溜息のゆくえ
6ー1
ヴィグにもらった宝石-ヴァイオラニの涙-のお礼状を書いてはいたが、なんの言葉も思い浮かばず、透かし模様の入ったいかにも高そうな便箋を前に、腕組みしたまま、瑠璃は固まっていた。
オビ語は、まだ、書き取りの練習をしている最中なので、日本語で書いたものを、カイラスに代筆してもらうことになった。
久しぶりに使う日本語が懐かしく、いろいろなことが胸に迫った。
ヴィグとは、ある意味裸のつきあいのある間柄とはいえ、瑠璃はヴィグのことをなにも知らないことを思った。
「ヴィグはカイラスと親しいの?」
出会ったときに、カイラスのことをクソ真面目しか取り柄がないとか、かなり、ひどいこと言ってたような気がするが、あれは、瑠璃の空耳だろうか。
瑠璃のようすを見守っていたマリィが返した。
「オビ近隣の友好国のなかで、殿下と歳も近く、殿下がハイラルと国境を接するヴァスキュラを治めるようになってからは、毎年、顔を合わせていますわね。
王族同士で歳が近いので、お互いに気安い間柄ではあるようですけど。
親しいとまでは、いかないのではないでしょうか。
ルリ様に下さった祝いの品も、あまりに、突然のことでした。」
カイラスとマリィに内緒にしている出来事が心苦しく、瑠璃は話題を変えた。
「どんなひとなの?」
マリィには決して言えなかったが、全身につけられた傷跡と、隻眼の理由が気になっていた。
「ハイラルに生まれた男子は、勇猛がいちばんの美徳とされるのです。
王族男子はとくに、それを求められるので、元服のときに、野生の獣を倒すことが成人の証として、また、王にふさわしい器として課されておりますから、
ヴィグ様は大熊と闘ったと聞いたことがあります。
そのときに、片目を喪ったと、自慢話のひとつとしてしていた、と殿下が仰っていました。
あ!ほかの自慢話もありました。
華やかなかたなので、女が放っておいてくれないと、ボヤいていたそうです。」
マリィのカイラスからの伝聞まじりの話を聞き、ヴィグがモテるだろうことは想像ができた。
あんな状況だったのに、ヴィグに厭な印象はもたなかった。
あの出来事もカイラスに黙っていてくれて、ありがたく感じている。
ヴァイオラニの涙の件は、あの時ヴィグが放った言葉は、まるで、ふたりだけの秘密だとでも、ヴィグが言っているような気持ちがした。
カイラスには、絶対に、言えないことを考えると、溜息しか出てこなかった。
瑠璃はけっきょくお礼状のかわりに、日本の折り鶴を折って、カイラスに渡した。
初めて折り鶴を見たカイラスは、一枚の紙が鶴に折り上がっていく過程をまじまじと見ながら、瑠璃を不思議なものをみる顔つきで見ていた。
「魔法だな。」
と、言ったので
首をふりながら、
「今度、教えてあげる。」と言った。




