を勝ち取るに違いないよ。



まあ、苦にならないからこそ方仁さんとご結婚…あ、そうか。奥さん達、になるから結婚はしてないのかな。

はっ!いかん、深く考えてはいけない。



でも、やっぱり方仁さんかなりのお金持ちっぽいし、このご時勢、安泰な生活の為には皆さん多少の趣味やアレコレには我慢して付き合って…

ああっ!いかんいかん、深く考えちゃいけないんだった。



それにしても、お手伝いさん、みんなそんな立場らしいけど…お子さんが出来た出来ないで、お妾さんがお妾さんのお世話するされるとかどんな気持ちで…

って、いかんいかんいかん!だから深く考えたらダメだって!



危険だ。ボク自身の心の平穏の為に、ここは無心でおらねば。

こんな平和そうな感じなのに。水面下のことを想像すると恐ろしくなるぜ。

なんてボクが遠い目をして逃避ちっくな事している内に、方仁さんのご家族がそれぞれお膳の前に。

あ、房子さんだ、何時の間に。

ってボーっとしてたのボクだけどさ。

房子さんの両脇に居るのが房子さんのお子さんかな。

男の子と女の子。

男の子は、まだまだわんぱく盛りな感じ。小学校にあがるかあがらないか位かな。

女の子は、ボクとそうはかわらないお年頃だろうか。房子さんと同じように、重そうな単を重ねて着ている。

あ、女の子と目があった。

うはっ。ツンっと目を逸らされちゃったよ、たはー。いかにもお嬢様って印象。語尾に、でしてよ、とか付けそう。

ちなみに、方仁さんから見て左手に、男の子、房子さん、お嬢様の順に並んでる。

そしてその3人に向かい合う形で、同じように女性が3人。

一人はまだまだ小さな女の子だけど。

その女の子を挟んで、多分女の子のお母さんだろう女性が方仁さんに近い位置に。

女の子と若干距離を置いて、もう一人の女性が座っている。

この7人で、一応家族の関係にある全員なんだろう。

うぬ、ボクは方仁さんの横に座っているんだけども、実に落ち着かない。

いざこうなると、途端に所在ないというか。

男の子と女の子は、いかにも不思議そうにじーっと見てくるし、お嬢様は気にしてませんてなのを装ってるし、奥様がたは子供たちとは違って、見事なまでにスルーしてるし。

ボクは一体どうすれば…逃避してないで、皆さんが来たときにさっさと挨拶出来ていれば。悔やまれる。後悔先に立たずでしてよ!

