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第11話 『越の風華』 第一部 中篇

作者: 目賀見勝利

  《大和太郎事件簿・第11話/越の風華ふうか・第一部》

      〜須佐之男スサノオ復活伝説殺人事件〜  

                 =中編=


越の風華31;

2012年10月5日(金) 午前10時ころ  国会前庭内の噴水池周辺


大和太郎と半田警視長が歩きながら話している。


「東灘署と西宮署からの報告では自宅マンションで死んでいた寺田純子と須佐之男神社横の駐車場に駐車していたレンタカーの車内で死んでいた風祭武文は死ぬ前日にJR摂津本山駅から北へ5分くらい歩いたところにある阪急電車岡本駅前の喫茶店『梅林ばいりん』で会っていたことが判明しました。したがって、東灘署と西宮署の合同捜査となり、兵庫県警察本部内に合同捜査本部を設置しました。自殺の可能性も捨てきれませんが、他殺と云う方向で捜査を開始しました。」と半田警視長が言った。

「そうですか。二人を殺したのは同一犯人と云うことですか。」と太郎が言った。

「いや、そこまでは断定できません。別の犯人である可能性も考えられます。しかし、二人の死亡推定時刻が9月13日(木)の午後8時〜翌朝の午前3時ころの間と重なっています。そこから考えて、同一犯とした場合には複数犯の可能性があり、何らかの連絡を取り合っていたと捜査本部では推定しています。」

「摂津本山駅近くのコインパーキングの監視カメラ映像には風祭武文以外に寺田純子の姿も映っていましたか?」と太郎が訊いた。

「大和探偵はそこまで御存じですか。確かに、9月13日(木)の午後6時ころ、風祭武文と寺田純子はコインパーキングに現れ、風祭氏が借りていたレンタカーに乗って、立ち去っています。その時刻前後のレンタカーの移動範囲についての調査は現在進行中です。」と半田が言った。

「何か判るといいですね。」

「まあ、警察庁としては捜査員の成果を期待しています。」

「ところで、ちょっとお願いがあるのですが・・・。」と太郎が言った。

「何ですか?」と半田が訊き返した。

「この携帯電話番号の所有者の居場所を知りたいのですが。」と言いながら、太郎は中村竜の使っていた携帯電話番号を書いたメモを半田に渡した。

「中村竜と云う人物の携帯電話番号ですか・・・?」と半田がメモを見ながら訊いた。

「ええ。現在は使用されていませんが、以前は中村竜と云う人物が使っていたと思われます。契約時点での住所が判ればありがたいのですが・・・。」

「何かの事件の調査ですか?」

「事案内容は申し上げられませんが、CIAからの調査依頼です。」

「そうですか。詳細は聞いても守秘義務でしょうから訊きません。まあ、CIAの為ですから、調べて連絡いたしましょう。」と言いながら、半田はメモを上着のポケットに入れた。


その後、太郎は保久良神社で発見した『神生岩かみなりいわ』や霊視画が描かれた絵馬のこと等を半田に話した。

半田は須佐之男に関する古事記や日本書紀の内容に関する自分の推理などを太郎に話した。

そして、話を終えた二人は別々に国会前庭から別々の方向へ出て行った。



越の風華32;

2012年10月5日(金) 午後1時ころ 毎朝新聞東京本社 応接室  


大和太郎と向山社会部部長が応接テーブルを挟んだソファに座って話し会っている。


「東灘区岡本の喫茶店で会っていた寺田純子と風祭武文は同一犯に殺されたと思われます。犯人は何かの組織なのかも知れませんが・・・。」と太郎が言った。

「兵庫県警では西宮署と東灘署の合同捜査本部を設置したそうですね。」と向山が言った。

「ええ、ご存じでしたか。ところで、レストラングループ『越路』への出資者である風祭武文ですが、彼の背後関係は判っていますか?」と太郎が訊いた。

「捜査2課から漏れてきた情報では風祭武文は広域指定暴力団『河菱会』の企業舎弟ではないかと云う噂がある。」と向山部長が言った。

「『河菱会』の本部は神戸市○○区○○町でしたよね。」と太郎が何か言いたそうに言った。

「その通りだが・・・。」

「風祭武文は、死体が発見された前日に、『河菱会』本部を訪問していたと思われます。」

「本当か?」

「ええ。風祭氏の遺体が乗っていたレンタカーのナビ記録から場所を判断すると、9月13日(木)の午後1時ころから午後2時30分くらいまで、『河菱会』本部と思われる場所にレンタカーを駐車していました。」と太郎が説明した。

「そうすると、長野県茅野市で死んでいたレストラングループ『越路』社長の高城六郎、その出資者の風祭武文、レストランの顧客の寺田純子は『河菱会』と関係があったのかも知れんな。それに、金融担当相の松永雅洋も何らかの形で『河菱会』と繋がっていたのかも知れんな。」

「まあ、風祭武文が河菱会と関係があるとしても、他の3人が河菱会と繋がるとは限らないでしょう。証拠はありませんからね。調査する必要はありますがね・・・。ところで、例のイタリアとスイスの国境税関で13兆円相当のアメリカ国債を持っていて身柄を拘束され釈放されたふたりの日本人の事は何か判りましたか?」と太郎が訊いた。

「まだ、新しい情報はない。パスポートの記述内容と思うが、神奈川県と福岡県に住んでいた男性と云う事しか判っていない。日本の警察もそれ以上の情報を持っていないようだ。それ以上、イタリア警察からの情報はない模様だ。」と向山が言った。

「2009年6月前後の出国記録を調べれば何か判るのではないですか?」と太郎が言った。

「そうだな、我が社の調査部に調べさせてみるか。確か、事件があったのは6月初めだったな。その一週間前くらいから6月上旬までの出国記録からイタリアへ向かった福岡県人と神奈川県人の男性に絞りこんで探してみますかね。その中に財務省か日本銀行関係者がいれば良いのですがね・・・。何人くらい居ますかね。」と向山が言った。

「金融担当相の松永雅洋氏もそれを調べさせていて殺された可能性もありますから、上手く理由を付けて調べた方が良いかもしれませんよ。出入国管理局にはいろいろな組織の情報機関のスパイが潜り込んでいる可能性が大きいですから・・・。」と太郎が言った。

「そうだな、注意しよう。」と言いながら、向山部長は首をすくめる仕草をした。


「ところで、その後、鮫島姫子さんはお元気ですか?」と太郎が訊いた。

「元気だけが取り柄だからな、あいつは。まあ、昨年の『筑紫の皇子』事件で影の軍団の岳内太郎と多沼圭子の行方を見失ったのがチョッピリこたえたようだがな、あっはっはっは・・。」と向山が笑った。

その時、鮫島姫子が応接室のドアーを開けた。

「部長、専務がお呼びです。あらまあ、大和探偵じゃないですか。」と姫子が驚いたように言った。

「至急か?」と向山が姫子に訊いた。

「ええ、そのようです。至急に玉田専務室に来るようにとのことです。」と姫子が言った。

「判った。じゃあ、大和探偵、今後もよろしく。専務との話がどのくらいかかるのか判らないので、今日の所はこれにて打ち合わせ終了とします。姫子、大和探偵をお見送りしてくれ。」と向山部長は言って、応接室を出て行った。


「大和探偵、部長と何の話をしていたのですか?」と姫子が訊いた。

「いや、2009年6月にイタリアとスイスの国境であったアメリカ国債運搬事件の日本人が誰だったのかの調査をお願いしていたところです。」

「ああ、13兆円の事件ですね。イタリア警察の発表では福岡県と神奈川県に在住の日本人でしたよね。その人物が誰だったのかを知りたい訳ですか。」と姫子がいった。

「まあ、そういうことです。」と太郎が言った。

「私の知り合いのイタリア人外交官に訊いてあげましょうか?」と姫子が言った。

「姫子さん、イタリア人の外交官を知っているのですか?」と太郎は驚いたように言った。

「ええ、学生時代に京都観光の案内をしてあげたイタリア大使館の人がいたの。現在はイタリアに帰国されているけれど、時々、電子メール交換をしているから、その件を調べてもらいましょうか?」

「ぜひ、お願いします。」

「色良い返事が返ってくれば、見っけもんですね・・・。あはははー。」と姫子が笑った。

「それで、何の事件を追っかけているのですか?」と姫子がさらに訊いた。

「それは、向山部長に聞いて下さい。私には守秘義務がありますので。」

「そうですか。部長にきいてみます。それでは、玄関までお送りいたします。」と姫子は言って、応接室のドアーを開けた。



越の風華33;

2012年10月8日(月)祝日  午後1時30分ころ Gパークタウン団地付近


Gパークタウン住宅などの郊外にある団地型マンションは2戸の入口扉が向い合わせで、部屋内部は隣合わせになった構造になっている。また、エレベータ設置の必要がない4階建か5階建である。上り下りをする階段は素通しで外部からも上り下りする人物の姿がよく見え、中村竜の部屋の玄関扉も建物から少し離れれば見える状態にあった。

Gパークタウンのマンションの各棟は芝生地帯と遊歩道や簡易な遊園場所などを介して30mくらい離れている。芝生地帯にはところどころに樹木が生い茂った場所があり、道路を隔てて公園がある。


太郎はGパークタウン住宅の中村竜の部屋の向い側の住人に、中村が戻ってきたのを感じたら、中村には内密で大和探偵事務所に電話をくれるようにお金を握らせて依頼していた。

その電話が入ったので、太郎は事務所から愛車のバイク・ホンダリード80でGパークタウンへ向かった。

そして、5階にある中村竜の部屋の窓や入口扉が見える隣接した公園の木陰から双眼鏡をのぞきながら見張った。


「向かいの住人の話では、日曜日にひとりで戻ってくる場合が多いが、夜になると訪問者が訪れる時があると云う事だったな・・・。訪問者との話は日本語で行っていると云う事だったな。中村竜には少し、中国語訛りがあると云うことであったが、さて今日はどのような訪問者があるかな・・? 夜に備えて、近くのコンビニで食料を買ってきたが、役に立つかな・・・。」と思いを巡らせながら太郎はDIYで買った500円の3本脚の携帯折りたたみ椅子に座って3階の窓を双眼鏡を使って眺めた。


夜になって、一人の男が中村竜の部屋を訪問した。


そして、翌日の月曜日の早朝6時ころになって、一人で出てきた訪問客の男を太郎は尾行した。男の年齢は30歳代と思われた。

男は、朝の一番バスに乗りこみ、通勤客に混じって東松山駅にむかった。太郎は、リード80で東松山に先回りして男が来るのを待った。

そして、東武東上線の池袋駅で降りた男は60階高層建築の池袋サンシャインビル近くの3階建ての小さなビル入って行った。一階の入口扉の自動ドアーには社名が書かれている。

「中古自動車輸出商会『アラビアン・ビークル』東京本社か・・。以前の事件でCIAから聞いた名前だな。中村竜とアラビアン・ビークルが関係ある訳か・・・。アラビアン・ビークルについてはCIAから情報を貰えばいいか・・・。しかし、中村竜はCIAの調査では『夜来香いえらいしゃん貿易有限公司』に勤務していると云う事だったが。」と太郎は男が入った事務所の会社名を確認しながら思った。


