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光の手形 ~異世界で神の化身に転生した~  作者: 住之江京
最終章 宗教戦争編

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46.ラスボスが現れた日の話

 僕、イーサン=アンセットは神の化身という役割を持った人間であり、神ではない。

 神ではないのだけれど、化身を名乗る以上、正体は神であるということに、一般的には、なっている。


「旧き神よ! そこにいるのは判っている、正々堂々姿を現せ!」


 従って、このような呼び掛けを受けたところで、「人違いです!」と追い返すわけにもゆかない。


 二階の窓のカーテンの隙間からそっと覗くと、彼らはまだそこに集まり、不穏な空気を醸し出していた。

 近所迷惑だからやめてほしいんだけど、直接それを言いに行けば、背中に負った大剣でバッサリ行かれてしまうんだろう。

 先程から先頭で大声を出している、恐らく連中の代表者だと思われる男――高校生くらいかな、まだ少年と言ってもいい年頃だろう。彼は巨大な剣に加え、時代にそぐわぬ白銀の板金鎧に、顔だけ出したような重武装の出で立ちで佇んでいる。

 コスプレ衣装でこの鎧の重厚感を出したというのなら、塗装技士に尊敬の念すら覚えるけれども、もしあれがコスプレだろうとそうでなかろうと、中に入っている人間が既にやばい。やばい種類の人間だ。

 僕の知人で言うならば、「事実上のマフィア」と名高い真神会氷雪都市(フリージア)支部の支部長くらいやばい。友好的なコネクション無しに会ったら、「通り道を邪魔した」という理由から小枝や蔦のように斬り払うタイプの人間だ。

 あれだ。自分に自信がある人って怖いじゃないか。自分の能力や、大義や、信仰に揺るぎがない人。あれはそれだ。それに武力が付いた系の人だ。


「機動隊が一時間後で、聖騎士団が三時間後だって」


 念話機の受話器を抱えた妻・レインが廊下から顔だけ出して報告してくれる。


「それまでもつんスかね、これ」


 僕の隣で外を覗いていた後輩、ウィルバー君がひきつった笑顔で呟いた。

 まぁ心配になるのもわかる。表で騒いでいるテロリスト集団の、背後を見てみれば良い。壁を突き抜け、部屋を吹き抜け、反対側の空が見える民家が見えるだろう。

 あれは、近所迷惑だと叱責に出た近隣住民に、連中の一人がカッとなって放った破壊光線のもたらした傷痕だ。


 シャレにならない。


 住民氏は現在、気を失って路上に寝転んでいる。一味の一人が介抱らしきことをしていたようだけれど、自分達で襲い掛かって、自分達で助けたつもりになるというのは何なんだろうなぁ。天与聖典にも記された寓話の獣、妖怪鎌鼬への憧れだろうか。

 なお、少し前に通報してすぐ、近所の交番のお巡りさん二人組が来てくれたんだけど、例の集団と何やら揉め始め、警官Aは内の一人軽く突き飛ばされ、衝撃で宙を舞ったまま道路二車線を横断し、コンクリート壁にぶつかって気絶し、警官Bは倒れた同僚を背負って遁走した。


「出てこい、旧き神! でないとこの一帯を焦土に変えるぞ!」


 などと、破壊光線を撃ったやばい人が叫んでいるんだけれど、ここで冗談でも出て行ってやれなんて言わない辺り、隣で一緒に頭を抱えている妻と後輩は性根の優しい人達だと思うな。

 外からは人間ビーム砲の人による恫喝と、空を切り裂くような爆音に加え、


「ちょっと、無関係な人を巻き込むのはやめなさい! それじゃ旧き神と同じじゃないの!」


 なんて窘める声も聞こえるけれど、僕の方はそんなに破壊活動に従事した覚えはないんだよなぁ。ビル潰すとか島沈めるとかは、一応周囲の安全な確かめて、なるべく被害が小さくなるようにはしたはずなんだけど。

 あれか、僕の先輩の神の化身が何かやらかしたのかな。だったら僕関係ないんだけど……関係ないですとも言えないしな。神の化身同士だと、傍目には同一人物なわけだし。


 うんうん唸っていた僕ら三人は、話し合いの結果、最終的な結論を出すことにした。


 即ち、外の騒ぎは一旦無視する。

 機動隊が来るまで待つ。

 これだ。


 僕達は、再び先ほどまで興じていたボードゲームを再開することとした。

 機動隊は予定より早く、四十分後には到着。何やらドンパチ弾けるような音がするのを努めて耳に入れないようにしつつ、神様オリジナル双六と幾つかの思考ゲームを一通り遊び終えた所で、どうやら聖騎士団が来たらしい。聖騎士団お得意の合成魔法による爆音は流石に無視できず、耳栓とアイマスクをしてそのまま就寝。

 一泊したウィルバー君を翌朝送り出した後、近隣住民にもご迷惑を謝り、家の修理費等や、怪我などあれば治療費を負担するとの旨を提案して回った。

 誰が悪いの悪くないのじゃなく、せめてそれくらいの補償はしないと、ご近所付き合いもしようがない。半分は教団が負担してくれたし、もう半分は妻が稼いで妻が管理しているお金なのだけれども。



 そんなこんなで、ラスボス集団が再び我が家に姿を現したのは、その翌々日のことだった。

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