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なりゆき任せの戦国生活  作者: ハナヒル 
2/8

『生きていくだけでも大変な世の中みたいだけど、 何とかなるよね。』 一

ん~~~。

冷たい…なんだろ。

水・・・かな?

なんか、耳元でちゃぷちゃぷいってる。うん、水だね。

ん?あれ、もしかして、ボク水に浸かってる?

いやこれ、浸かってるよ!


訳がわからないまま、跳ね起きる。

やっぱり水に浸かっていたみたい。目の前に水面があり、未だ半身は水のなかだ。

おー・・・なんだこれ。状況がわかんない。

暗いぞ。真っ暗だ。

寝ていたのかな。水の中で?

考えのまとまらないぼーっとした頭で、とりあえず、冷たいので水の中から立ち上がる。

どうやら浅い池の端みたいで、足首まで水に浸かっている。

着ている服が水を存分に吸っていて、肌に纏わりついている上にやたらと重い。

見下ろすと、暗いながらも着ている物がぼんやり見える。見えなくとも、ある程度は着心地でもわかる。

普段着ているタンクトップにジーパンじゃない。

これは、和服だ。

それも、所謂「着物」というのとは違い、平安時代の貴族が着ていそうなやつである。


・・・なんぞ?


などと思ったのも少しだけ。

着ている物を見ていて、働かない頭でもはたと色々思い出す。

これはあれ、エキストラで参加していた時代劇物の衣装だ。

ま、時代劇とかその辺の詳しい話は今は置いておくとして。

今着ているこれは、その役の為の衣装。

地元特産特殊織りの綿の白い内着に、若草色に染められた総絹仕立ての上掛けの羽織が目にやさしく、それでいて鮮やか。の、はず。

暗くて今は見えないけれど、昼間に見たときはそうだった。

って、回想に耽りそうになったけど、衣装の事も、それにまつわる事もどうでもいい。ほんと、どうでもいい。

今は、この状況だ。

なんで池の中なんかで寝入ってたんだろ。

思い出せる記憶では、たしか衣装に着替えさせられて、台本読みながら出番待ちしていたはず。

それも、撮影の為に立てられた本格的な木造家屋の端っこで。

まぁ正確には、台本読もうとして居心地良さそうな部屋に入ったものの、気持ちよくなって居眠りこいてた気がするけど。

例えそこで居眠りこいたとはいえ、いや、だからこそ池の中に入る要素がない。

まさか、寝ている所をスタッフの悪戯で池の中に・・・?

いやいやいや。

そんなの無いだろうし、もしそうだとしてもこの状況はおかしい。

周囲に誰も居ない。人の気配がまったくないんだもの。

それに水の中にいれられて、即起きない程鈍いなどとは思いたくない。

で、あるならば、だ。

あるならば・・・なんだろう。

というか、そもそも、撮影機材がどこにも見えない。ある程度シーン撮りが済んで片したのだとしても、一切の機材が見える範囲にないなんて変だ。

照明用スタンドや、機材用のテントなんかもないのだから。

どこを見渡しても、街灯の灯りのかけらも見えない。

この辺りは撮影に影響されて街灯が増設された地域だ。いくら田舎ったって、灯りが見えないなんてそんなのありえないし。

気温はどうやら高いみたいだけど、水に浸かってたせいで体温が下がってて、ちょっと寒い。

いやはや、まったくわかんない。

そう口に出して、今更ながら池から出た。

すると裸足の足先に柔らかいものがあたる。目を向けると、影になった塊が。

しゃがんで手にとってみる。

これはもしや。

明かりの無い中、手探りでまさぐる。

手触りは、慣れ親しんだボクのデイバッグだ。

突然の雨だろうが、朝から降り積もる雪だろうがなんのその。田舎の若者の必需品。防水性抜群でしかも耐久に優れた特別製の帆布デイバッグである。

ボタンを外し、ジッパーを引き下ろし、中に手を突っ込む。

がさごそと中を手探りで漁り、月明かりのなか引っ張り出して確認する。

タオルが二枚。そして携帯式ウォシュレット(田舎のトイレにウォシュレットなんて期待しちゃダメ!)。愛用のスマートフォン(中古)にかなり型の古いノートパソコン(もちろん中古)。ワイヤレスイヤフォン。ソーラー兼ダイナモ充電式万能バッテリー(結構重い)。財布にノート一冊と小さなメモ帳が一つと、筆箱などの文房具。