太郎が睡眠を取るために東松山にある探偵事務所に帰ろうと池袋駅に向かって歩いている時、後から追いついて来て横に並んだ白人から英語で話しかけられた。

「そのまま、前を向いたまま歩いて下さい。CIAのトム・ガードナーと言います。」

「それで、私に何か・・?」と太郎が歩きながら訊いた。

「大和探偵、アラビアン・ビークルはCIAで監視しています。近づかないようにしてください。」

「そうでしたか。判りました。」

そして、白人は太郎を追い越し、歩き去って行った。

太郎もそのまま池袋駅に向かって歩きつづけた。



越の風華34;河菱会の狂犬

2012年10月10日(水) 午後8時30分ころ 岡山県児島半島・玉野市宇野の第一突堤


JR岡山駅から児島半島に向かってJR宇野線が走っている。宇野線の終着駅である宇野駅は児島半島にある玉野市の南東部にあり、近くには競輪場や宇野港第一突堤がある。宇野駅から200mくらい歩くと第一突堤のフェリー乗り場がある。ここから瀬戸内海の豊島などの島に渡るフェリーが出入りしている。


神戸から小豆島に渡り、小豆島から豊島経由で宇野第一突堤にフェリーで到着した一人の男がいた。

男の名前は張帆二ちょうはんじ。広域指定暴力団『河菱会』傘下で愛知県岡崎市に事務所がある工藤組の一員である。全国の暴力団組員から『河菱会の狂犬』と呼ばれている男である。

『河菱会の狂犬』と呼ばれるのは、理由もなしに暴力沙汰を起こし、それを足がかりにしてその土地を工藤組の縄張りにしてしまう遣り口を指している。暴力団の間では、この男にダイナマイトやプラスチック爆弾を扱わせると右に出る者は居ないと謂われている。起こした事件には犯人が特定できる証拠を残さないので警察に逮捕された経歴は無い。国立の工業大学の卒業で頭が切れるとの噂もある男である。

現在の『河菱会』会長は元・工藤組組長であった三田阿礼樹みたあれきである。工藤組は『河菱会』傘下では武闘派として名を轟かせている。

三田阿礼樹が『河菱会』会長に指名された裏には張帆二の活躍があったと噂されている。


その男・張帆二は宇野港フェリー発着場前で待っていたタクシーに乗り込んだ。

玉比口羊たまひめ神社まで頼む。」と男が運転手に言った。


第一突堤から玉比口羊神社までは2kmくらい離れている。

玉比口羊神社の主祭神は豊玉姫命であり龍宮城に住む乙姫おとひめとされている。神社の後ろには標高190mの臥竜山がある。神社創建年代は不詳であるが備前国神名帳には従四位上と記されているらしい。

境内には四角錐の形をした巨岩が祀られており、この巨岩に関する夜火伝説がある。ある夜、この岩から3つの火の玉が飛び出したと云う。

その1つは臥竜山中腹にある臥龍稲荷神社奥宮に、もう1つは西大寺観音様に、残りの1つは牛窓に向かったと云う。

火の玉が飛び出した痕は丸く日輪の形をしていると云う。

『ぬは玉の夜は明けぬらし 玉の浦にあさりする鶴 鳴きわたるなり』と万葉集に詠まれている、風光明媚な土地である。

なお、相殿に仲哀天皇、神功皇后、応神天皇が祀られている。


玉比口羊神社前の交差点でタクシーから降りた男は周囲を見渡した。尾行者や監視者が無いのを確認するような仕草をした男は、近くに駐車していた黒塗りの車に乗り込んだ。

そして、その車は西に向かう県道62号線を走り去った。玉比口羊神社前から県道62号線沿いに西に2km行ったところには企業団地と住宅団地が混在しているT団地が小高い丘稜の上にある。


T団地の一角にある『AV総業株式会社』と書かれた看板のある敷地内に黒塗りの車が入って行った。



越の風華35;

2012年10月12日(金) 午後4時ころ 兵庫県警・刑事部暴力団対策課


『蘇民将来殺人事件合同捜査本部』の橘刑事、土井刑事と暴力団対策課の山形係長が事務机で話しあっている。


「河菱会本部常設監視チームの監視カメラの記録映像を確認しました。9月13日(木)の午後1時ころから午後2時30分くらいまで、『河菱会』本部にレンタカーで入った人物がいとりました。河菱会本部の門から入る時には車の後ろ姿しか映っとりまへんでしたんで顔を確認できんかったです。しかし、車で出てくる時は男の顔が記録映像に映っとりました。しかしサングラスを掛けとったんで風祭武文であったかどうかは不明です。橘刑事からのレンタカーナンバー情報とその車の番号は一致しとりますので、風祭武文と考えられます。警視庁に問い合わせたところ未確認ながら風祭武文は河菱会と何らかの関係があるとの情報でした。企業舎弟とまではいかんけど、河菱会から風祭に資金が提供されている節があると警視庁捜査2課では見とるようです。」と山形刑事が言った。

「河菱会の金が風祭に流れていると云うことですか。その金がレストラングループ・越路に投資されていた訳ですかね・・・。」と橘刑事が言った。

「長野県茅野市で死んどったレストラン越路の高城社長と西宮市で死んどった風祭が関係あると云うことやが、後に河菱会が絡んでいるのかどうかだな・・・。何か、河菱会をガサイレできる証拠があればいいんやが・・・。何かないですかね?」と山形係長が訊いた。

「今のところ何も掴んでいません。」と土井刑事が言った。

「東灘区本山町のマンションで死んでいた寺田純子のかつての男やった松永金融大臣は自殺で処理されたんやったな、確か。それに、レストラン越路の高城社長も自殺で処理されているな。いったい、相間関係はどうなっているのかやな。河菱会、風祭武文、高城六郎、寺田純子、松永雅洋の間の関係か・・・。すべては金が絡んでいるのんか?」と山形係長が呟くように言った。

「河菱会が犯人として、金が返されないのが理由ですかね・・・?」と土井刑事が言った。

「殺してしまっては、金は返ってきません。河菱会なら脅してでも金の回収に力を注ぐはずです。もっと他の理由があると思うのですが。」と橘刑事が言った。

「金以外の理由ね・・・。」


その時、暴力団対策課の部屋内がザワザワしはじめた。


「おい、何しとうねん、柳田?」と山形係長が訊いた。

「はい。また、河菱会のちょうの姿が消えました。」と柳田刑事が言った。

「何、狂犬が消えた? 月曜までは河菱会の本部に出入りしとったんやろ。」

「はい。例によって、またどこかで爆弾事件が起こるのかもしれません。過去3回のパターンと同じです。岡崎から神戸に来たと思ったら、河菱会の本部屋敷に寝泊りをして、毎日、朝夕は姿を見せていましたが、突然に外には姿を現さなくなりました。たぶん、数日すると、河菱会の本部から出てきて岡崎に帰って行くと思います。」

「また、河菱会の平安を祈る祈祷のために部屋に籠っとりました、と云うやつか。目撃証人が河菱会の組員ではな・・・。はあ・・・。」と山形係長がため息をついた。

「本部の中から外部に抜けられる抜け道でもあるのでは?」と橘刑事が言った。

「過去何回かの家宅捜索ガサイレの時に調べたが、抜け穴は発見出来けんかった。どっかにあるのかも知れんがな・・・。なんせ、日本庭園のある本部屋敷は和洋折衷で50部屋以上ある大邸宅やからな、判らんかった。近燐のどっかのうちが出口になっとるに違いないのやが、それが判らん。こんちくしょうや。」と山形係長が悔しそうに言った。

「河菱会・工藤組の張が雲隠れした件をいつも通りに、警察庁へ報告しますか?」と柳田刑事が山形に訊いた。

「ああ、警察庁刑事局長補佐の半田警視長にイントラネットのメールを入れとってくれ。半田警視長は岡崎市の工藤組には興味があるらしいからな。」と山形係長が柳田刑事に言った。



越の風華36;

2012年10月14日(日) 午前11時ころ 国会前庭


大和太郎と半田警視長が噴水池周辺のベンチに座って話している。


「中村竜の携帯電話の件を調べておきました。2年くらい前に岡山県倉敷市の携帯ショップで契約されていました。契約時の名前も中村竜です。住所は岡山県玉野市T町にあるT団地5号棟の○○○号室です。」と半田警視長が言った。

「以前もマンションに住んでいたのですか。」と太郎が言った。

「T町は工業団地と住宅団地が混在した地域で大手企業の下請け工場なども多くある地域です。玉野市内にあるM造船の下請け企業も多くあるようですね。中国や東南アジア、中近東などからの外国人を雇っている企業もあるようです。」と半田が言った。

「外国人労働者を雇っている企業ですか。」と言いながら、太郎はCIAのジョージ・ハンコックから聞いたアラビアン・ビークルの事を思い出していた。


「アラビアン・ビークルの背後には秘密結社のブラック・クロスがいる、と云う事であったな。表向きは中古自動車を日本で調達し、そのまま中近東の国々に輸出したり、中古車を解体して部品だけを取り出し、その部品を中近東のアラブ諸国に輸出している会社。しかし、裏では、ブラック・クロスの指令で様々な工作活動をしている可能性がある、ということであったな。そして、アラビアン・ビークルでは中近東からのアラブ人が働いている。中村竜は東京に来る前は岡山県に居たのか・・・。玉野市には造船所があるのか・・・。アメリカ第7艦隊本部が駐留している横須賀にも造船所はあるのかな?」と太郎は考えを巡らせていた。


「中村竜の素姓を洗ってみましたが、入国記録ではアメリカ・サンフランシスコの出身でした。長期就労ビザを取得しています。アメリカ国内での生活などは不明ですが、日本に来る時は中国人観光客のツアーガイドをすると云うことで日本の旅行会社JBEの職員になっていました。入国当初は東京の板橋のマンションに住んでいました。しかし、ほどなく旅行会社JBEを辞めてマンションは引き払って、所在不明になっていました。」と半田が言った。

「その中村竜は岡山に行っていたが再び東京に戻ったと云う訳ですね。」

「まあ、現在のところ犯罪に関わっているのかどうかは不明です。CIAから依頼を受けた大和探偵の調査対象ですから、当面、我々警察は静かにしておきます。」と半田が言った。

「恐れ入ります。」と太郎が言った。


「ところで、兵庫県神戸市と西宮市で発生した蘇民将来殺人事件のことですが・・・。」と半田が言った。

「何か進展でもありましたか?」と太郎が訊いた。

「西宮市内で遺体が発見された風祭武文が訪問していた河菱会本部屋敷にいた河菱会傘下岡崎工藤組のヒットマンが突然に姿を消しました。」

「殺されたのですか?」

「いえ、その逆です。何かの事件を起こすために姿をくらましたと考えています。過去にも3回、同様の事があり、その男が消えていた間に別の場所で爆弾テロ事件が発生しました。その事件の発生した時点には神戸市内の河菱会本部屋敷に籠もって加持祈祷をしていたと云うのが組員の説明でした。暴力団対策課では常時、刑事が監視記録映像を撮っていますので、その男が河菱会本部屋敷に出入りする姿は記録に残っています。」

