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1ー9

寝室に戻ると、待ちくたびれたのか、女は寝台で、また、眠りについていた。


身体を丸め、赤子のように無垢な様子で。


身体は女の色香を感じさせ、子を成すことも可能に思えたが、目を開けた、その表情は、まだあどけなさを残し、見た目よりも年若いのかもしれなかった。


「女神の口づけは、その甘さゆえ人間の男を虜にし、流す涙は甘露の妙薬」


オビの言葉を小さく口にし、子どもの頃に母に聞いたお伽話にあったように、無防備に眠っている女に口づけた。


慎重に、だが確実に口づけを深めていくと、女の目が見開かれ、眠りから覚めたのが分かった。


女は力の限り抵抗しようと、カイラスの胸に両手をついてきたが、体重をかけ、その動きを封じた。


顔を左右に振り、必死に逃れようとする。


こういうやり方で女を征服するのはカイラスの趣味ではなかったが、確かめたい気持ちのほうが大きかった。


暴れる女の両手を、女の頭上で片手でひとまとめにし、女を組み敷いた。


女は恐怖を浮かべた瞳を向け、強張った表情で力の限り叫んでいる。


舌を噛みきられてはたまらないので、女の首筋に口づけた。


女の首には、銀色に光る細い鎖と初めて目にする形の装飾品があった。


オビでは、女が身につけるものは庇護を与える男が贈るので、チラと、女は、もう誰かのものなのかと考えもしたが、その考え自体がなぜかカイラスを落ち着かなくさせ、鎖に手をかけた。


カイラスが力を加えると、女の鎖は途中からちぎれた。


女は傍らに落ちた鎖に目を向け、しばらく鎖に見入っていたが、呆然とした表情をしたあとに、長い睫毛に縁取られた目から大粒の涙を流しはじめた。


カイラスが組み敷いた身体を開放してやると顔を手で覆って、その泣き顔を見せないようにしている。


その姿に、多少の後ろめたさと、装飾品を贈った男を想って泣いているだろうことがカイラスにもわかり、カイラスは女に対してなんとも言えない気持ちを感じていた。


女の手を顔からのけ、女が流した涙を親指で掬いとる。


その涙を、自らの口にした。


女は奇異なものを見るような目で、カイラスのことを睨みつけている。


「生身の女か。」


味わった女の涙は、塩からく、女はカイラスと同じ、人間であった。

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