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ヴァスキュラ領内の首都、ブラックウォードに向かう街道をひた走る黒い塊があった。
街道沿いの宿場町では、これから陽が落ちるよりも前に、宿を取ろうとする客と、値段の交渉をする店主の賑やかなやりとりが聞こえ
、夕暮れ前の活気が溢れたようすだった。
しかし、その黒い塊は、そんな盛況さは歯牙にもかけず、ただただ前を進むことだけに集中していた。
小さくない宿場町には、ブラックウォードを目指した地方からのさまざまな客が集まり、商いをするために向かうもの、ブラックウォードに住む親戚を久しぶりに訪ねることを楽しみにした家族連れ、近隣の村から一仕事を終え、酒場に集う人々など、ありとあらゆるものがいた。
カイラスは、ブラックウォードからそれほど遠くない宿場町に陽が落ちるまえに辿りつけたことに、ほっとしながらも、騎乗の速度を落とすことはなかった。
近侍のラシットは、とっくに、おいてけぼりを食らわされていたが、向かう先はお互いにブラックウォードなのだから、間違いようがない。
後ろを走っているはずのラシットを待っている余裕はない。
宿場町の通りの真ん中で、宿屋の客引きたちが、客の取り合いをして、今にも喧嘩でも始めそうに大声でやり合っているギリギリ横を走り抜けた。
客引きのひとりが、その風圧によろけて尻もちをついた。
顔を真っ赤に染め、拳を振り回しながら大声で罵詈雑言をまくし立てたが、その影はあっという間に宿場町の端に消えていき、見えなくなってしまった。