「河菱会本部屋敷を抜け出して他所で爆弾を爆発させたわけですか。抜け穴でもあるのでしょうかね。」

「過去、何回も家宅捜索ガサイレを行っていますが、抜け穴の出入り口は発見出来ていません。」

「そのヒットマンの名前は?」と太郎が訊いた。

張帆二ちょうはんじといって、全国の暴力団からは河菱会の狂犬と呼ばれています。」

「河菱会の狂犬ですか。その男が風祭武文氏と寺田純子さんを殺した可能性があるのですか?」

「それは判りません。風祭武文と寺田純子の死亡推定時刻である9月13日夜の張帆二のアリバイは確認できていません。これが、張の顔写真です。身長は180cmです。何かの時にでもこの男を見つければ連絡ください。」と半田が言った。

「日本も広いですから、あてにしないで待っていて下さい。」と太郎が冗談っぽく言った。

「いえいえ、大和探偵の強運に期待していますよ、本当に。」と半田が真顔で言った。


別れ際に半田がたわむれに太郎に訊いた。

「その後、寺田純子さん死亡と松永金融大臣の自殺に絡んだ事件の調査は進みましたか?」

「いえ、まだ。全く進んでいません。警察は今でもやはり、松永金融大臣は自殺と考えているのですね。考えは変わりませんか・・・。」と太郎が頭を掻きながら答えた。

「まあ、頑張ってください。それでは、これで。ちょうの件、よろしく。」と半田は太郎に向かって軽く手を挙げた。



越の風華37;

2012年10月14日(日) 午後1時ころ 毎朝新聞本社応接室


鮫島姫子、向山社会部長、大和太郎の3人がソファに座って話し合っている。


「イタリア外務省の知人からアメリカ国債事件の二人の日本人に関する情報が入りました。イタリアでは刑事事件扱いではなかったのでイタリア政府から駐イタリア日本大使館経由で日本の外務省へ問い合わせたと云うことでした。」と姫子が言った。

国際刑事警察機構インターポール経由で日本の警察に紹介したのではなかった訳ですか。」と太郎が言った。

「ええ、そのようです。2009年6月当時、イタリア税関に拘束された人物の名前ですが、パスポートの記載内容によると、出身地が神奈川県の男はオオサキ・タカヒロ62歳で川崎市在住、福岡県の男はオカウエ・ショウイチ51歳で北九州市在住でした。」と姫子が説明した。

「えっ、北九州市のオカウエ・ショウイチですか?漢字はどういう字を書きますか?」と太郎が訊いた。

「英語でのメール交換でしたので、漢字での書き方は判りません。大和探偵がご存じの人物の名前ですか?」と姫子が訊いた。

「同じ発音の人物を知っていますが、同一人物かどうかですね・・・。」と言いながら、太郎はイスラエルの情報機関モサドの諜報員である岡上正一こと田中義一の事を思い浮かべていた。


「朝読新聞京都支社の中山記者の話では、岡上正一は5年前の2007年に聖武祇園連合会を創立し、組長になった時に住民登録を東京都調布市から福岡県北九州市に移したと云う事だったな。しかも、名前は岡上正一ではなく田中義一で。北九州に来る前の田中義一に関する情報は何も判っていないと云う事だったな。イスラエル情報機関モサドの岡上正一の年齢は40歳前後に見えるがな。しかし、イタリアとスイスの国境税関に拘束されたオカウエ・ショウイチは51歳か。イタリアでのオカウエはモサドの岡上ではないのか・・・? もし、岡上正一こと田中義一が偽造パスポートを使っていたとしたらどうなるか・・・。日本外務省からの回答の信ぴょう性は崩れるな。モサドが動いているのか? しかし、京都市のマンションで岡上自身が語った話では、オメガ教団が岡上正一と命名したと言っていたな。オメガ教団が岡上正一をイタリアに行かせたと云うことなのか・・・?」と太郎は考えを巡らせていた。


「大和探偵の知っているオカウエ・ショウイチとはどのような人物ですか?」と姫子が訊いた。

「いや、違っているとちょっと問題があるので、すこし調べさせて下さい。」と太郎が言った。

「イタリアの知人からの情報によると、日本の外務省からの回答では二人の日本人は日本銀行に職員であるとのだったらしいです。」と姫子が言った。

「二人は日本銀行の職員ですか・・・?パスポートの顔写真などは手に入りませんかね、姫子さん。」と太郎が姫子に言った。

「何か気になりますか、大和探偵。」と向山が訊いた。

「いえね、日本の外務省は本当に日本銀行に問い合わせて返事したのかどうか。もしかして、出国者記録を基にして回答したのかどうかと思いましてね。顔写真を確認出来れば、私の知っている人物かどうかが判るのではないかとおもいましてね。」と太郎が言った。

「日銀には問い合わせなかった。出国者記録なら偽造身分証でパスポートを取得している可能性があると云うことですか?」と姫子が訊いた。

「ええ、その可能性も考慮する必要があります。あるいは、イタリア駐在の日本大使館がイタリア入国の日本人記録から確認しただけでイタリア政府に返事のかも知れないですね。」

「しかし、日銀総裁名での回答がイタリア政府にはなされたという噂だったが、こいつはガセネタだった可能性があるのか・・・?」と向山部長が言った。

「ちょっと疑問点があるのですが・・。」と姫子が言った。

「何だ、姫子。」と向山が言った。

「実は、二人の日本人が税関に拘束されたあと、翌日にはイタリア人の弁護士が付いたようです。日本人旅行者がそんなに早く弁護士を雇えるとは思えません。イタリア国内に二人をバックアップできる人物がいたとしか思えません。二人で合計8個の携帯電話を所持していたらしいのです。どこかの誰かと連絡を取り合うのに、自分たちは複数の名前を使い分けていたのではないでしょうかね。」と姫子が言った。

「確かに、そうだな。イタリア国内ではないにしろ、二人をバックアップしている組織がイタリアかスイスにあると云うことかもしれないな・・・。あるいは、二人は詐欺師で誰かを騙していたとか・・。」と向山が呟いた。

「二人のために、すぐに弁護士が現れた訳ですか・・・。それに、日銀職員で北九州市在住というのはあり得ますかね・・・。川崎市ならまだ日本橋に通勤はできますがね。日銀の支社か出張所が北九州市かその周辺都市にあるのかどうかですね・・・。」と太郎は岡上正一こと田中義一を思い浮かべながら考えを巡らした。

「やはり、二人の日本人をバックアップしている組織が存在するのかを調べる必要がありますね。部長、私をイタリアに出張させてください。イタリア政府の知人に調査協力をしてもらえるかも知れません。」と鮫島姫子が乗り気で言った。

「バカタレ。そう簡単にイタリア出張許可なんか出る訳ないだろ・・。」

「そうおっしゃらずに、専務に掛け合ってくださいよ。スクープですよ、スクープ、ねえ部長・・・。」と姫子が向山に食い下がった。



越の風華38;

2012年10月16日(火) 午後3時ころ 玉野市・玉比口羊たまひめ神社


山陽新幹線の岡山駅で降りた大和太郎は駅西側にある日産レンタカーでジュークと云う車を借りた。

「ジュークか。そうすると、この車は音楽を奏でるジュークボックスなのかな。たしか、ジュークと云う言葉はアフリカ系の共通言語で、騒々しいとか云った意味があったな。」と太郎は思いながら、国道30号線を南に走り、JR宇野駅前に立ち寄った後、玉野市の玉比口羊神社まで来ていた。

玉比口羊神社の祭神は豊玉姫命、神功皇后、応仁天皇、仲哀天皇である。

拝殿前で参拝したあと、古代には御神体とされ、立石と呼ばれている四角錐状の大きな霊岩がある場所に来ていた。


「なるほど、縦長にした小型のピラミッドみたいな形だな。花崗岩で出来ているのか。自然にこの形になったとされているが、本当に人の手で加工されたのではないのだろうか。」と、太郎はいろいろと思いを巡らしながら巨岩を眺めていた。

「この霊岩由諸に書かれている説明によると、ある夜、三つの火玉がこのいわから飛び出した訳か。岩の天辺付近の出べそみたいな部位から火の玉が飛び出したのかな。その3つの火は神社の後に迫っている臥龍山の稲荷神社奥宮と西大寺観音様と牛窓にそれぞれ飛んで行ったのか。牛窓とは何処のことだろう?あまり聞いたことがない地名だな・・。」と太郎が考えていた時、携帯電話の呼び出し音が鳴った。


「はい、大和です。」

「警察庁の半田です。今、何処にいらっしゃいますか?」と半田が訊いた。

「岡山県の玉野市に来ています。」

「それはちょうど良かった。」

「何か?」

「今日の午前10時ころ、広島県呉市の海上自衛隊基地、地方総監部、補給基地が同時爆弾テロに遭いました。明日、呉警察署に行ってほしいのですが・・・。」

「構いませんが。」

「それでは、本日の夕方に玉野署に寄ってください。呉の現場情報を玉野署に入れておきます。」

「判りました。玉野市のT団地へ調査に行った後に玉野署へ行きます。」

「それでは、大和探偵、よろしく。」と言って半田は電話を切った。


T団地に向かうため神社横にある駐車場に戻ってきた時、白いフェラーリが駐車場に入ってくるのが太郎の目に止まった。


「あの白のフェラーリは横浜ナンバーだな。もしかして・・・。」と太郎はあの美人にまた会えるのかと、ウキウキしてきた。

そして、見覚えのある女性が車から降りてきた。


「こんにちは。稀寓きぐうですね。」と太郎は軽く会釈しながら白山しろやま泰子に声をかけた。

「あら、確か・・・、私立探偵の大和さん。こんにちわ。また、どうしてこちらに?」と泰子は軽く会釈した後、太郎に訊いた。

「依頼された案件の調査でこの近くの町に行くところです。白山しろやまさんはこの神社に用事ですか?」

「いえ、違います。瀬戸内海に浮かぶ広島県の大三島にある大山祇おおやまつみ神社に用事で参りましたの。そちらに行く前に少し寄り道して、この玉比口羊神社に参拝しようと思いましたの。こちらの神社は、豊玉姫様が主祭神であられますが、八幡神社に関係する神功皇后様と応神天皇様と仲哀天皇様も祀られています。これらの神様にご挨拶をするために参りましたのよ。豊玉姫様は富士山に居られます木花咲耶このはなのさくや姫様の御子である彦火火出見ひこほほでみ命とご結婚された神様で、お孫様が神武天皇ですわ。そして、神功皇后様は三韓遠征では亡くなられた仲哀天皇様に代わって女戦士として戦われました。」と白山泰子が言った。


「ああ、鎌倉の鶴岡八幡宮のご関係でお越しになったのですか。確か、鶴岡八幡宮は京都の石清水八幡宮を源義家公が勧請された神社でしたね。そして京都の石清水八幡宮は大和大安寺の僧侶である行教が神託を受けて、九州大分県の宇佐神宮を平安京の近くに国家鎮護と弓矢の守護を目的に勧請した神社でしたね。祭神は八幡大神、比口羊ひめ大神、そして女戦士の神功皇后でしたね。御苦労さまです。大三島の大山祇神社と云えば、全国の国宝級武具の8割を収蔵しているという日本の古社ですね。そして、祭神の大山祇命の娘が木花咲耶このはなのさくや姫でしたね。そして、白山はくさん奥宮を開いた泰澄上人の家系である越智氏族が神職を務める神社でもありますね。どのような用事なのですか?」と太郎は探偵にありがちな好奇心で訊いた。

