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よっぽど、私が殿下の顔を見つめていたのか、殿下が言った。
「そんなに見るな。
わたしの顔に穴をあけたいのか、マリィ。」
私の頭のなかは、混乱していた。
殿下も、年頃の殿方らしく、城下に可愛いひとをもつことはあったようで、そういう話はそれとなく漏れ伝わるものだったから。
貴妃を迎えたのであれば、城内のものに、また、王宮に知らされて然るべきだ。
殿下が右手を額にあてながら、この状況をどう説明するか、考えているのが分かった。
先に口を聞いたのは、私だった。
「貴妃を迎えたのですか?」
眉根を寄せて、難しい顔をしながらカイラスが、それに応えた。
「ある女に、わたしの金環を授けた。」
殿下の金環を授けられるということは、王族男子の庇護を得るという、この国の女性が、こぞって欲しがるものだ。
「奥」は、マリィと年嵩の女官と、男の従者しか配されていない。
女官のなかには、寵を積極的に得ようとするものもいたりして、面倒がきらいなカイラスによって、「奥」に配される女は限られることになった。
「金環を授けた女は、年若い黒髪の異国人だ。言葉も通じない。」
その女性のことを思い出したのか、小さく微笑みながら自嘲気味に、そして、こう言った。
「金環を授けたのに.....。
どうやら、逃げられたようだ。」




