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「奥」の扉を慌ただしく叩く音がした。
マリィが扉を開けるのと同時に、「表」でカイラスの代わりとしてブラックウォードの留守を預かるナオが居室に入ってきた。
ナオはマリィに事情を説明するよりも、先に居室のなかを、誰かを捜すように目をやっている。
慌てぶりに、マリィは眉を顰めた。
「どうされたのです?」
「ルリ様は?ルリ様は、どこに?
あの方が、このような時に訪ねてくるとは。
殿下の耳に入ったら、大変なことになるだろうに」
慌ててるのか、いつも冷静で顔色を変えることがないナオが動揺していて、ナオとは職務上長い付き合いだったが、そんなナオを見たのは、初めてだった。
マリィは、動揺しているナオを辛抱強く促して、説明を求めた。
「ルリ様なら、先ほどから、庭園の温室にいらっしゃるはずですが?
ナオ殿、落ち着いて、ことのあらましをお話し下さい。まったく、話が見えませんわ」
ナオが乱れた呼吸を整えるように、ひとつ深く息を吸い込んだ。
マリィの促しで、自分を取り戻したような表情になった。
「失礼した、家政務長。
ルリ様を訪ねて、ハイラルから王太子ヴィグローヴァ様が急にいらっしゃっている」




