序
小説自体書くのが初めてです。
小説家になろう!の主義に反して「小説をかいてみたい!」が投稿理由です。
他で書けよ!と言われそうですが、ここの作家さん達のを読んでるうちにそう思ったので許してください…
上手くなりたいので、指摘・批判がくると喜ぶかもしれません。Mではないですが、そこはそれ、そんなもんです。
お暇なときに読んでいってやってください。
苦しゅうない、皆、面をあげよ。
時代劇でよく耳にするこの言葉、まさか私が口にするようになるなんて。
私の言葉に一拍置いて、御簾の向こう、一段低い位置で平伏していた者共が身を起こす。
誰も口を開かない。
私が許しを与えない限り、この者共は決して声を発しない。
それが、この場、この建物の中でのルール。
私と、この者共との立場の違い。
身分、というやつだ。
不思議なものである。
こんな風に傅かれる身になった今でも、慣れないものだ。
しかし、何でもない風に居住まいを常に正さねばならない。
それが私の今の役目だ。
弾正忠殿、直答さし許す。近う寄れ。
その言葉にあわせ、居並ぶ者共の一番前、中央に座していた男が立ち上がり、一歩、二歩と前に出て再び腰を下ろす。
大して近くもなっていないが、これがこの場の作法である。
特別に誰よりも前に。私に近づく事を許された。そういう、形のない特権を与えられた者、というのを表したルールの一つ。
馬鹿げている、面倒くさい。
心底、そう思う。
でも、そのルールに基づいた、目に見えないもので守られているのが今の私であり、私の家族達だ。
面倒だ、という理由だけで端折ることも出来ない。つくづく面倒なことである。
して弾正忠殿、此度は如何な用にて呼びたもうた。
たもうた、だってさ。むず痒くなるね。
いわゆる「おじゃる言葉」である、のじゃ、は使わない。それがなけなしの私のプライド。
実際は呼ばれて来た訳ではない。それどころか、私は一歩も外に出てはいない。
でも、こうして会ったということだけで、「求めに応じて、仕方なく、会ってあげたんだから、ありがたく感じなさい」という意味合いを込めて、こう言うのだ。
本来なら会うのも難しいんだぞ、と居丈高に上から目線で。
キャラじゃないんだけど、皆の目の前ではそう言うしかないのが私の立場だ。
面倒くさい。
男が若干頭を下げながら、朗々と言葉を紡ぎ出す。
見知った神経質そうな胡瓜によく似た顔も、見ずにすむのでありがたい。
相変わらず、キンキンと高い声も癇にさわる。でも我慢、我慢。
まだまだ続く男の奏上。
如何にもふんふんと聞いてるふり。
奏上内容など、とうに知っている。これも様式美だ。儀式だ。必要な事だ。
面倒くさい。
はやく終わらないものか。
さっさと、
許す。弾正忠殿、皆に伝えおく。よきに計らおうぞ。
この言葉を垂れ流したい。
それで私の役目は終わるのだ。
そうすれば、この重たい衣装も、堅苦しいあれこれも脱ぎ捨てて、家族の下に戻れるというのに。
ええい、胡瓜野郎。まだ終わらないのか。雰囲気に酔ってノリに乗ってきて、必要ない修飾語とか過剰な演出混じってるんじゃないか。
相変わらずの陶酔野郎だ。
いや、我慢我慢。
もうちょっとだ、多分。
そんな風に胡瓜野郎、もとい弾正忠殿のことを心の中でこきおろしていると、いつのまにやら結構な時間が。
しーん、なんて擬音が文字となって目に見えそうに静かになっている。
御簾の向こうから、皆がこっちを見ているのがうっすら判る。
ふふふ、演出だよ諸君。わざと勿体ぶってタメをつくっているのだ。決して、そんな、あれだ、聞き流していた訳ではない。
なんて口に出せるわけもなく。
内心の焦りを面には出さず、いかにも大仰そうに、言葉を与える。
許す。弾正忠殿、よきに計らえ。
あ、しまった。焦って文言間違えた。
・・・ま、いっか。
予定通り、うん予定通りだよ。
なんか言葉面的に、胡瓜野郎主導で事を運ばせるような感じになってるけど、流石に事務方でなんとか修正してくれるに違いない。
そう考えて、壁際に座る事務方のトップのおじさんに目を向ける。
御簾ごしなのに目が合った気がした。
なんかやたら重いため息つかれたけど、まぁ思いは通じたとして、これはこれで終了。
それにしても、ただ一言、形としては何もないものを与えるだけで、この男には権威が付与されるのだ。
目には見えないけどそこにある形だ。
その見返りに、とりあえず家族の、そして我々の豊かな生活は約束される。
今の私の家は、権威はあるけども、それだけだ。
身を粉にして働くわけにはいかない。そういう身分。
はっきりとお墨付きを与えるのが憚られる義父に代わり、私がこの場に居るのもその為だ。
今こうしている表の顔とは違う、自由に動き回れる本来の私がなんとかするまでは、対面を保つのもぎりぎりの有様だった。
弾正忠殿、この男。
この男を手放す訳にはいかない。
今は。
全ての儀式が終わり、私は席を立つ。
皆が一斉に頭を垂れ、平伏する。
控えている者が開く扉を通り抜ける手前で立ち止まり、少しだけほぼ目線だけで振り返り、一番手前で頭を垂れる男を見る。
今はこの男を手放せない。
あくまでも今は。
神経質そうな胡瓜野郎。
織田信長というこの男を。
あ、そうそう。
弾正忠殿、此度の事大儀である。我の独断であるが、年越しにでも、従三位参議に任じようと思うが、如何かの。
これで、更に色々融通を引き出せるだろう。
如何かの、なんて〆ておきながら、急いで平伏し何か言っている胡瓜を気にすることなく、私は一瞥を残し、裾を払いのけるようにすると、その場を去った。
仕事の合間合間に書き溜めていくので、投稿はいつになるやら…
書き続けないと上手くならないと聴きますのに、残念な事です…