うん、全部ある。

あえて言えば、台本だけがないけども。

一応念の為、財布の中身も・・・うん、あるね。小銭しか入ってない現実は無視。

よし、身一つでほったらかしにされた訳じゃなさそうだ。

そうとなったら、とりあえず人を探そう。


池から離れ、足裏にやさしい土の上を、一番近い建物へと向かって進む。

10m程も歩けば辿りつけたが、目線の高さ以上の位置に露台があり、とてものぼれそうにない。

こんなに高床のセット、あったかなぁ。

記憶に無いそのつくりに首をかしげつつ、とりあえずその縁にそって、あがれそうな所をさがしてみる。

しばらく歩くと、階段状になった部分があった。

早速あがろうとして、ふと立ち止まる。

綺麗に磨かれている筈の木材の建材の床に、この姿であがるのはどうか?

全身ずぶ濡れで、足は土で汚れた裸足である。

セットを汚せば、怒られた上に掃除をさせられるのは確実だろう。かなり躊躇われる。

タオルで拭けば・・・うーん、ここまで汚れてる足を、100均とはいえお気に入りのフェイスタオルで拭くのはなんか嫌だ。

さてどうしよう、と考えていると、ふと人の気配とでもいうべきものを感じて顔を上げた。

見上げた露台の上に、おっさんが一人。

なんと言えばいいのか。

月明かりに浮かぶ顔は、これぞ由緒正しき日本人、といえばいいのか、そんな顔立ち。

30後半から40過ぎかな?

白い寝巻きっぽい和装を着て、僕を見下ろしている。


「あの、今晩は。すいません。少しお聞きしたいことが…」

「童子、如何にした?」


ん?

とりあえず挨拶して、この撮影場所に関して色々訊こうとしたら、かぶせるようにおっさんが喋った。

にしても、「ワラワ、イカニシタ」とはこれ如何に?

あ、如何にか。

ワラワ?このおっさん、まさかのオネエで、女王様的な一人称とか?

まさかね。


「直答さし許す。とく答えよ。」


こたえあぐねていると、重ねて声がふってきた。

ここで何となく察した。

所謂、時代劇言葉だ。

衣装からして、おっさんなりきってる。

てことはあれかな。ワラワは、子供とかの童かな。

にしても、おっさん言葉がたりないよー。

それと、こっち挨拶してんだから、挨拶で返してよ。お母さんに教えられなかったのかな、まったく。


「えーと、如何にときかれても、何を問われてるのかがわからないんですが。こんな所で何をしているのかという事なら、ボクにも実はわからないんです」


とりあえず正直にそう答えると、おっさんはおやっという表情で覗き込むようにしてくる。


「その衣を見るに、昇殿ゆるされておる者の身内であろう。いずこの者か。」


昇殿。たしか、宮中への出入りができることだっけ。やたら豪勢な衣装だから貴族身分の役柄と思われたんだな。

にしても、正直、おっさんが成りきり過ぎてて、面倒くさい。


「あ、○○の四方のハルといいます」


地元では四方の苗字がそこそこ多い。というか、四方以外でも同じ苗字のご家庭が多いので、市内では「○○の」と町名を自己紹介の時につけるのがならわしだ。

ちなみに、四方と書いて「よつのかた」。

ご先祖が、四方を山に囲まれた村落に住んでた事から、明治の頃村に来た役人に名簿にそう載せられたらしい。読み方は、当時の村長が格好いい呼び方がいいとかなんとかで、こんな読み方に。


それはともかく、折角名乗ったのにおっさんは首を傾げるばかり。

あ、この名乗り方を知らなさそうって事はもしかして、他県とかの本物の役者さんかな。演技指導でたまに請われて来るから、そうかも。

だとしたら、この成りきりぶりも理解できる。


「ところで、失礼ですが、どちら様でしょうか。」


そう訊ね直したところ、何とも言えない顔をされた。


「朕を知らぬとな?それなりの位階の家の者であると思うたが」


おっさんを知らない事に驚かれてしまった。

そんなに有名な役者さんだったのかな。これはかなり失礼したかも。

てか、若干言葉遣いが変わったね。


ん、まって。

今、なんてった。

チン?

名前かな…中華系のひと?うーん、文脈的にそりゃないか。だったら一人称?

日本語で一人称のチンなんて誰が使う言葉かは知っている。

最近映画で使われてるとこ観たし。面白かったな、終戦の皇帝。


てことは、天皇役か宮中言葉の指導に来た人なのかな。


「朕は方仁(みちひと)である」


これで流石にわかるだろ、的な感じで名乗られた。

うん、流石役者さん。いいドヤ顔である。


毎日投稿してる方々、凄いわー。

改めて実感しました。

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