10ー8
ヴィグは今まで数多の女たちの心を虜にしてきたキラースマイルをマリィに向けた。
マリィは、受けて立つように、極上の微笑みを返した。
表面は和やかなのに、はたから二人のやり取りを見ていたものは、その水面下で交わされる無言の戦いを感じとり、その場は鎮まりかえり、周りのものたちは二人の動静を固唾を飲んで見守っていた。
先に沈黙を破ったのは、ヴィグだった。
「ルリに会いに来たのだ」
「ルリ様は貴妃でございます故、庇護を与えたカイラス・バルク・ロザ・オビの許可がなければ、お会い出来ません」
マリィは、当然だというように、魁偉のヴィグに対峙し、引くことはなかった。
「俺が送った文は、ルリがオビ語の読み書きが出来ないからと、カイラスが返事を寄越すが....。男と文通など、する気はないのでな。
ルリが文を返せないのであれば、直接会えば良いことに、気がついた」
「重ねて申し上げますが、許可なくルリ様がお会いになれば、バルク・ロザに罰せられるのはルリ様でございます。どうか、お慈悲を賜わりたく...」
マリィがいい終わらないうちに、ヴィグが命令しなれたものの言い様で、マリィに言った。
「俺は、気が長いほうではない。
お前たちが俺に、ルリを会わせるか、それとも、俺がバルク・ロザにお前たちの躾けのなさを訴えるか。
俺が、家臣たちにぞんざいな扱いをされたと言えば、優しいカイラスとて、お前たちに何らかの処罰を与えることになるだろう。
どちらが、良い?
ルリがカイラスから罰を与えられるなど、そんな理由を良く思いついたものだ。
そんなことはないはずだろう?
カイラスが、ルリにベタ惚れなのだから。
それで、ルリはどこにいるのだ?」
ヴィグは笑顔ではあったが、周りのものに否を言わせないつもりのようだ。
マリィが重苦しい雰囲気のなか、口を開いた。
「お約束いただけますか?ルリ様を傷つけるようなことはなさらないと」
「ルリを傷つけるようなことをするはずがないが?果たして、その約束の意図はなんだ」
ヴィグが口の端を上げて、面白がるように、マリィに投げ返した。
ヴィグの言葉には返さずマリィは「ルリ様がいらっしゃる温室にご案内いたします」と
ヴィグを導いて庭園に向かっていった。




