2ー5
今は、女子でも体育の授業で柔道がある。
中学時代に習った技を、まさか、自分よりも体格が小さく、年下らしい女の子にかけることになるとは思わなかった。
食堂で、夕食もそろそろ切り上げて、部屋に引き上げそうな雰囲気になったとき、カイラスに瑠璃は、「トイレ」と言った。
カイラスが日本語で最初に覚えたのは、多分、「トイレ」で、次が「ルリ」に違いない。
すぐにカイラスが声をかけると、少し離れて控えていた蜂蜜色の髪をポニーテールに結った濃い青が印象的な瞳の女の子が、瑠璃の手を優しくとった。
その子に、トイレまで、手を引かれ、用を足した。
カイラスは、ついてくることがなかった。
また、トイレの場所は、少しばかり食堂から離れたところにあり、近くに川が流れているようで、せせらぎというよりは、轟音に近い音を立てている。
多少、誰かが悲鳴をあげても大丈夫そうなほどに。
瑠璃は決めた。
女の子に、払い腰をかけ、寝技に持ち込んだ。まさか、客の、それも、女に、そんな無体なことをされるとは思ってなかっただろう。
なんなく、目的は達成された。
叫ばれたら、少し、やっかいだな、と考えていたから、拍子ぬけするほど。
なるべく強そうに見えるように、腕を組み、顎で目的の柱を指示した。
女の子は、気の毒なほどに震え、見ている瑠璃も心が痛んだ。
カイラスに、この子が怒られたら、可哀想とも、思ったが、このチャンスを逃したら、二度とない、と覚悟を決めた。
柱に女の子を縛りつけながら、日本語で「あなたが悪いわけじゃないから、怒られないといいんだけど。あなたの青い瞳に、これ、似合うと思う。ぜひ、使って。薄いけど、温かいのは、私が確認済みだから。」と、カイラスに買ってもらった青い織物は置いてきた。
目を見開いて瑠璃を見る少女に、「ごめんね。」と短く謝って、戻るべき食堂と反対に走り出した。
足元は多少悪かったが、なるべく、転ばないように気をつけながら。




