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11ー9

ヴァスキュラに向けて、わずかな警護のものに付き添われて、まだあどけなさをその(おもて)に残した王太子は、王宮を一度も振り返ることなく、旅立って行った。


マリィは、胸の内に飲み込めない違和感を抱えながら、その後ろ姿を見送るしかなかった。


リアードに庇護を与えられ、家庭に入ることで、すべてが終わったこととなるのか、と考えもしたが、日増しに苦い思いが胸の内に溢れてきて、マリィをいてもたってもいられない何かがせきたてるのだった。


ーなにかが、間違っている。


幼いものや、弱いものが、力あるものの前に

嬲られ、ねじ伏せられる。

それが、ひとの世の常と皆はいうけど...

今、流されてしまえば、私は一生悔いながら生きることになる。


ー同じ後悔はしたくない。


マリィは、誰にも、その決意を告げることはなかった。

庇護を与えてくれたリアードにすら。

誓いの装身具は、リアードと暮らすはずだった屋敷の鏡台に、謝罪の文とともに置いてきた。


無我夢中で馬を駆り、ヴァスキュラを目指した。


なんとかヴァスキュラに辿りついたが、埃だらけで薄汚れて、やつれた姿からは、王宮の高級女官だったとは誰も想像できないようなそんなありさまだった。


マリィに面会したカイラスは、マリィを見ると、絶句したくらいに。


「ヴァスキュラに、なぜ来たのだ」

カイラスに冷たい声音で、叱責された。


「殿下に、お願いがございまして、まかりこしました」


胸の内の決意を口にする。


「私を、ブラックウォード城の家政務長にして下さいませ」


カイラスは顔をしかめ、沈黙していた。


マリィは言い継いだ。


「是非に」


「聞き届ける訳にはいかぬ。

家政務長は、職務上の誓いを立てねばならない。マリィは、今すぐ、王宮に戻るがよい」


カイラスは、マリィの願いに首を立てにふるようすはない。


「誰が、殿下を支えるのです。このヴァスキュラで。殿下は、私の笑顔が王宮での支えだったと、仰って下さいました。


今、ここで、生涯独り身を守ると、オビを守護する神獣 獅子に誓いましょう」






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