「それは、秘密ですわ。うふふふふ。」と泰子は「大和さんって、好奇心の強い方ね。それに神様のことをよく勉強されているみたいだわね。」と思いながら軽く笑った。

「ああ、これは失礼しました。余計なことを訊いて、申し訳ありません。」と太郎は頭を掻いた。

「ところで、探偵さんって大変ですのね。全国を飛び歩いてばかりですの?」

「いえ、暇な時は暇ですが、依頼の内容によっては全国の何処にでも行きます。」

「そうですか。やはり、大変ですね。」

白山しろやまさんも全国の神社を巡られて大変ですね。」

「神様のお役に立つ為ですから、むしろ楽しいですわ。」

「そうですね。」と太郎は妙な会い槌を打った。

「お参りがありますので、それではこれにて失礼いたします。」と泰子が言って、別れの会釈をした。

「ああ、御引き留めして申し訳ありませんでした。それでは、これで。」と太郎も軽く会釈した。


「一度ある事は二度ある。二度あることは三度ある。今回の出会いは三度目だったし、四度目もあるかな。どうなるかな、楽しみだな・・・。」と思いながら太郎は自分のレンタカーに乗り込んだ。


大山祇おおやまつみ神社;

広島県尾道市から四国の愛媛県今治市に渡る瀬戸内しまなみ海道の通る愛媛県の大三島にある神社で創建年代は古代とされている。

大三島は愛媛県越智郡に属する島であるが、どちらかと云えば広島県に近い。瀬戸内海で島が最も密集している芸予諸島のうちで最大の島が大三島である。古代の海戦で活躍した三島水軍の拠点のあった島である。

祭神の大山積神一座(一族)の筆頭は大山積神であり、天照大御神の兄神であり、富士山浅間神社の祭神である木花開耶姫このはなさくやひめ命と榛名山富士神社の祭神・石長姫の父でもある。また、イザナギ尊が火之迦具土神を十挙剣で斬った時に生まれた神とも謂われている。日本の国宝、重文に指定された古武具、刀剣の8割を所有する神社である。大山積神の子孫は小千(越智)氏とされ、越前の越智氏の出である白山奥宮を開いた泰澄上人に繋がる家系である。

さる霊能者に謂わせると、大山積神は『事なかれ主義、腐敗を排除する断固たる神様』であるらしい。


(この小説で白山泰子が何をするために大山祇神社を訪問するのかは現在のところ不明である。著者自身もよく判っていないが、記述しておく。)



越の風華39;

2012年10月16日(火) 午後6時ころ 玉野警察署・会議室


「これらの写真が呉署から送られてきた自衛隊内の爆発現場写真です。」と言いながら鳥井刑事がパソコン画面を大和太郎に見せた。

「爆発の規模はそれほど大きくなさそうですね。」と太郎がいろいろな写真を見比べながら言った。

「そうですね。自衛隊を何か脅しているのでしょうかね。」と鳥井刑事が言った。

「自衛隊に脅迫電話などは無かったのですか?」

「特に、爆破予告などは無かったそうです。」

「この爆弾テロで死傷者は出たのですか?」

「隊員などは訓練や日常業務をおこなっていましたが、爆弾が仕掛けられた場所は人が集まる場所ではなかったのと、爆発規模が小さかったので被害者は居ませんでした。」

「時限爆弾だった訳ですね。」

「ええ、そのようです。自衛隊の調査ではプラスチック爆弾が使われたと判断しているようです。」

「時限装置の付いたプラスチック爆弾ですか。犯人の自衛隊基地などへの侵入経路や侵入時刻などは判明しているのですか?」

「それは、現在のところ調査中で判っていないようです。前日の夜間か本日の早朝未明と云うところでは?24時間時計が使われたのか、12時間時計が使われたのかで判断は絞られますが、破片の調査が進まないとね・・。」と鳥井刑事が言った。

「これらの写真をプリントアウトしていただけますか。」と太郎が言った。

「かしこまりました。しばらくお待ちください。ところで、本日の宿泊先はお決まりですか?」

「岡山駅前のビジネスホテルを予約してあります。明日は、新幹線で広島へ移動するつもりです。ああ、それから、少しお訊きしたいのですが。」と太郎が言った。

「何でしょう?」

「牛窓というのは何処にありますか?」

「牛窓?ああ、地名ですね。現在、牛窓は町村合併で瀬戸内市の一部になっています。瀬戸内市は岡山市の東を流れる吉井川を渡った、兵庫県寄りにある市で、瀬戸内海に面しているところが牛窓です。オリーブ園などがある村です。農村と云うよりは漁村ですね。『日本のエーゲ海』と称して観光に力を入れていますね。ギリシャ風の建築物が目につく村ですね。」と鳥井が説明した。

「何か伝説でもある村だったのですか?」

「ああ、ありますよ。神功皇后が三韓征伐の道中に塵輪鬼じんりんきと呼ばれる頭が八つの巨大怪物牛に襲われ、弓矢で射殺しました。そして、三韓征伐を終えて新羅しらぎからの帰途、成仏できず牛鬼となった塵輪鬼に再び襲われます。新羅神しんらこうでもある住吉明神がその牛鬼の角を掴んで投げ飛ばします。その場所を牛が転んだので牛転うしまろびと呼びました。牛転うしまろびが訛って牛窓うしまどとなったそうです。牛窓の瀬戸内海に浮かぶ前島、黄島、黒島、青島はこの牛鬼の胴体、頭、お尻、背中が化けて出来た島と謂われています。」と鳥井刑事が説明した。

「八つの頭を持った牛が再び襲った訳ですか・・・。そして、牛窓に玉比口羊たまひめ神社から火の玉が飛んで行った訳か・・・。」と太郎は呟きながら、八坂神社の祭神であるスサノオ尊こと、すなわち牛頭天王のことを思い浮かべていた。



越の風華40;

2012年10月19日(金) 午前11時ころ  国会前庭


「現場への進入経路はやはり不明です。現在、呉市内各所の監視カメラ記録映像を分析中ですが、まだ何も判明していません。」と半田警視長が言った。

「河菱会の張帆二が姿を消したのと関係はありそうなのですか?」

「昨日、張が河菱会本部屋敷から出てきたようです。そして、岡崎に帰って行ったということです。また、姿を消していた間に爆弾事件が発生した。しかし、今回は対象が暴力団ではなく自衛隊という点がちょっと気にかかります。しかも、規模が小さく、人的な被害を狙ったのではないようなのです。河菱会が自衛隊を脅しても何のメリットもないと思われるのですがね・・・。」と半田が問題提起した。

「そうですね。どこかからの依頼で河菱会がテロを実施した、と考えるとどうなりますか?」と太郎が訊いた。

「例えば、誰が?」

「海上自衛隊を嫌っている日本周辺の国とか、K国などはどうですかね。」と太郎が言った。

「海上自衛隊の行動を恐れている国ですか?いや、自衛権しか持たない自衛隊を恐れることはないと思いますよ。それよりも、何かの儀式ではないかと。」

「儀式ですか?」と太郎が訊き返した。

「今年の3月、時限爆弾を持った7人の男が殺された事件がありましたよね。犯人は捕まっていませんが、大和探偵の意見ではKISSの弾武典ではないかと云う事でしたね。」

「ええ、そうではないかと。そして、弾武典はすでに死んでいるのではないかと思うのですが、神威示現斎こと岳内太郎が関係する影の軍団に殺されて。」

「そして、大和探偵の説では殺された7人はブラッククロスかオメガ教団の人間ではないかと云うことでしたね。」

「私はそうではないかと思うのですが・・。」と太郎が言った。

「実は、大和探偵に呉市の海上自衛隊基地などの爆発現場に行って頂いた理由はそこにあります。最近の公安部からの報告によると、オメガ教団幹部と河菱会幹部が時々、酒宴を設けているというのです。」

「オメガ教団と河菱会が接近しはじめた訳ですか?」

「そうです。それで、ダイナマイトやプラスチック爆弾に精通している河菱会の狂犬・張帆二をマークしていたのです。しかし、今回もまんまと抜けられてしまいました。」と半田が言った。

「オメガ教団と河菱会の背後にはブラッククロスがいる訳ですか?」

「そうです。大和探偵がお得意の日本列島は世界の縮図と云うあれですよ。」

「日本は世界の縮図で、日本で起きたことは世界で起こる、と信じているブラッククロスが動いている訳ですか・・・。」

「そうです。大和探偵が行かれていた岡山県玉野市はギリシアのアテネです。瀬戸内海に浮かぶ芸予諸島がイタリア半島と見なすと、広島市はイタリアのジェノバ。そして、広島県の呉市はイタリアのローマと想定できます。」と半田が言った。

張帆二ちょうはんじが属する工藤組のある岡崎市はペルシア時代のアレキサンダー大王が燃やしたイランのペルセポリス遺跡のある場所、あるいは住んだバビロン。河菱会の狂犬こと張帆二ちょうはんじはアレキサンダーがヨーロッパ遠征の時に連れて行ったペルシア生まれのマスチフ犬ですか。その後、マスチフ犬はイギリスの軍用犬としてヨーロッパで育てられましたね。」と、太郎は以前にルル・アラブ師から聞いた話を思い出しながら言った。


「ノストラダムスの諸世紀二章96番では『強烈な火が夜の天に見え、ローヌの終りと初め近くに、剣と飢えに、大変遅れた助けが来る、ペルシアはマケドニアに対抗するために来る。』とノストラダムスは述べています。そして、諸世紀二章41番に『大きな星が七日間燃え、雲間から二つの太陽が現れ、一晩中大きなマスチフ犬が吠え、教皇は国土を変える。』です。」と半田が言った。

「ブラッククロスはいよいよヨーロッパに混乱をもたらすことを実行し始めたという事か・・・。ああ、そうか。ローヌの初めと終りとは、イタリア北部のアルプス山脈に水源があり、スイス・ジュネーブのあるレマン湖に流れ込み、更にレマン湖から流れ出しフランス南部のマルセイユ近くで地中海に流れ込むローヌ川のことか。古代、イスラム圏の北アフリカ地中海地域にあったカルタゴ国の闘将ハンニバルはフランスから上陸し、アルプスを越えてイタリア・ローマ帝国へ攻め込んだのだったな。ローヌの終りはフランス南部地中海に面したアルル地方、ローヌの初め近くはアルプス山脈の南にあるイタリアの都市ミラノかな?ミラノは西ローマ帝国の首都であった時もあったな。」と太郎は考えながら、二人の日本人によるアメリカ国債運搬事件を思い出していた。

「ローヌの初め近くとはイタリア・ミラノ近辺、ローヌの終りとはフランス・アルル近辺と考えるとどうなる? レマン湖にはスイス・ジュネーブがあり、スイスの国旗には赤地に白十字が描かれている。そしてイタリア・ミラノ市の市章は白地に赤十字。イタリアからの赤いお金は、スイスと云う白で和平の象徴を赤く染め、戦乱に巻き込むための準備で、日本円に換算して13兆円相当の国債。赤い十字架が丸い赤玉に代わる訳だな。だから、日本人が運搬しなければならなかった。13の意味を強調するために・・・かな?


