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光の手形 ~異世界で神の化身に転生した~  作者: 住之江京
第六章 ヘイワ波動電磁研究所編

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29.幼馴染から怪しげな商品を勧められた話

 僕、イーサン=アンセットは神の化身である。


 前世では別の世界の普通の大学生だった僕は、不幸な事故によりその生涯を終えた際、神様から「神の化身」という役職を与えられ、この世界に新たなる生を受けた。

 神の奇跡の代行者にして、信者を集める現地営業、信仰獲得のゴーストライター。

 僕を崇める宗教団体は世界各国にその拠点を持ち、布教の一環である占いの繋がりから、政治家や芸能人にも僕のシンパは多い。

 集めた信仰の力により、起こす奇跡の力も随分大きくなったとは思う。


 僕の幼馴染にして、教室の後ろの席の主であるレインはこう言った。


「私達も今年受験なんだし、いつまでも馬鹿みたいなことやってないでさー」


 うーん、まぁ、馬鹿みたいなことってのは、認めるんだけど。

 今更といえば今更なんだけど、僕も正直そう思う。

 こんな役割さえなければ、もっと青春なり受験勉強なりに打ち込んでいたとは思うし、打ち込みたかったとも思う。


 そりゃねぇ。

 友人の誰かがいきなり神の化身を自称して布教活動なんか始めたら、真摯に説教するか、はいはいと笑って流すか、僕だって遠巻きに見送るか、きっぱり絶縁するか、のいずれかだ。元々の友好度と、相手の症状の進行具合によって対処は変わるけれども。


 だから、この幼馴染の態度はまぁわかる。

 たとえ彼女がつい先月まで、僕の神の化身業のマネージャーを自称して、テレビ出演や雑誌取材、教会への布教活動などを取り仕切っていたのだとしても、「三年の部活動は夏休みまで」という種類の区切りを持つというのは、中学生として自然なことではある。


 あるんだけども。


「そんな電波商品勧められながら説教されてもなぁ」

「電波じゃないってば。で・ん・じ・は」


 電波って、そういう意味で言ったんじゃないんだけれど。


 なんでも、現代社会に欠かせない念波技術(レインに見せられた小冊子で初めて知ったんだけど、これは電磁波の一種だったらしい。なんとなくガッカリした)の弊害である悪性波動なるものは、人体や自然界に多大なる悪影響を与えるらしい。

 このヘイワ波動電磁研究所謹製のステッカーやグッズを使えば外部からの悪性波動をシャットアウトし、謹製のボトル水を飲めば体内の悪性波動を浄化するのだそうだ。


「サニーの力が凄いのは認めるけど、神とか言うから一気に胡散臭くなるんだよ」


 この、こいつに言われたくはない感。


「胡散臭い宗教グッズ売りながらそんなこと言われてもなぁ」

「宗教? まぁ、科学は言うなれば究極の宗教だけどさ」

「レイン、絶対わかってて言ってるし、わかってて売ってるよね?」


 真顔で小首を傾げる幼馴染に、僕は溜息をついた。

 この態度は、自分では全然信じていないけれど、何かしらの利害に基いて行動している時の態度だ。

 例えば、幼少期に「一人で帰るとおばけが出るよ」と僕を脅して夜祭に最後まで付き合わせた時とか、「運動したすぐ後に食べ過ぎると病気になるよ」と僕を脅して遠足のおやつを一部接収した時とか、最近だと僕の化身業のマネージャー業務とか。


 こうなると真っ向からの否定は通らない。

 相手の土俵で否定するしかない。


「ほらここ見て、四ページ。波動電磁波学の第一人者であるキバ博士と、医療用魔道具開発者として名高いイーグル博士のお墨付きが出てるのよ?」

「キバ博士もイーグル博士も聞いたことないんだけど」

「そりゃま、その道の専門の学者さんなんて知らなくて当然よ」

「で、この模様の黒インクに金属粒子が使われてて、それをベースに魔道具化してあるわけ?」

「そんなわけないでしょ」

「じゃ、この超単純なロゴマークが魔法陣なの? 起動用魔力のいらない? 全属性で使える?」

「あのね、小学生レベルのありえない質問ばっかしてないで、ちょっとは現実的に考えなさいよ」


 そう、呆れたような顔、で息を吐いて見せる。この。

 その他の百パーありえない説を全部捨てて、ほんの一欠けらでも可能性のある案を並べたつもりだったんだけど。

 魔法を発現するための魔法陣は基本的に、その属性の所持者にしか使えない。複数の属性間で共通した命令語のみを使えば、複数属性で使える魔法陣は作れないこともないけれど、それぞれの属性で効果は異なるものになるし、六属性の全てをクリアする魔法陣は、一部のマニアが趣味で作った、パズルみたいな物で、実用性はほとんどない。

 魔道具は、特殊な機構や仕掛けがついたものであっても、金属に魔法を封じ込めて遅発させるという、核の部分は変わらない。


 魔法学の原則から完全に外れている。

 その何処が科学的なのか。


「このグッズはねー、イーグル博士が独自に生み出した、魔法効果(・・・・)を物質に留める方法で作られた、全く新しい、魔道具でない魔道具。魔法付与具なのよ」

「超技術だね」

「風魔法による波動電磁波の再組み立てで、悪性波動を人体に害のない波動に変換するのよ」

「なんでだよ……電磁波防御なら光魔法の領分だろ……」


 僕も光属性だけど、ただでさえ光魔法は影が薄いんだよ。光ある所に影もまたあるんだよ。

 せめてエセ科学でくらい拾ってよ。


「というかさ、紋切り型のニセ科学じゃないか。それっぽい言葉(バズワード)並べてるだけの」

「バズワードって言った方がバズワードなんですー」


 そんなことを言い合っている間に、始業式の予鈴が鳴り、「続きはまた後でね」との幼馴染の宣言をもって、話は放課後に持ち越されることとなった。

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