5ー7
もの想いに沈んでいたら、思ったよりも長風呂になってしまい、湯あたりしそうだったので、上がることにした。
浴場の出口に向かった。
それと、同時に、浴場に入ってくる影があった。
浴場は領主であるカイラス専用のものだったから、カイラスが接待を終えて、風呂を浴びにきたのかと思った。
なにも身につけていないので、声をかけようと、
「カイ....」と口にしかけたところで、瑠璃はその場に立ち止まり、我が目を疑った。
浴場に現れたのは、カイラスではなかった。
巨躯で、焦茶色の髪を細かな三つ編みにし、ポニーテールのように高い位置で結った、濃い翠色の瞳をした男だった。
隻眼だったが、瑠璃の目をひいたのは、それをもってしてもお釣りがくるくらい美形だったことだ。
顔と身体に刺青がされていたが、男の放つ存在感に似合ってさえいた。
風呂に侵入してきた謎の男も、瑠璃を認めたようで、瑠璃は慌てて、腕で胸と下半身を隠した。
その男は、瑠璃を上から下まで眺めると、破顔した。
「粋な趣向をしてくれる。
しかつめらしい顔しかしない、クソ真面目だけが取り柄の男だとばかり、思っていたが。」
その男は、固まっている瑠璃の目の前に立つと、少しかがんで、瑠璃の顔をまじまじと見た。
「お前は、オビ人には見えないな。
オビ人は大概、金の髪と青い目の女と承知している。
黒髪で、黒瞳とは珍しい。」
「ふむ」とか言いながら、さらに顔を近づけてきて、
「だが、美しい。
俺は気に入ったぞ。
バルク・ロザが風呂を使って良いと、勧めてきたのは、お前を用意していたからか?」
瑠璃は、マリィから伝えられたカイラスの「決して、居室から出てはならない。」という言葉の意図を、今、理解した。
誤解であることに気がついたが、お互いに裸だ。
まさに、今、そこにある貞操の危機に、はっ、とした。
カイラスは、金のブレスレットは、瑠璃を守るものだと、言った。
男の口から「バルク・ロザ」と聞こえたので、カイラスを知っていれば、金のブレスレットは役に立つかもしれない。
慌てて口を開いた。
「ちょっと!
これ!これ、見て!
よーく、これ、見て‼︎」
胸は見せることになるが、襲われるより、いい。
左手首にはまった金環を、ズイと男に見えるように前に差し出した。
カイラスがくれた金環。
男は瑠璃の左腕をとり、潰れていないほうの目で熱心に見ていた。
瑠璃は続けて、一気に言った。
「誤解だと、思う。
私は、あなたがくることを知らなかった。」
男は瑠璃の腕を離し、
「お手つきか。」と、瑠璃に向かって口にした。
瑠璃を見下ろしながら、顎に手をやり、さらに言い継いだ。
「そんなもの、ハイラル人の俺には、効かないぞ。」
そして、瑠璃に向かって、この状況を面白がっているような邪気のない笑顔をくれた。
「いい女だな。
カイラスには、もったいない。」
しばらく、瑠璃を眺めたあとに、
「今日は、騒ぎを起こす訳にはいかないから
見逃してやる....か。」
瑠璃の前からのいた。
瑠璃が歩きだそうとすると、お尻を後ろ手で軽く叩いて押し出した。
「俺の気が変わらないうちに、早く行け。」
逃げるように、浴場を出る瑠璃の背後から、さも愉快そうな、
「カイラスに飽きたら、俺のところに来い。」
という声だけが、追いかけてきた。