では、13の意味は何か?イエス・キリストが十字架を背負いゴルゴダの丘の13階段を登った?本当にゴルゴダの丘には13段の階段があったのか?本当にゴルゴダの丘で処刑された13番目の人物がイエス・キリスト?13日の金曜日がキリストの処刑された日か?最後の晩餐の12使徒とキリストの13人が居た?あるいは13番目の使徒とは竹内文献の竹内巨麿が言っているキリストに代わって処刑された弟の事を意味するのか? 13の謎か・・・?


いずれにしても、十字架で処刑されたのは事実か・・・。もし、イタリア当局に拘束されたオカウエショウイチがイスラエル情報機関モサドの岡上正一なら、2009年当時はオメガ教団に潜入し、オメガ教団の指示で福岡に暴力団・聖武祇園連合会を設立していた頃になるな・・。岡上正一と云う名前はオメガ教団が考え出した、と岡上正一こと田中義一は語っていたな。そして、オメガ教団の背後にはブラッククロスがいる訳か・・・。そして、現在のハンニバルがローマに攻め込むことになるのか・・?」と太郎はいろいろと考えを巡らしていた。


「大和探偵、何か考えがひらめきましたか?」と黙り込んだ太郎に半田が訊いた。

「あっ、いえ。別件の依頼調査の事を考えていました。黙り込んでしまって、すいません。」

「その別件は呉の事件と関係がありそうですか?」と半田がカマを掛けた。

「いえ。それは不明です。この件は守秘義務がありますので、ちょっと話せません。」

「そうですか。ところで、玉野市のT団地はどうでしたか?」と半田が訊いた。

「あの地域は何かありそうな気がしました。実は、調査対象の中村竜ですがブラッククロスかオメガ教団に関係がありそなのです。アラビアン・ビークル社に出入りしています。」

「CIAがマークしているアラビアン・ビークル社ですね。」と半田が言った。

「半田警視長も御存じでしたか。」

「我々の公安部もマークしています。先日、池袋のアラビアン・ビークル社の社屋ビルの前に大和探偵が現れたとの報告を受けています。」

「なーんだ、お見透しでしたか。参ったな・・・全く。半田警視長も人が悪いですね、今まで黙っているなんて・・・。」と太郎があたまを書いた。

「いや、失礼しました。出しゃばっては何だと思いまして、黙っていました。」と言って、半田はニヤリとした。



越の風華41;

2012年10月19日(金) 午後1時ころ  毎朝新聞東京本社・応接室


「オカウエショウイチが私の知っているイスラエル情報部モサドの岡上正一なら、国債運搬が発覚したのは岡上がモサドに報告し、イスラエル政府からの国債運搬情報がイタリア政府に流された可能性があります。そして、イスラエルは岡上正一の正体が明らかになるのを防ぐため、弁護士を派遣し、イタリア政府に無罪釈放を働き掛けたのではないかと推理できます。」と太郎が言った。

「なるほど、そう云うことか・・・。これは、姫子をイタリアに出張させて裏を取る必要があるかな・・・。」と向山部長が呟いた。

「イスラエルはブラッククロスの計画の詳細を掴んでいるのだろうか・・・。岡上正一こと田中義一は現在、どうしているのだろうか・・・。」と太郎は思った。

「しかし、13兆円相当のアメリカ国債の出処はどこなんだ。ブラッククロスか?それとも、バチカンの金か?あの事件の2年後、イタリア当局はマネーロンダリング容疑でバチカン銀行に罰金を支払わせているが・・・。」と向山部長が言った。

「しかし、何故に松永金融大臣や寺田純子、風祭武文、高城六郎が死ななければならなかったのかが不明です。真相に気が付いたからですかね・・・。」と太郎が言った。

「他に理由があるのか?」

「牛王神符に朱文字で書かれた蘇民将来の意味が何かです。」

「その意味は?」

「判りません。もしかして、生贄いけにえかも・・・?」と、藤原教授の仮説の話を思い出していた。

また、CIAとの守秘義務お考え、太郎はブラッククロスが動いている可能性については向山には隠した。

「生贄ね・・・。しかし、大和探偵は何故に岡上正一がモサドであることを知っているのですか?」と向山が訊いた。

「それは、別案件が絡んでいますので、申し訳ありませんがこれ以上は話せません。」

「そうですか。岡上正一、確か、北九州の聖武祇園連合会の組長だった。理由がはっきりしないまま、捜査が縮小された都府楼殺人事件で姿を消した男。それが、モサド要員ね・・・。面白い。やはり、姫子をイタリアに出張させる必要があるかな・・・・。」と向山部長が呟いた。



越の風華42;

2012年10月25日(木) イタリア・スイス国境の町、スイス国キアッソ市


鮫島姫子は知人であるイタリア政府のマルチェロ・アンジェローニの案内でイタリアとスイス国境のキアッソ駅に来ていた。

アンジェローニ氏は、かつて日本駐在イタリア大使館に居たころ、京都観光案内役をしたのが京都のK大学文学部英文科に在学中の鮫島姫子であった。

姫子はアルバイトで種々の国から来た外国人の京都観光案内を行ったことから多くの外国政府関係者を知っており、それぞれの国の人たちをお互いに紹介してあげていたので、観光案内した外国人から感謝されていた。

その為、姫子のためなら多少の時間を割いてくれる外国の知り合いを姫子は多く持っていた。

アンジェローニ氏もその一人であり、日本から帰国した後は引き続きイタリア外務省の役人をしていた。


「ここから、スイスのチューリッヒ行きの列車が出ているのですね。」と駅の列車案内を見ながら姫子が言った。

「ええ。スイス経由でドイツへ行くイタリア人もこの駅を利用します。例の二人の日本人も拘束された時、イタリアのミラノからスイスのチューリッヒまでの切符を持っていたようです。チューリッヒはスイスの金融業をはじめ商工業などの経済の中心地です。ほら、あそこがイタリア政府当局のキアッソ事務所です。知りあいが勤務していますから行ってみましょう。あらかじめ連絡しておきましたから、何か情報をくれると思いますよ。」と事務所の方角に右手を上げながらアンジェローニが姫子に言った。


その後、アンジェローニの友人であるマリオ・カラッチーノと鮫島姫子たち3人は駅近くにあるカフェテリアに場所を移し、ビールを飲みながら話をしている。


「内密の話ですが、2009年の日本人拘束事件はイスラエル国政府からの情報で、イタリア財務警察が動いた事件でした。『近日中に日本人が多額の国債をイタリアからスイス方面に運ぶ』と云う情報がイスラエル政府よりあり、検問を強化していたところに、あの二人の日本人が現れました。拘束した当日にイタリア人弁護士が現れ、『偽国債を所持していてもイタリアでは犯罪に当たらない。即刻に釈放しないと法廷に提訴する』ということで釈放することになった。」とカラッチーノが事件の経過の一部を明かした。

「拘束した当日に弁護士が現れるとは、タイミングが早くないですか?」と姫子が訊いた。

「その後の調査で日本人たちはイタリアのミラノ駅から乗り込んでいる姿がミラノ駅の監視カメラに映っているのが確認されています。その時は3人連れの東洋人男性の姿として映っていました。」

「3人連れでしたか。」と姫子が呟いた。

「キアッソ駅での検問ではもう一人の日本人がいたことが判っています。しかし、その人物の名前の記録は残っていませんでした。当然、二人の日本人との関係は不明です。しかし、二人の日本人が拘束されたあと、その日本人が白人男性と話している姿がキアッソ駅の監視カメラシステムに映像記録されていました。」

「三人目の日本人がいた訳ですか・・・。」と姫子が言った。

「そして、キアッソ駅近くに事務所を開いているイタリア人弁護士に二人の日本人の弁護を依頼した人物はハンス・マルクスという人物でした。その名前からしてドイツ人ではないかと思われますが、日本人の友人だと話していたそうです。キアッソには国境の検問所があるため、問題が出た時には弁護士を呼ぶ旅行者もいます。そのため、キアッソ駅近くには弁護士事務所が数件あります。」とカラッチーノが言った。

「三人目の日本人が会っていた白人がそのドイツ人とすると、三人の日本人が国債を運んでいたことになりますね・・・。国債運搬の目的は?そして、三人目の日本人男性も別の国債を運んでいた可能性がありますかね。」とアンジェローニが言った。

「それはどうだか判らないね。」とカラッチーノが答えた。

「しかし、白人男性が二人の日本人のために弁護士を雇ったとなると、国債運搬の背後には何かの組織があると云う可能性が強くなってきますね。」と姫子が言った。

「イタリア人弁護士の話では、ハンス・マルクスは単なる旅行者だと言っていたそうです。すぐに動けば大金を支払うと云うことだったとかで、日本人拘束後2時間くらいでイタリア財務警察に弁護士は姿を現わしたそうです。」とカラッチーノが言った。

「その弁護士事務所はこの近くにあるのですか?」と姫子が訊いた。

「もう、ありません。2年くらい前にミラノに引っ越したとのことですが、消息は知りません。」とカラッチーノが言った。



越の風華43;

2012年10月27日(土)  地中海シシリー島アグリジェントにある神殿の谷


鮫島姫子がイタリアへ出張するのを聞いた毎朝新聞文芸部長から依頼を受けて、姫子は地中海のシシリー島に来ていた。

文芸部では来月から『地中海文明と文化』の特集を日曜版に掲載する予定であり、姫子の取材力と記事作成能力に大きな期待を寄せていた。


「ギリシア文明の名残なごりがここ、アグリジェントにあるのね。ドーリア式の神殿が7つあるのか・・・。」と思いながらジュピター神殿遺跡に姫子は立って一眼レフのデジカメで周囲の写真を撮った。

「これが人像柱のテラモーネか・・・。これはレプリカで、本物は考古学博物館のあると云う事だったわね。確か、考古学博物館にはアジヤ、アフリカ、ヨーロッパを表すテラモーネの頭部が3つ展示されているという事だったわね。後で考古学博物館に行ってみるか・・・。」と姫子は思いながら、8mくらいの長さの石柱が横たわっている場所を眺めていた。


「ここがヘラクレス神殿ね。ギリシアのパルテノン神殿にあるのと同じ様な石の円柱が8本建っているわね。向こうには6本と16本の円柱が残っているわね。カルタゴ軍に破壊されなかったら美しい神殿が見られたのかも知れないわね・・・。うーん。」と紀元前にあったローマ軍とカルタゴ軍の戦闘状況を想像しながら姫子は周囲の風景を写真に撮った。


「ここはコンコルディア神殿ね。和解、平和、調和を象徴するローマの女神の名前がコンコルディアだったわね。6世紀ころのキリスト教時代には聖ペテロ・パウロ教会として利用されたこともあったわね。しかし、ギリシア人は何故に神殿群をこの島に造ったのだろうかしら・・・?ギリシアにも寄ってから帰国にするかな・・・。」と考えながら前面6柱、側面13柱で構成された破風を持つ石円柱建築物を姫子は眺めていた。