たすけて~、ミチえも~ん。




皆さんが各々の位置につき、身を落ち着けたところで、ミチえも…方仁さんへ視線が集まる。

あ、お子ちゃまズの視線はボクに釘付けだ。我ながら、幼児モテモテな自分が恐ろしい。


「新大典侍、目々典侍、大典侍。うむ、皆、今日も健勝そうでなによりじゃ。」


法仁さんの言葉に合わせ、女性たちが(お嬢様も含む)が頭をさげる。


「主上におかれましても、ご健勝のご様子。わたくし共も、お慶び申し上げまする。」


女性たちを代表して、房子さんさんがそう言うと、残りのかたもお慶び申し上げますると続いた。

見事に声が揃ってる。練習でもしてんのかな。


「よいよい、身内しかおらんのじゃ、そう畏まらんでもよい。面をあげよ。」


その言葉に、これまた見事にタイミングを合わせて顔をあげる皆さん。なんかすげーな。

うちの学校の生徒達は、校長先生どころか、クラスで担任に対する時でもこうはいかない。見習わせたいもんだ。


「久しぶりの身内そろっての食事じゃ。行儀なんぞ堅苦しいことは無しでよい。」


うんうんと頷きながらの法仁さんのお言葉で。

実際言葉の通りなんだろうけど、途中でちらりとボクの方を見た感じ、気を遣ってもくれたんだろうな。

そういう所は気のつくおっさんである。


「ありがたきお言葉にございます。」

「されど…」


房子さんが応じた言葉のお尻に、女の子のお母さんと思しき女性が、ボクを見ながら濁した言葉を繋げた。

家族が揃っての久しぶりの食事ってのはほんとなんだろう。お子ちゃまズの表情というか反応でそれとなくわかる。

実に嬉しそうだ。それなのに、なんか混ざってるんですけど…ってなもんだ。

うん、ボクは身内じゃないよね。


「おう、この者の事じゃな、目々典侍よ。」


さもあらん、て感じで法仁さん。


「この者はまぁ、なんだ。うむ、気にせず流せ。わしの客人じゃ。」

「まぁ。主上のおきゃくじんと。ですからそのように、御傍におられるのですね。そのように御傍に置かれるとは、よほどの御家門のおかたのようで…」


小さくお口を開いて驚いて、納得したふり。手にしていた扇でお口を隠すこともわすれない。んま、お上品。


「では、お二人でお過ごしになられた方がよろしいのではございませぬか。」

「いやいや。折角じゃしの、皆で朝餉を取ったほうがよいと思っての。」


房子さん発案っぽかったと思うけど、そこはそれ。


「左様でありますか。では、そのように。」


そんな風にして、短いやりとりが終わる。

あ、これはあれだな。なるほど。気にはなるけど、それ以上詮索しないで流す為の質問と返答って流れなんだな、これ。

上品だけど遠まわしだなぁ。大人だなぁ。


「目々典侍、それに大典侍よ、この者はハルという。四つの方のハルと申すそうじゃ。」


法仁さんがボクを紹介してくれる。女の子のお母さんがどうやら目々典侍さんで、その向こうの女性が大典侍というみたいだね。


「申す…そうじゃ?」


法仁さんの紹介に、大典侍さんがそう呟く。

たしかに。お客さんの紹介としては、語尾がおかしいよね。


「うむ。わしも昨夜あったばかりでのぉ。よく知らんのじゃ。ふぇっふぇっふぇ。」

「昨夜あったばかり…」


法仁さんの突っ込みまちとしか思えない説明に、大典侍さんがまたポツリ。

方仁さん、客を紹介するのに、それは無いと思うんだ。まぁ、ボクが方仁さんの立場でも、説明に困るかもしれないけど。

それにしても、大典侍さんは呟き系の人?声自体は小さい訳じゃないからよく聞こえるんだけども。


「まぁ、細かい事はよいよい。」

「そこは流石に気になりまするが。先ほど、流せとおっしゃっておられましたゆえ、そのようにいたしましょう」


手をひらひらさせる方仁さんに、目々典侍さんがそう応じると、大典侍さんもコクリと無言で頷いた。

理解のある奥さん達だ、すげーよ。


「このようにして、一同会すことなど、久方ぶりの事!主上のお言葉通り、些細な事は気にせず朝餉をいただきましょうぞ!」


房子さんがそう、お元気よく。


「些細、ねぇ…」


その横で、お嬢様が横目のジト目でボクをみつつ呟いてくるけど、誰もそれにはノータッチ。

スルーと決めたからには、更なる異論は誰もないようだ。


「そしてハルよ、この者達がわしの、えぇと、奥さん?と子等じゃ」


おっと、ご紹介タイムか。


「このおのこがわしの跡継ぎで、誠仁という。」


ふむふむ、誠仁くんかぁ。

左手で示された誠仁くんが、好奇心満載の笑顔でボクに体を向けた。

胡坐かいてるのに、器用にくるりと。

それにしても、お子ちゃま誠仁くんの胡坐姿、なんだかぷりちぃ。


「誠仁と申します。ハル殿、よしなに。」


ぉぉぅ。とてもお子ちゃまらしからぬご挨拶。このハル、感服致しましたぞ。

まぁ口調は歳相応なんだけど。そこが逆にこれまたぷりちぃ。目覚めそうだぜ。

おっと、まてまて自分。変な扉に辿りつくな。門前で引き返すんだ。

慌てて、ペコリとお辞儀で返す。


「そして、新大典侍とその娘の永少。どうじゃ、わしの娘は実に見目良かろう?」


自慢の娘を他人に紹介する親ばか丸出しの顔な方仁さん。

思春期の娘さんが、その顔見てなんか微妙な顔してますよ。

そして方仁さん。たしかにお綺麗ですが、中々に温度が感じられない瞳でお嬢さんがこっち見てるんですが。

お客さんを紹介されてる態度じゃないと思うんですが、その辺りどうよ。


「まぁ多少、険のたつ感じがあるがの。そこがまた良いのじゃよ。ふぇっふぇっふぇ」


あ、承知の上でなんですね。

すげーな、親が飼ってる馬と鹿の力は。性格に少々の難あれど、か。素晴らしい。いいお父さんだね。永少さんは、実に親の心子知らずって感じそうだけどさ。

まぁいいお父さんだからといって、いい旦那さんかは知らんけど。

あ、思春期の女の子の潔癖さからしたら、その部分がある限りいいお父さんには思えないか。

っと、いかんいかん、だからそっちに考えいっちゃダメだってばよ。

取り敢えず、永少さんには精一杯の愛想笑いをお見舞いだ。

新大典侍こと房子さんからは、優雅に会釈をたまわったので、そちらへも全開ばりばりで愛想笑いを。



「こちらに居る者が、手前から目々典侍、娘の春齢、そして大典侍じゃ。」


ボクと方仁さんから見て右側の三人が、方仁さんの紹介に従って順に軽く頭を下げてご挨拶してくれる。

たぶん、誠仁くんより1つ2つ上位だろう春齢ちゃん。

単を着たおしゃまな女の子って見た目なのに、すんごい落ち着いてて柔らかい表情を見せてくれた彼女がとってもきゅーと。

ああ、まずい。この姉弟はボクをナニかへ強く誘うよ。特に春齢ちゃん。ぐへへ、とか笑いながら膝に乗せたくなる。危うい魅力が満載だぜ。

もともと子供好きの自覚は大きくあったけどもさ。

負けるな自分。心を強く持て。



「ご紹介に与りました、よつのかた ハルといいます。お邪魔させていただいております。」


イタい目を向けられて痛い目を見る前に自分を取り戻すため、ボクは姿勢を正すと、深々とお辞儀した。

勿論、お行儀よくご挨拶する為ではあるけども、一番の理由は、春齢ちゃんを視界から強制的に外す為だというのは、自分の心にも気付かせてはいけない。





いひ。

あ、丸々三ヶ月も空いてた・・・・




(サイレント土下座)

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