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ナオの執務補助官室に、マリィが定時の報告に訪れていた。
「表」と「奥」が相互に機能するようにと始めたが、いつしかそれぞれの情報を交換する時間がなくてはならないものになっている。
最近は、ナオとマリィの悩み事相談の時間になりつつあったが。
「アルバンの懸念が、現実になりつつあるようで、お世継ぎなんて、奥では気軽に口にできない雰囲気ですわ」
マリィが、ナオの向かいの椅子に座り眉間に皺を寄せていた。
ナオも最近のカイラスの平静を装おっているが、乱れた机の上を思い出しながら、口にした。
「市場から帰ってきてから、仲良くされてて、殿下は執務室でも、機嫌良くされてましたが、どうされたのでしょうか?」
「寝所を別にし始めて、もうひと月が経とうとしてますからね。このままだと本当に、お世継ぎの顔を私、見られないような気がしてきました」
カイラスがルリに口づけた夜の、翌朝、理由は告げなかったが、ルリのために、寝室を用意するようにマリィに命じたのだった。
ふたりの間に、何かがあったのは、マリィにも理解出来たが、カイラスも瑠璃も決して、そのことは口にしなかった。
カイラスは、寝所を別にしてから、夕食は「奥」で瑠璃と取ることが多くなりはしたが、ふたりの間の空気は、また不穏なものを含むようになり、マリィは、どうしたものか、とナオに相談を持ちかけたのだった。
「思いあたることと言えば、やたらと、ヴィグ様からルリ様あてに手紙が届くことでしょうか?
殿下がことごとく、焼却処分で良いと命じられてますが。まさか、ルリ様に恋文に近いような手紙がきてることと、なにか、関係でも?」
ナオは、カイラスから渡される手紙の束を思い起こしていた。
「まぁ、そうでしたの?
頂いたお祝いのお礼状をおふたりで出したら、その返事に、今度は、ハイラルにもぜひ遊びに来て欲しいとあった、と、殿下から伺いましたけど。
そのあともお誘いがあったのですね」
「どうしたものでしょう....」
ふたり同時に嘆息した。
「ルリ様が殿下を見捨てず、長い目でみてくれることを願うしかありませんわね。...これだから、草食男子は...男なら、男らしく、いけっての...」
「家政務長...」
目の前のナオが、マリィの顔を驚きの表情で見ていることに気がついてマリィはニッコリと微笑んだ。
ーここにも、ひとり、草食男子がいましたわね。




