7ー3
城の表門ではなく、ふだん使われることのない裏門からカイラスに導かれて、瑠璃は城外に出た。
近衛や従者を伴わず、カイラスとふたりだった。
瑠璃が城外に出たところで足を止めてカイラスを見上げると、カイラスも瑠璃の視線の意味に気がついたようで、あたりまえだというように応えた。
「今日は、ふたりだけで市場には行く。
この間も、そのつもりだったのに、早とちりした誰かさんが、そう言えば、市場には行かないとか、ごねていたな。」
カイラスの責めるような視線を受けて、瑠璃は頬が赤くなるのが自分でもわかった。
「案外、カイラスって、いじわる〜
それなら、そうと、先に言ってくれればいいのに」
口を尖らせながら、瑠璃もやり返した。
マリィが居室で瑠璃を送り出してくれたときに、
「どうぞ、おふたりで楽しんでいらして下さい」
と、言っていた意味がようやく解けた。
カイラスが日々、忙しくしているのは、身近で接していれば瑠璃にもわかる。
ようやくハイラル国との交渉が終わり、地方への視察や、王宮への連絡などヴァスキュラの領主としての勤めがあることは、マリィから聞いていた。
自分の時間をもつことだって大変そうなのに、瑠璃のために、時間を作って欲しいとは、心のなかで思いはしても、言えば、それは、瑠璃のわがままでしかない、と思っていた。
カイラスが市場に連れて行くというのも、カイラスにとっては負担でしかないのでは、とも考えた。
だけど、ふたりだけで、バルク・ロザとしてではないカイラスと出掛けられるのは、瑠璃には嬉しいことだった。
「ルリが欲しいと思えるものがあれば、いいのだが」
カイラスが瑠璃のほうを見ずに口にした。
「?」
「女が好む首飾りなどの装飾品を商う店もあるから、ルリが気に入ったら、買うといい。
ルリの....わたしが壊した首飾りには、およばないかもしれないが、ルリに贈りたい」
カイラスは賢一郎のネックレスのことを言っているとわかり、笠井賢一郎のことが記憶に蘇った。
勇気が出せずに、結局、その胸のうちは告げられないままだった。
今、瑠璃の胸のうちにある思いの源は、カイラスそのものだ。
カイラスが瑠璃のネックレスを壊したことの詫びとして、新しいものを買ってくれるらしい。
「大切なものではあったけど」
瑠璃のなかでは、賢一郎よりもカイラスの存在のほうが大きくなっていたのだ。
なくなったネックレスが、賢一郎への淡い思い出をも持ち去ってしまったような気がする。
複雑な気持ちをどう言い表せばいいのかわからずに、瑠璃は口を閉じた。




