1ー18
満天星亭に到着するまえに、途中の村に立ち寄り、なんとか、女に与える、そこそこ悪くはない織物を手に入れることができた。
女の姿は、金髪碧眼のオビ人のなかでは、明らかに異質で、目立つ。
また、身につけた服装も、足が曝け出されたもので、ほかの男には、見せたくなかった。
その姿を晒さないようにした上で、食事をとるために、食堂の少し広めのテーブルについた。
先客が数組、すでに夕食をとっていたので、食堂のなかは、食欲をそそる匂いが漂い、カイラスは、女がなにか食べる気になってくれれば、と思った。
食堂の雰囲気は、煩くも静かすぎずもなく、女とゆっくり夕食をとるには良い感じだ。
女も軽く頭を巡らし、食堂のなかを見回している。
ここで夕食を食べることを、また、身振りを交えて教えると、肯いた。
女が食べられそうなものを、見繕って、注文した。
女は疲れて見えたが、別荘にいた時とは違い、少しだけ、緊張を解き、その表情も明るい。
織物を手に入れた村で、女のために薬草茶も手に入れたので、夕食の飲み物として、女に飲ませた。
薬草茶といっても、花茶や香茶に近いものだったから、女が気に入ってくれることを期待して。
最初、目の前に運ばれた温かいお茶を口にしようとしなかったが、少しだけ花の甘い匂いが香ると、カイラスの顔を確認するように見てから、飲み物を口に運んだ。
一口飲んだあとに、軽くため息を吐き出し、微笑んだ。
そして、また、飲み継いだ。
どうやら、気に入ってくれ、なおかつ、女が飲食を拒み、衰弱するという事態を避けることが出来そうで、カイラスも胸をなでおろした。
友好的とはいかないまでも、女が、少しだけ警戒心を解いたのが、カイラスにも伝わった。
女に話しかけた。
自分をしめしながら、「カイラス」と自らの名をゆっくりと。
女はカイラスの行動を、また、怪訝な表情で見つめていた。
もういちど、ゆっくりと「カイラス」と、自分の名を教えた。
少しの時間が過ぎたあと、女が、「カイラス?」と言葉を発した。
自分の名前であることがわかるように、自分を示しながら、肯いた。
すると、女の頭の中で、カイラスという単語と、それが名前であることが結びついたようで、カイラスを指しながら、「カイラス」と言った。
自分の名を呼ばれ、肯いた。
身振りで、女の名を問うた。
女はしばらくの間、黙っていたが一言
「ルリ」
と発した。