越の風華44;

2012年10月29日(月)   兵庫県から埼玉県への神代の遷宮


本日、10月29日は兵庫県西宮市苦楽園町にある藤沢三男の自宅神棚に祀られていた神代かみしろを神託に従って埼玉県比企郡鳩山町に遷す日であり、武庫茂、大和太郎、曽我健三教授が遷宮に同伴することになっていた。

大和太郎の調査協力で神棚の移転先が見つかり、その家へ神棚を遷宮するため、ワンボックス車に神代を乗せていた。

苦楽園に祀られていた神々は、江戸時代中期に藤沢三男の先祖が出雲大社より拝領した白蛇のミイラを納めた木箱、伏見稲荷社、母恩寺弁財天の三柱の神代であった。

母恩寺とは、1168年ころ後白河法皇が母親である鳥羽天皇の皇后・藤原璋子ふじわらあきこの菩提を弔うために創建した寺で、現在の大阪市都島区にある。太平洋戦争中に爆撃で全焼し、現在は小さな寺に姿を変えているが、戦前は広大な境内に弁財天を祭る大きな蓮池などがあった模様である。何故に、藤沢三男の家に祀られていたのかは不明である。


「今回の遷宮に際し、奈良の大神おおみわ神社と芦屋神社から新しくお札を頂いてまいりました。」と藤沢三男が言った。

「出雲大社の祭神と関係が深い、大物主大神、大巳貴おおなむち神、少彦名すくなひこな神を祀る大神おおみわ神社。そして、大巳貴神こと大国主命を助けた天穂日命を祀る芦屋神社からの神代ですか。」と大和太郎が言った。

「遷宮先の家は代々、窯業を営んで来られた旧家と云う事でしたな。」と曽我教授が言った。

「そうです。鳩山窯と呼ばれる焼き物を作られている家系の方です。」と太郎が言った。

「なるほど。鳩山窯ですか。T大学の宝達教授が研究されていた焼き物ですな。16弁菊花紋に似た複弁8葉紋の軒丸瓦が出土した古代瓦窯遺跡がある比企郡鳩山町でしたね。」と曽我教授が言った。

「先方様の神棚には白山比口羊しらやまひめ大神と宇佐神宮の比売神が祀られています。」と藤沢三男が言った。

「白山大神、宇佐神宮の女神と出雲の神々の合体。そこに、伏見稲荷と弁財天が同居ですか・・・?何を意味するのでしょうかね、越木岩神社でのあの神託は・・・。」と曽我教授が考え込んだ。


「まあ、考え事はそのくらいにして、早く神代を車に乗せてください。話すのは車を出発させてからにしましょう。西宮から鳩山までは高速道路を時速80Kmで走ったとして10時間以上かかりますからね・・・。現在、午前8時過ぎですから、鳩山町に着くころには太陽は沈んでいます。」と武庫茂が言った。


西宮市苦楽園町を9時前に出発し、西宮ICから名神高速道路に入り、愛知県で中央高速道路に入り、諏訪湖サービスエリアで遅い昼食を取った後、夕方には富士山が見える山梨県内を走っていた。道路工事のため、二車線走行が一車線走行に狭まり、車が少し渋滞している。

雲一つ無い明るい青空が濃い青色に染まり始め、白い満月がポッカリと富士山の横に浮かんでいるのが車のフロントガラスを透して見えていた。


「お月さまが神代を歓迎しているようですね。」とハンドルを握りながら太郎が言った。

「富士に満月。葛飾北斎の富嶽三十六景も負けそうな絶景ですな。」と曽我教授が言った。

「本当ですね。富士山の神様である木花開耶姫このはなのさくやひめ命をはじめ、関東の神々様に歓迎されているような感じがしますね。」と武庫茂が言った。



その時、カーラジオの番組ではTVアニメ映画『新世紀エヴァンゲリオン』のエンディングテーマ曲として紹介された『Fly me to the moon』の音楽が流れていた。


♪ Fly me to the moon ♪     ((神様、)私を月へ連れて行ってほしい)

♪ And let me play among the stars ♪   (そして、宇宙空間の星で遊ばせてほしい)

♪ ・・・・・・・・・・・・・・・♪

♪ On Jupiter and Mars ♪        (たとえば、木星や火星の上で)

♪ ・・・・・・・・・・・・・・・♪

♪ All I worship and adore ♪       (私が尊敬し、賛美するすべて(の神様)に)

♪ In other words please be true ♪     (言い換えれば、(神様の存在は)真実であってほしい)

♪ In other words I love you ♪       (言い換えれば、私はあなた(神様)が好きです)

♪ ・・・・・・・・・・・・・・・♪



平成24年10月29日(月) 大安たいあん のぞく ちょう

大安たいあん:万事において大吉

のぞく:不浄を払い、百凶を除く日

ちょう:神仏祈願、種まき、開業などの慶事に用いて吉



夜のとばりが下りた午後8時ころ、一行は鳩山町の水沼家に到着した。

そして、ワンボックス車から神棚に祀る神代を降ろし、水沼家の神棚のある和室に運び込んだ。

神代が入っている梱包を開くのは翌朝にする事にして、太郎たち一行は鳩山町の隣町である坂戸市内の宿泊予約していたホテルに向かった。



越の風華45;

2012年10月30日(火)   埼玉県比企郡鳩山町の水沼家


水沼家は鳩山町農村公園の近くにあり、鳩山窯の遺跡がある場所から200mくらい離れた小高い丘の上にある。いかにも旧家と謂った白壁の門構えで、大きな木戸がある。

気象観測衛星からの電波信号を受信する白い大きなパラボラアンテナ2基が、水沼家から4kmくらい遠方にある緑の木々に囲まれた丘陵の中に見えている。その後方には外秩父連山の山並がクッキリと姿を見せていた。

また、水沼家の近くには十字架を掲げた小さなキリスト教会も建っている。


外秩父連山の麓には入間郡毛呂山町が広がっており、その町中に円い古墳と思われる臥龍がりょう山がある。

臥龍がりょう山の頂きには出雲伊波比いずもいわい神社がある。

出雲伊波比いずもいわい神社の主祭神は大巳貴命(大国主命)、天穂日命であり、相殿に息長足姫おきながたらしひめ命、誉田別ほんだわけ命の八幡神が祀られている。

(※著者注;息長足姫命は神功皇后、誉田別命は応神天皇のことである)


八幡神が祀られた経緯は1063年に源頼義・義家の父子が奥州平定した帰途に八幡神の霊が宿るかぶとを奉納したことに始まる。この時、『流鏑馬やぶさめ神事』も奉納し、現在も11月3日に流鏑馬神事は行われている。25年くらい前までは、本殿の外に八幡神社祠があったが、現在は本殿内に神霊は遷され、主祭神と合祀されている。


出雲伊波比いずもいわい神社の創建は不詳であるが、第12代景行天皇53年(西歴123年)、倭建命やまとたけるが東国を平定凱旋した際に社殿を造営し『比々羅木鉾ひいらぎのほこ』を奉納したと謂われている。

主祭神等の他に、少彦名命、素盞鳴すさのお命、須勢理比売命、大日?おおひるめむち命、豊受姫命、菅原道真公、迦具土神、大雷神、建御名方命、大山咋命、上筒男命、天鈿媛命、伊弉諾いざなぎ命、伊弉冉いざなみ命、高麗神が合祀されている。


水沼家の神棚には、左から白山比口羊しらやまひめ大神、宇佐神宮の比売大神、伏見稲荷大神、天穂日大神、大神(三輪)大神と出雲の巳様、母恩寺弁財天が祭られた。


「無事の祭祀、おめでとうございます。」と当主の水沼武日みずぬまたけひが言った。

「以後、よろしくお願いいたします。」と藤沢三男が言った。

「それで、別棟のお部屋にはいつ頃にお引越しになる予定ですか?」と水沼武日が訊いた。

「はい。毎月1回から2回程度、仕事で東京に出張してきますので、その時に寝泊りできる程度の家財道具を来週中にでも送らせていただきます。荷物開梱は私が来て行いますから、荷物だけ受け取っていただければと思います。お家賃は指定の銀行口座に毎月お振込させていただきます。」と藤沢三男が言った。

「承知いたしました。別室に軽い昼食をご用意いたしました。そこで今後の事を少しお話しいたしましょうか。」と水沼武日が言った。

「そうですね。出雲伊波比神社にお願いする神棚遷宮祭の日取りなども決めたいと思います。」と藤沢三男が言った。

そして、藤沢三男、大和太郎、武庫茂、曽我健三たちは水沼武日の案内で別室に向かって歩き出した。



越の風華46;

2012年11月1日(木)   午後1時ころ  毎朝新聞東京本社・応接室


大和太郎と向山部長が鮫島姫子からイタリア出張報告を聞いた後、意見交換をしている。


「姫子さんがイタリアの友人から貰って来た北九州市在住の岡上正一51歳のパスポートの顔写真は私が知っている岡上正一と同一人物です。そして、もう一人の川崎市在住の大崎隆弘62歳は私の知らない人物です。事件のあった2009年当時、岡上正一は福岡県に住んでいたと言っていました。」

「では、3人目の日本人とは誰でしょう?」

「それは判りません。イタリアのミラノ駅での監視カメラからは顔は判らないと云うことでしたね。イタリアの入国記録を調べても、当時の入国した日本人男性群からその人物を特定できるかどうかは、はなはだ疑問です。」と太郎が言った。

「この前の話では、岡上正一は北九州市にある暴力団『聖武祇園連合会』の組長でイスラエル情報機関モサドの要員でしたよね。去年の夏にあった都府楼殺人事件に関連しているのではないかと警察では行方をさがしていた人物。しかし、その殺人事件の捜査本部は解散になり捜査は縮小され、今や迷宮入りになりそうです。あの事件は公安部も乗り出し、警察庁ではオメガ教団が関係しているのではないかとの考えでしたよね。それが、北九州市若松区にあるオメガ教団の研修所に自衛隊のジェット戦闘機が墜落し、大火災が発生した後に、突然に捜査本部が解散になり捜査規模が縮小された。その理由が、都府楼殺人事件の犯人がその大火災で死亡した可能性があると云う理由だった。当時、大和探偵も都府楼殺人事件の容疑者の無実を証明するために調査活動をしていましたよね。現在、行方をくらましている岡上正一について何か他に知っていることはないのですか、大和探偵。」と向山部長が言った。

「確かに、この写真の岡上正一は『聖武祇園連合会』の組長で、モサド要員でした。現在、聖武祇園連合会は解散して存在しません。岡上正一の消息も知りません。モサドの潜入捜査員でオメガ教団の諜報活動をしていた岡上正一はオメガ教団から派遣されて聖武祇園連合会を北九州市に創った模様です。岡上正一の名前も本名ではないでしょう。しかし、イタリアで持っていたパスポートが偽造だったのか、本物だったのかは不明です。パスポートの書かれていたこの本籍地が実在の住所かどうかですが、それは問題ではありません。オメガ教団が何の目的で岡上正一に聖武祇園連合会を創らせたのかです。そして、2009年6月にイタリアへ行った目的が何だったのかです。当時の岡上正一の置かれた環境を考えれば、その背後にはオメガ教団が存在していると考えるのが妥当でしょう。13兆円相当のアメリカ国債所を運搬する目的が何だったのか。イスラエル政府は日本人が国債をスイスに持ち込む情報を岡上正一からの情報で知って、何を狙ってイタリア政府に知らせたのか。イタリア政府に知らせずに、その行方を追いかけることもイスラエル情報機関なら必要な事項でもあったはずです。イスラエルはアメリカ国債運搬の目的をすでに知っていた可能性も考えられます。そして、黙っているよりも運搬を暴露した方がよいと考えた訳です。なぜ、イスラエルはそう考えたのかです。」と太郎は、岡上正一の別名が田中義一でることは伏せたままにして言った。

