5ー3
無意識に、瑠璃は首元に手をやっていた。
あの日、なくした賢一郎から貰ったネックレスのことを思いながら。
瑠璃の大事にしていたネックレスは、カイラスに壊され、あのあと、どこにいってしまったのだろう...
そんなことを思い、瑠璃の表情が暗なくなった。
マリィは、瑠璃の変化に気づき、言った。
「大丈夫ですか、ルリ様。
お顔の色が、あまり良くありませんが。」
「大丈夫だけど...。
カイラスに会った日のことを、思い出してたの。私のネックレス...。どこかに、やってしまったみたいで。」
マリィは、カイラスが瑠璃に金環を贈りはしたが、オビの女がするような、首飾りを贈らない理由に納得した。
瑠璃のようすから、なくした瑠璃の首飾りは
瑠璃の想い人が、瑠璃に贈ったものなのは、マリィにも分かる。
カイラスから、瑠璃に出会ったときに、瑠璃の正体を突き止めるために、少々乱暴な手段をとったことを聞いていた。
女神か、生身の女か。
ーどちらにしろ、出会った男は、恋に落ちたけど。
「ルリ様は、オビの子どもたちが聞かされて育つ、御伽話をご存知ですか?」
瑠璃は、マリィがいきなり御伽噺の話をし始めたことに、きょとんとした顔をしていた。
「御伽話のなかで、女神の口づけは甘く、涙は甘露と伝えられております。
殿下のお母君 正妃様が聞かせてくれた御伽話では、エルシアの地で、女神に出会った人間の男が、女神の涙が甘かったことから、女神が人の女ではない、と、知る...のです。
殿下は、ルリ様がエルシアを去った女神たちのひとりだと思ったと、真面目な顔で、私に言いました。
ルリ様が生身の女か、確認したと。
その時に、少々乱暴な方法をとった、とも。」
カイラスに乱暴に扱われ、首飾りを壊された理由が、瑠璃に分かった。
そして、涙を口にした理由も。
数日間、カイラスと一緒に過ごすうちに、瑠璃はカイラスの本当の姿は、どちらなのだろう、と、考えることがあった。
今、一緒にいるカイラスは、慎重に距離を図り瑠璃の心に近づいてくる。
「理由があったんだ....。」
瑠璃のなかで、カイラスにたいする複雑で、言い表わしがたいごちゃごちゃだった気持ちが、一陣の風が吹いたあとのように、軽いものに変わるのが、分かった。
マリィに向けた笑顔は、鮮やかで、生き生きとしていた。




