神話
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黒暗淵に「光あれ」と神が言ったから第一の日は創世記念日
――『天与聖典』創世記
世界は神にとって、三番目に創世んだ世界であった。
第一の世界を創り賜うた神は、天と地を創った後に、「光あれ」と言った。すると光が在った。
光の次に、あらゆる獣の母、あらゆる鳥の母、あらゆる魚の母、あらゆる虫の母、あらゆる草木の母、あらゆる妖の母を創った。
獣の母は猫を産み、馬を産み、人を産み、その他あらゆる獣を産んだ。
鳥の母は鳩を産み、鷹を産み、鷺を産み、その他あらゆる鳥を産んだ。
魚の母は鰯を産み、鯰を産み、鮫を産み、その他あらゆる魚を産んだ。
虫の母、草木の母、妖の母もまた、それぞれの子を産んだ。
神は生まれた全ての生命を慈しんだが、神の孫らは、神の在ったことに気付くことすらなく、自身らを産んだ母のみを崇めた。
母らは我が子可愛さに心を曇らせ、その愛と崇敬を一身に受ける悦びに、世界から神が忘れ去られることを許容した。
神は第一の世界に居場所を失い、第二の世界を創造した。
第二の世界を創り賜うた神は、混沌の原初を創った後に、「在るように在れ」と言った。すると全てに平等な物理法則が在った。
造物の存在を創らず、万物を等しく神の子と置いた。
子らは親なる神に想いを馳せ、様々な神の姿を想像した。
神を追い求めた子らは、物理法則へと辿り着いた。
しかし、そこで足を止め、後一歩という所で神へは辿り着かず、物理法則を己が親と崇め――やがて神を忘れた。
神は第二の世界に居場所を失い、第三の世界を創造した。
第三の世界を創り賜うた神は、空を創った後に、「我を称える者あれ」と言った。すると、光の精霊が在った。
神は「我を支える者あれ」と言った。すると、地の精霊が在った。
神は「我を慰める者あれ」と言った。すると、水の精霊が在った。
神は「我を温める者あれ」と言った。すると、火の精霊が在った。
神は「我を生かす者あれ」と言った。すると、風の精霊が在った。
神は「蕎麦あれ」と言った。すると、蕎麦の精霊が在った。
神は精霊と共に、あらゆるを手ずから創った。神の子らは神を愛し、神を敬い、神に従い、繁栄を謳歌した。
繁栄の後の隆盛、隆盛の後の円熟、円熟の後の頽廃。永きの時を経て、神の子らは親を忘れ去った。
それでも精霊は神を称え、神を支え、神を慰め、神を温め、神を生かし、神に、かつて追われた世界で唯一、幸福な思い出を携えた食物を捧げた。そうし続けた。
そうして、第三の世界には、神の居場所が残った。