田中義一が本名であるかどうかは不明であり、もし田中義一の名前で活動しているとして、新聞社にそれを教えてモサドの迷惑になってはいけないと云う、太郎なりの配慮であった。

更には、太郎に田中義一の情報をくれたのが毎朝新聞社のライバルである朝読新聞社京都支社の中山記者であり、その恩義に反する訳にはいかいという思いも太郎にはあった。

「オメガ教団か・・・。何を考えているのかだな。第三の日本人が居たとはな。」と向山部長が考え込んだ。

「オメガ教団が遣わした3人の日本人は東方の三博士ですかね。」と姫子が言った。

「何だ、東方の三博士とは?」と向山が姫子に訊いた。

「救世主イエスが生まれるのを知った東方の三博士。13兆円の13は救世主イエス・キリストの受難を表す数字です。だから、イスラエルは運搬を暴露し、オメガ教団の陰謀を防いだ。これから現れる救世主を守るために。」と姫子が言った。

「東方の三博士、または三賢人と呼ばれる占星術あるいは天文学の学者がユダヤの王が生まれたのを知り、ベツレヘムで生まれたイエス・キリストを拝んだとされていますね。その時、三博士は黄金、乳香、没薬などの宝物をイエスに贈ったとされている。黄金は王権の象徴、乳香は神性の象徴、没薬は将来の受難と死の象徴とされています。三人の日本人が運んだ13兆円は救世主の受難と関係する訳ですかね。なるほど・・・。それがオメガ教団の狙いですかね・・。」とD大学神学部を卒業している大和太郎は言いながらブラッククロスのナンバーセブン計画を思い出していた。

「弁護士を雇ったハンス・マルクスという名前の男はドイツ人ですかね。3人の日本人はイタリアのミラノ駅からスイスの金融の町チューリッヒ駅までの切符を持っていたのだったな。チューリッヒから更にドイツに入国する予定だったのかな。ハンス・マルクスとは何者だ?」と向山部長が言った。

「イスラエルの狙いとオメガ教団の目的は何だったのでしょうね?」と姫子が言った。

「何でしょうね?」と太郎も首をひねった。



越の風華47;

2012年11月1日(木)   午後2時ころ  毎朝新聞東京本社・玄関ロビー


新聞社の玄関で太郎を見送った後、姫子は向山部長の腕を引っ張った。


「何だ、姫子。」

「大和太郎は何かを隠しています。あいつは、昔から嘘をつくのが下手くそですから、すぐ判ります。」

「何を隠しているというのだ、姫子?」

「ハンス・マルクスです。それと、岡上正一の正体です。岡上はオメガ教団が創った、明らかな偽名です。その岡上を知っている大和太郎が正体を調べないはずがありません。岡上はモサド要員と云うだけでなく、もっと何かの事件に関係しているのではないですかね。また、ハンス・マルクスはキアッソ事件の他に、どこかで聞いた記憶があります。どこだったか思い出せませんが・・・。」と姫子が言った。

「ハンス・マルクスか・・・?どこかで訊いた記憶か・・・?うーん。ドイツ人か。」と向山が考え込んだ。


「そうか、思い出したぞ。二年くらい前に横浜のホテルであった、赤い靴女性殺人事件の容疑者として指名手配されたドイツ人だ。」と向山部長が言った。

「そうです。レッドシューズプロと云う芸能プロダクションに属していた高級コールガールと思われる女性を殺した容疑者でした。あの事件は結局、有耶無耶になって捜査本部も消滅しましたね。」と姫子が言った。

「ハンス・マルクスが国外逃亡したため、追跡不可能と云うことで、神奈川県警の捜査本部は廃止された。あの殺人事件は、横須賀のアメリカ海軍基地を巡る情報戦が絡んでいるのではないかとの噂があったが、警察からの事実発表は何もなく終了した事件だった。ハンス・マルクスか、どこかの国の諜報部員と云うことかな?そして、殺された女も何処かの諜報部員であったのかも知れんな。もう一度調べてみるか、殺された女の素姓すじょうをな・・・。」と向山部長が言った。

「部長、私は大和太郎をマークします。」

「おう、姫子、頼んだぞ。」

「ガッテン、承知の介。」と姫子が言った。


「ところで、文芸部から依頼された『地中海の旅』の記事は書けたのか?」と向山が訊いた。

「ええ。原稿と写真は文芸部長に昨日渡しました。修正があれば、今日中に連絡があります。今度の日曜版に掲載されるとの事でした。手回しの早いことです。」と姫子が言った。



越の風華48;

2012年11月4日(日)    毎朝新聞日曜版の記事


     日曜版特集 〜地中海文明と文化〜 第一回 ギリシア文明


=文芸部長よりご挨拶=

今月から2カ月間に亘り、毎週日曜日に日曜版特集 〜地中海文明と文化〜 を掲載いたします。

ヨーロッパ文明の基盤を探求し、現代西洋世界の文明と文化の根幹を明らかにしていきたいと思っています。毎朝新聞読者の皆様には日曜日が待ちどうしくなるものと確信しております。

では、弊社文芸部の精魂を込めた取材、調査、研究の成果をお楽しみください。

第一回は、かつて、弊社新聞紙上に掲載した『妖刀村正殺人事件』で一躍有名になった推理作家・豊玉姫子女史によるギリシア文明を解き明かすノンフィクション推理です。

豊玉女史の独特の推理と筆致、そして現地カラー写真などをお楽しみください。


        『豊玉姫子の地中海の旅? 〜ギリシア神伝と神殿〜』


今、私はイタリア共和国の地中海に浮かぶシシリー島南西部に位置するアグリジェント市にあるシシリー州立考古博物館に来ています。目の前には、テラモーネと呼ばれる人像柱があります。このテラモーネは高さ7.75mの石積みの柱で、オリンピコ神殿の横梁を支えていた石柱です。他に、頭部だけの大きな石像テラモーネが3個置かれています。それは、『アジヤ』、『アフリカ』、『ヨーロッパ』を表象しているとされています。

オリンピコ神殿、それはギリシア神殿群がある『神殿の谷』と呼ばれる地域にあります。

オリンピコ神殿はジュピター神殿とも呼ばれています。

ローマ神話に登場し、気象現象を司る神ジュピターは、ギリシア神話の雷、雪、雨、雲などを司る天空神ゼウスと同一神とされています。ゼウスはオリンポス山にます神々の守護神であると共に、人間の守護神でもあります。女戦士で知恵者であるアテナ神、弓と音楽の神アポロン神、狩の女神で弓の名手であるアルテミスの父神でもあります。

ギリシア・アテネ市を見下ろすアクロポリスの丘にある破風はふ建築様式のパルテノン神殿ですが、その破風部にはアテナ神がゼウス神の頭から誕生した時の彫刻があったとされています。大英博物館にはそのギリシア神話に基づいて作成された彫刻が置かれています。

アテネとは女戦士で知恵者であるアテナ神の守護する自由都市ポリスを意味する町の名称です。また、パルテノンはギリシヤ語で処女を意味するパルテノス(Parthenos)に由来するとされています。自由都市ポリスアテネの市民は女戦士アテナ神と海神ポセイドンのどちらを守護神にするかを競わせた末にアテナ神を選択したようです。アテナ神はオリーブを贈り、ポセイドン神はアクロポリスの丘に海水を噴出させました。オリーブが有益とみなしたアテネの人々はアテナを守護神したのでした。

パルテノン神殿には主祭神であるアテナの巨大な像が祀られていました。その像は黄金と象牙で出来ていたと云います。写真上はその姿を描いた『アテナ・パルテノス像』の復元図です。手に持つ楯の内側には大きな蛇がいます。この大蛇は何を意味するのか不明です。肩にはケープが掛けられ、そのケープにはゴルゴン三姉妹の一人の顔が付いており、アテナの胸元を飾っています。丸い楯の中心部には、同じゴルゴン姉妹の顔がレリーフで描かれています。


また、大英博物館の1836年に作成されたパルテノン神殿調査資料にはパルテノン神殿の西の室壁にはゼウスが発する雷を表す雷紋らいもんや16弁菊花紋、16発光図が赤、青、白、緑などのカラーで描かれていたとの記述があります。(写真下)


さて、話は飛びますが、日本の瀬戸内海はヨーロッパの地中海に喩えられています。例えば、ギリシアのエーゲ海は岡山県の児島半島周辺の海でアテネは玉野市近郊に位置します。また、広島県の大三島はイタリアのシシリー島に相当します。玉野市には三韓征伐で有名な女戦士・神功皇后を祀る玉比口羊たまひめ神社があります。また、大三島には火と土の神である火具土神から生まれた大山津見神を祀る大山祗神社があります。神奈川県伊勢原市にある大山阿夫利神社の祭神・大山津見神は雨の神様とされています。また、大山津見神の娘である木花開耶姫命は桜大刀自神とも呼ばれ、みこと自身が戦いの刀でもあるとされています。

賢明なる読者諸氏はもうお気づきでしょう。大山津見神がジュピター神ことゼウス神、その娘である木花開耶姫命はアテナ神、神功皇后はアテナ神の掌に載っている翅の生えた勝利の女神ニケ神なのです。ニケはアテナ神の化身とも謂われています。

アテナ神は処女ですが、鍛冶の神ヘパイトスの精液が脚にかかり、それを拭き取って投げ捨てた洋毛からエリクトニオスが誕生しました。アテナ神は自分の子エリクトニオスをアテネ王ケクロプスの娘たちに預けます。籠に隠された赤子の姿を見て娘たちは驚きます。それは、赤子を蛇が取り巻いて護っていたからでした。後に、エリクトニオスはアテネ王となり、パルテノン神殿を創ったとされています。

西の果てに住んでいて蛇の毛髪、猪の牙、青銅の手、黄金の翼をもつ怪物ゴルゴン三姉妹がギリシア神話には登場します。

ゴルゴン三姉妹とはポントス大地ガイアの孫にあたり、三姉妹のうちで不死身でないメドーサだけがゼウスの子ペルセウスによって退治され、その首はアテナに献上され、アテナが手に持つ鏡のように磨かれた青銅製の楯の中央に据えられていると謂われています。

ゴルゴン三姉妹、それは彼女たちを見た者は石に変わってしまう荒ぶる神スフィンクスであり、日本のスフィンクス・宗像三女神を彷彿させます。

また、神功皇后の三韓征伐の話はゴルゴン三姉妹をイメージさせます。イスラエルの祖・ヤコブの予言では『ダン、それは路傍の蛇』と述べられています。朝鮮の檀君神話の檀とは失われたイスラエルの十氏族のひとつ、ダンを顕わしているとすれば、三韓は蛇の毛髪をもつゴルゴン三姉妹を意味し、神功皇后は戦いの女神・アテナに護られてゴルゴン三姉妹のメドーサを退治したペルセウスに協力したニケ神に相当することになります。


