12ー7
幕屋の外のひとびとの騒めきと、大急ぎで砂利を踏み向かう足音で、カイラスは、その足音の主が自分の幕屋を目指していることに気がついていた。
昨夜はひとりの娘を取り合って、諍いを起こしたふたりの男の裁定があり、娘を諦めざるをえない男が、また、なにか騒動でも起こし、面倒ごとを解決して欲しい誰かが、迷惑を顧みずにやってきたのかと予想した。
どうしたものか、と考え始めたが、まだ自分の寝台で起きる気にならずに、横になったままだった。
足音の主は、野営地でいちばん奥まった場所に配されたカイラスの幕屋の前で足を止めて、カイラスが起きているか中の様子を伺っているようだ。
躊躇ったが、乱れた息を整えるために大きく息を吐いたあとに
「失礼いたします」と小さすぎず大きくもない声で、まだうす暗い幕屋のなかに、進入してきた。
「ラシットか」
ラシットが目をこらすと、小さく灯されていた簡易なランプの灯りと寝台で横になったままのカイラスの姿があった。
ラシットに背を向けていたカイラスが向きを変えて、ラシットの姿を確認した。
もともと愛想のない顔から、まるで表情は消え失せ、今にもこの世が終わりそうな顔をしている。
薄暗い中でも、ラシットが手にした赤い色をした、緊急事態を示す書状にカイラスは気がついた。
「ブラックウォードでなにかあったのだな」
マリィとのやりとりのなかで、緊急事態があったときのために、決めていたことだった。
ラシットが弾かれたように、カイラスの寝台の側まで来たので、身体を起こして、その書状を受け取った。
ランプの灯りを大きくし、ラシットがカイラスが受け取った書状が良く見えるようにと、ランプをかざした。
マリィが使っているロンブレン家の薔薇と剣の紋で封蝋がされていた。
マリィからの書状に間違いがない。
封蝋をあけ、封筒のなかから折りたたまれた手紙を出す。
手紙を広げると、そこには一文のみが書かれていた。
ー 貴妃のもとに、来られたし。




