君の名は
9ー1
城内で、ルリが城勤めのものたちに「あなたのお名前は?」と聞いてまわっていると、カイラスの耳に、何人もの城勤めのものたちから、ちらほらとそのようすが微笑ましいものとして伝えられるようになった。
きっかけは、市場で、女官や従者に買って帰ったお土産だった。
どうやら、そのことは城内のものたちのルリに対する気持ちを変えたようだ。
それまで、腫れものに触るように、ルリに接していた城内のものたちが、ルリに親しく接するようになり、ルリが、ひとりひとりの名前をきちんと覚えたいと言い出したことだった。
「マリィの名前は、陽だまりって意味なんだってね。いつも優しい笑顔のマリィらしいよね」
寝所で、寝支度を整えたルリは長い髪を一本の三つ編みにし、肩から垂らしている。
カイラスは、ルリの豊かな黒髪がいちばん美しく見えるなにもしていない姿が気に入っていたが、髪を緩く編んだ姿も嫌いではなかった。
市場から帰ったその日から、ふたりの間の空気は、より気を許した温かなものになっていた。
寝台の上で、寝転んで、ルリの支度を眺めていたカイラスの近くにルリが寄ってきた。
寝台に並べられたいくつものクッションに上体を預け、脚を伸ばして、寛いだようすだ。
ふたりで眠りにつく前に、その日にあった出来事をルリが報告したり、他愛のない会話をする短い時間。
最近のルリの関心は、城内のものたちの名前とその意味だった。
「ナオは清らな流れ」
カイラスが口にすると、ルリは笑顔になって
「うん。
本人も、そう言ってた」
と、応える。
ルリが城勤めのものたちの名前をきちんと覚えたいと言ったから、カイラスはひとつ知恵を授けた。
名前とともに、その意味や由来を聞いてみると、印象に残り、覚えやすい、と。
それは、カイラスが王宮から、ヴァスキュラに移ってきた時に、カイラスに仕えるものたちを覚えるために使った術だった。
「ルリの名の意味は?」
そういえば、ルリの名前の意味を聞いたことがないことに改めて気がついた。
ルリは編んだ髪の先をいじりながら、少しだけさみしそうな表情をしたが、ゆっくりと口にしたのだった。
「私の名前は、おばあちゃんがつけてくれたの。」




