3ー6
「やはり、そうか。」
執務補助官のナオの報告を聞き、カイラスは、声を漏らした。
ナオが報告した異国人の女の容貌は、まさにルリだった。
長い黒髪に、雪肌、そして、焦茶色の瞳。
カイラスが与えた金環は、左手にしてはいなかったが。
「なんと言っていた?」
乱れた執務室の机の上を、みずから片付けながら、カイラスはナオに質問する。
「カタコトなので、はっきりとはわかりませんでしたが、どうやら、殿下に会わせて欲しい、と、言っているようでした。」
カイラスは、ルリが領主に面会を求める理由はなんだろう、と、考えるが、これといった理由は思いつかない。
ルリは、カイラスがヴァスキュラの領主だとは知らないだろう。ルリが知っているのは、カイラスという名だけ。
だから、カイラスに会いにきたわけではない。
「城への招待は、受けたのか?」
「はい。明日、殿下の指定した時間を伝えました。
迎えにあがることも伝えたのですが、固辞するので、後をつけて、住む場所を調べてきました。」
一瞬、ナオが間を置いたので、なにか言いずらいことでもあるのか、と、ナオに視線を向ける。
「貴妃様は、マナナ寺に入って行かれました。」
「マナナ寺!」
あまりの驚きだった。
ルリは、駆け込み寺に保護されていたのか。
それならば、ルリに金環を与えたのに、どこからも報告があがってこないはずだ。
駆け込み寺は、保護を求めた女はたとえ、それがこの国の正妃であろうとも、夫から護ることができる権威を認められた場所なのだから。
ルリが保護されている可能性を考えて、救済院や施療院も調べさせたが、見つからなかった。
どんなに、捜しても、見つからないはずだ。
事情は、明日、本人の口からゆっくり聞こう。どちらにしろ、ルリは、カイラスに会いにくるのだから。




