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2ー2

もう陽も落ちて、今日は、どこまで連れて行かれるのか、と瑠璃が内心の不満を隠しもしないようになったころ、目の前に、仄かな明かりに照らされた、簡素だが、決して粗末ではない建物が姿を見せた。


男は、瑠璃に身振りで、今日はここに泊まる、と教えてくれた。


しばらく前から、瑠璃にも馴染みのある、温泉街などに行った時に匂う硫黄の独特の匂いがあった。


瑠璃は、ここには、温泉があるのかもしれない、と思った。


男は、受け付けで手続きを済ませると、この宿の男と、また話し込んでいる。


瑠璃は、ここなら、男から逃げ出す隙が、あるかもしれない、と、注意深く辺りを見回す。

瑠璃がひとりになれるとしたら、トイレか風呂だろうか。


まさか、親切にも、部屋を別々にとってくれたわけではなさそうだ。


宿の主人らしい人物と話し終えた男は、瑠璃に巻きつけた毛布をはがすと、今度は、新たに買った青い織物で瑠璃をぐるっと包んだ。


その仕上がりに、満足したのか、瑠璃を上から下まで確認すると、これで良し、とでも言いたげに肯いた。


受け付けのある建物とは別に、少し歩くと、食べもののいい匂いが漂う食堂についた。


奥のほうに可愛らしい感じのログハウスが数棟あるので、ここでは、それぞれの建物が独立しているらしかった。


ーここなら、逃げ出せるかも。


幸いにも、空を見上げると、月はなかったが

満天の星が見え、瑠璃には心強く思えた。


こんな状況でなければ、この見事な星空は、さぞかし感動的なものだったはずなのに。


空をもう少し見ていたい、と思ったが、男に促され、食堂に入り、男の向かいの席に着いた。


もし、逃げるなら、食べておくべきだ。


逃げたとして、ここが、どういう場所なのか、瑠璃にはまったくわからないから、次にいつ食べられるかわからない。


宿なら、心配したトイレも問題ないだろう。


おなかもかなり空腹だったので、食べたくはあった。


席に着くと、瑠璃の前に、甘い花の香りがするお茶が運ばれてきた。


男が姿を消した時に、なかなか現れなかったのは、瑠璃のために、これを探していたのかも。


甘い花の香りは、男が手にしていた紙袋からしていた匂いと同じだった。


温かなお茶を一口含むと、体と心がすこし落ち着いて、瑠璃のなかにあったこわばりが吐き出した溜息とともに解けていった。


男は、そんな瑠璃のようすを眺めていたが、

「カイラス」と、瑠璃に言葉をかけてきた。


最初、瑠璃が飲んだお茶のことかと思ったが、男の身振りで、それが、男の名前らしいことを理解した。


男が瑠璃にも、名乗るように促してきたが、男と親しくするつもりはなかったから、名前は教えたくなかった。


でも、襲われはしたが、親切にしてもくれ、食事をご馳走してもらうのに、申し訳ない気持ちもあり、しばらくしてから、男に自分の名前を教えた。


その男-カイラスが、瑠璃が名乗ると、続けて瑠璃の名前を口にした。


大人の男がたどたどしく瑠璃の名前をいうのが可笑しく、男の前で笑顔になった。


また、なにか、カイラスが話しかけてきたが

笑顔でごまかした。




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