ヴァイオラニの涙
5ー1
バルク・ロザ・オビにマナナ寺をすぐにでも建て直してもらえることになったのは良かったが、なぜか、その日から、城でカイラスと暮らすことになった。
どうやら、カイラスがくれた金環と関係があるようだ。
「キヒ」とか「ヒゴ」とか言われても、瑠璃のオビ語録では、まだ、その意味を深く理解
は出来なかった。
カイラスに「マナナ寺には、もういられないのだから」と、いわれ、建て直すのなら、どちらにしろ、どこかでお世話にならなければならないことを思い、現地人の知り合い1号にお世話になることにした。
マナナ寺のエレオラや、親しくしてくれた女たちに、建て直すことを伝えたかったし、身一つだったから、荷物なんてなかったけど、一度、マナナ寺に帰りたいことを主張すると
、カイラスを始め城のひとたちが驚愕し、ルリを「キヒ」なのだから...と、なだめにかかるのが不思議だった。
城のなかは、「表」と「奥」に別れ、外からはわからなかったが、手入れされた庭園があったり、住みやすいようになっていた。
なかでも、瑠璃が気に入ったのは、「奥」にはカイラス専用の入浴場があることだった。
ラタでも、温泉があることはわかったが、なんと、ブラックウォードの城も温泉なのだ。
硫黄の匂いは弱いが、湯船になみなみと溢れたお湯は柔かく、乳液のように白濁していた。
瑠璃にも、「奥」の領主専用の入浴場をつかうことが許されていた。
瑠璃が、初めて、「奥」にやってきて、3日が経っていた。
ー3日前。
「奥」の両開きの見るからに重厚な、細工が上から下まで施された扉の前にたどり着くと、カイラスが声をかけた。
「マリィ、開けろ。」
扉がなかに引かれて、カイラスがなかに入ると、磨きあげられた木材が貼られた床に、そっと、おろされた。
カイラスが、マリィと、その名を呼んだ、瑠璃と年の頃がそう違わなく見える可憐な雰囲気の薄茶色に近い髪色をし、やや垂れ目の娘が、和かな笑顔を向けながら、早速近寄ってきた。
「おかえりなさいませ、殿下。」
瑠璃の突然の訪問に、驚いたようすもなく、瑠璃に向ける眼差しは柔らかい。
「ルリ様は、お食事などは、いかがいたしましょう?」
と、声の調子も優しげで、好感がもてた。
カイラスが、瑠璃を「奥」に届けると、「表」に戻らないといけないから、と、早々にいなくなり、マリィとふたりきりになった。
マリィが、「ルリ様をお待ちしておりました。」と、心からの笑顔を瑠璃にくれたことで、瑠璃は「奥」での生活が少なからず希望をもてることだと思えた。




