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カイラスには、その時期になると、いつも訪れる場所があった。
別荘に連なる敷地の奥、広がる森のなかに
長い長い歳月誰に愛でられることもないのに春先に見事に花を咲かせる桜の古木がある。
亡くなった母のために建てられた別荘は、母が生きている時に、けっきょく一度も使われることはなかった。
母が亡くなったあと、その別荘はカイラスのものとして、父に与えられ、母を亡くしたあとの慰めに、カイラスは側仕えのものたちと
しばらく、その別荘で過ごしたことがあった。
王宮にいると、亡くなった母が恋しくなり泣いてばかりいた。
そんなカイラスの様子を心配した父が、転地して過ごせば、少しは気も晴れるだろうと。
ひとりで、森の散策をしていた時に、その桜の樹は、たまたま、見つけたものだった。
満開の桜の花の、その圧倒的に訴えかけてくる生命力に満ちた存在感に、カイラスはしばらく魅入られその場を離れられないほどだった。
カイラスが見つけたカイラスだけのもの。
乳母子のマリィにすら、この桜の樹ことは秘密にしている。
そのため、この桜の樹に会いに来る時だけは入念に人払いをして、別荘は自分だけで使うことにしていた。
鬱蒼と繁り、人が入ることを拒むような森を
確かな足取りで、カイラスが進んでいく。
しばらくの時間を歩いた、いつものように。
すると、急に空間が空き、カイラスが大切にしている桜の大木が目に入る。
桜の花は見ごろを過ぎつつあるようで、強い風が吹くたびに、花びらを散らして、桜の樹の下に白い絨毯となっていた。
そしてー。
その白い絨毯の上に横たわる、ありえぬものを目にして、カイラスは注意深く近づいていった。
女が横たわっていた。
透き通った白い肌に、桜花の絨毯の上にひろがった闇夜色の絹糸のようなしっとりと艶を放つ長い黒髪。
目は閉じられてはいたが、顔の造作は、その女が、目を開けずとも美しい女であることが分かった。
カイラスが、いちばん、奇異に感じたのは、女が身につけているものだった。
足は大胆に曝け出され、腰布を身につけてはいるが下半身が見えそうだ。
上衣も薄く、胸の膨らみを隠すには心もとない。
女の装いは大胆で、男の欲求を刺激するものだった。
カイラスは、この女の存在を、どう受け止めたものか、考えあぐねていた。
人だろうか。
されとも桜花の精か?
用心しながら慎重に女に触れる。
普通の女と同じ質量と、温かさが手を通して伝わった。
身体に触れて、確かめるが、眠っているだけで、どこも怪我などしているようではなかった。呼吸も規則正しい。
少し身体を揺すってみたが、目を開けそうにもない。
カイラスは、自分だけの場所で見つけたその女を抱き上げると、もう一度、女の美しい顔を見て、そして、別荘に向かって歩きだした。