ここで問題提起です。何故に、ギリシア神話に登場する神々に似た神様がこの日本国に祀られているのかです。神功皇后とその子・応神天皇、宗像三女神こと比口羊大神ひめおおかみは大分県の宇佐神宮に祀られています。


問題提起の解答は次週に考えるとして、別の話をいたしましょう。

太陽系の惑星である木星は、西洋ではジュピターの名称で呼ばれています。雲で覆われた木星、それは天候の神を意味します。そして、大山祗神社と玉比口羊たまひめ神社を結ぶ霊ラインの延長線上には茨城県の鹿島神宮があります。鹿島神宮の祭神が建御雷神で十挙とつかの剣の上に座り、雷を発するところから、ジュピターことゼウスに通じます。

木星、それは太陽になり損ねた星です。もう少し大きな質量があれば火の玉になっていたとされる星です。


             《以下、次週・第二回につづく》



越の風華49;

2012年11月8日(木)  午前11時ころ  毎朝新聞東京本社・社会部


「おい、姫子。」と向山部長が言った。

「はい、何ですか?」と事務机で資料を見ていた姫子が顔を上げた。

「日曜版がえらい人気だそうだ。全国のコンビニと電車の駅売店から通常の3倍以上の配布要求が来ているそうだ。」

「それは良かったですね。」

「それで、今度の日曜日は増版印刷するらしいぞ。また金一封がでるかもな。」

「いやあ、それはありがたいです。」

「ところで、大和太郎の方は何か判ったか?」

「ときどき、東松山駅前で見張っていますが、これと云った動きはありません。今日の午後からまた行きます。」

「そうか、御苦労だがよろしく頼む。」

「今度の土、日には高橋直子にも手伝ってもらい、情報を取ります。」

「高橋直子?ああ、建築設計屋の友達で大和太郎の助手をしていたことがある奴だったな。秘密厳守には注意してくれよ。」

「大丈夫です。直子は口が堅いので有名です。」



越の風華50;

2012年11月11日(日)    毎朝新聞日曜版の記事


     日曜版特集 〜地中海文明と文化〜 第二回 謎のアトランティス文明


        『豊玉姫子の地中海の旅? 〜エーゲ海に眠る遺構〜』


閑話休題。

シシリー島の神殿の谷にあるオリンピコ・ジュピター神殿の廃墟の石基台を目の前にした時、一つの映像が私の水色の脳ミソの中に浮かびました。

それは三つの赤い火の玉です。かつて、学生時代に訪れた玉比口羊たまひめ神社の映像が私の脳裏に蘇りました。

岡山県玉野市にある玉比口羊たまひめ神社の境内には四角錐の形をした巨岩が祀られており、この巨岩に関する夜火伝説があります。

ある夜、この巨岩から3つの火の玉が飛び出したと云われています。

その1つは玉比口羊たまひめ神社の裏にある臥竜山中腹の臥龍稲荷神社奥宮に、もう1つは西大寺観音様に、残りの1つは牛窓町に向かったと云います。岡山県牛窓町に面した瀬戸内海域は日本のエーゲ海と呼ばれ、播磨灘最西端に位置します。牛窓町の南にはエーゲ海に浮かぶクレタ島に相当する小豆島があり、小豆島の北方で牛窓町海岸近くには前島、赤島、青島、黄島などの五つの小島が群集しています。この五つの島はエーゲ海ではサントリニ(Santorini)諸島を構成する五つの島に相当すると云われています。


そして私は早速、シシリー島からサントリニ島に飛びました。

今、私はサントリニ島の最高峰にある古代ティラ遺跡の断崖の上から黒砂のカマリ・ビーチを見降ろしています。青く広がるエーゲ海と黒い砂のコントラストが私の心眼を古代へと誘います。


赤土の断崖の上に白壁の家々が建ち並ぶサントリニ島(写真中)、それは火山の島で、カルデラの底は海の中に沈んでいます。古代には美しいものを意味する「カリステ」とか、円形を意味する「ストロンギリ」、あるいは「ティラ」(意味不明)とこの島は呼ばれていましたが、13世紀になって十字軍国家であるロマニア帝国(ローマ人の国の意)がギリシア・エーゲ海地域を支配したときに『サントリニ』と命名されたようです。

サントリニ(Santorini)の意味は『聖(San)なる三つ(torini)』を意味しています。

サントリニは火山島ですから三つの聖なる『火の玉』なのかも知れません。

あるいは、海神ポセイドンが手に持つ『Toridentトライデント(三つ叉の槍)』のことなのかも知れません。

それとも、『(父)神、(子)キリスト、(聖霊)天使』の三位を意味しているのかもしれません。


私は、3重の運河を意味する『三つの輪』であり、『三鳥居サントリニ』ではないかと推理しています。奈良の都にある大神神社は三輪神社とも呼ばれ、拝殿内にある三つ鳥居の奥には『大物主神』が三輪山を御神体として祀られています。『大物主神』それは海神ポセイドンなのでしょうか?そして、海原を治める海神ポセイドンは、父神イザナギ命から海原を治めよと命じられて天降ったスサノオ命なのでしょうか?

『エーゲ』とは古代ギリシア語で『なみ』を意味します。


古代ギリシア人のプラトンはアトランティス文明で栄えた島に関する書物『クリティアス』と『ティマイオス』を残しています。その書物では、アトランティスの首都アクロポリスの中心部には三つの同心円の輪形をした大きな運河があり、そのまん中のアクロポリスの丘には海神ポセイドンの神殿があったとしています。

そのポセイドン神殿にはポセイドンの巨大な黄金像があり、律法が刻まれた青銅製の柱の前で牡牛おうしを生贄にする儀式が毎年行われたと謂われています。そこでは、牡牛の血が律法『掟の文字』が書かれた青銅製の柱に塗られ、牡牛の赤い血を飲みほして自分の潔白を証明し、違反者には裁判が行なわれたとされています。牡牛の遺骸は火で燃やされたようです。


アクロポリスとは『神殿のある都市、城のある都市、高い場所にある都市』を意味します。

大海に繋がる三重の輪の運河に囲まれたポセイドン神殿に祀られている海神ポセイドン。それは、海原を治めよと言われて天から地上に舞い降りたスサノオ命を思い起こさせます。聖なる三つ輪の運河を持つ都市アクロポリスは半径9kmくらいの島にあったとされています。それがサントリニ島だと主張する古代史学者も現われているようです。

プラトンが書いた話の情報源はエジプトを旅した古代ギリシア政治家のノートに書かれていた古代エジプトの神官たちの話だとされています。

アトランティス大陸の話が事実とするならば、古代エジプト人はアトランティス人の末裔であったのか、それとも、アトランティスと交易をおこなっていたのか、それとも、古代エジプトの神官は霊視能力があったのか、のいずれかと云う事になります。


サントリニ島の最高峰、海抜369mにある古代ティラ遺跡の土台石に立ってエーゲ海を見渡す時、あなたの心の眼は何を見ることができるのでしょう。(写真上)

紀元前15世紀の火山大噴火でアクロポリスは壊滅しましたが、紀元前9世紀に再生した古代ティラの街が1000年間に亘り繁栄しました。


話が変わりますが、サントリニ島はワイン酒の生産でも有名です。

3種のブドウをブレンドし、オーク樽で1年間寝かせた赤ワインは特に美味です。


さて、アトランティスの話にはつづきがあります。

それはエジプトのギザにある3大ピラミッドです。

スフィンクスに守られたピラミッド。

アメリカの催眠予言者エドガー・ケーシーによるリーディングの話は有名です。

ピラミッドは祭事を行う神殿であり、アトランティス人、ギリシア人、北方の民コーカサス人、そしてエジプト人たちの合作であると述べています。そして、鉄を浮かせる電磁石の原理を使ってピラミッドの石を積み上げたとも述べています。


(※著者注;リニアモーターみたいなものを利用して石を浮かせて上に運んだ?また、UFOみたいな反重力機械が運んだと云う説もありますが・・・?)


と云うことは、海底に沈んだアトランティス文明では電気が発明されていた事になります。

また、スフィンクスやピラミッドの地下にはアトランティス文明の秘密を隠した部屋があるとも述べています。そして、人類の歴史や予言を未来に残す目的で大ピラミッドは建てられたと述べているようです。


エーゲ海を巡る古代神伝の旅、如何でしたか?

ああ、忘れかけていました。

第一回での問題提起の解答ですが、それは、霊能者・出口王仁三郎が述べている事です。

即ち、「日本列島は(神が創った)世界の縮図」と云うことです。

読者の未来の幸運を祈り、ここで筆を置きます。蘇民将来!!


              《豊玉姫子の地中海の旅  了》




越の風華51;

2012年11月12日(月)  午前11時ころ   国会前庭


大和太郎と半田警視長が毎朝新聞の日曜版特集の話をしている。

そして、話が自分たちの関係している事件に及んだ。


「ところで、蘇民将来殺人事件ですがね・・・。」と半田警視長が言った。

「なるほど、須佐乃男命の再来ですかね・・・。」と太郎も呟くように言った。

「蘇民将来の牛王神符の傍で殺されていた高城六郎、風祭武文。そして、蘇民将来と書かれた牛王神符が自宅から消えていた寺島純子。この3人はやはり生贄なのでしょうかね?聖なる数字3ですかね・・・?」と半田が言った。

「寺島純子さんの場合は、生前、部屋に貼ってあった蘇民将来の牛王神符が持ち去られていました。他の二人とは逆の状態です。その意味をどう理解するかですが・・・・。それに、アクロポリスのポセイドン神殿で生贄になるのはおすの牛ですから、殺されるのは男性でなくてはならないのではありませんか?」と太郎が言った。

「もう一人、牛王神符の傍で殺される男性がいるのですかね?」と半田は考えるように呟いた。

「警察の判断では自殺された金融担当相・松永雅洋さんの遺体の傍には牛王神符はなかったのですか?」と太郎が訊いた。

「そのような話は聞いていませんが、自殺と結論されているので、詳細な情報は聴いていません。

再度、確認してみる必要がありそうですかね・・・。」と半田が言った。

「もし、牛王神符が金融担当相の遺留品の中にあったとしたら、その牛王神符紙の四隅に押しピンの痕があったかどうかも確認してください。金融担当相が死んでいたのは寺島純子さんの死体が発見された時よリも以前のことですが、二人が一緒に熊野旅行をした時に牛王神符を手に入れたのかも知れません。寺島純子さんが牛王神符を手に入れた時期の参考になります。金融担当相の自宅にあったものを遺品として寺島純子さんが手に入れていたのかもしれませんし・・・。逆に、寺島純子さんが別れた金融担当相にあげたのかも知れませんしね。」と太郎は寺田純子の部屋の玄関横壁にあった押しピン痕を思い出しながら言った。

「押しピン痕の穴があったかどうかは別として、松永雅洋金融担当相の遺品の中に牛王神符があったかどうかですね。判りました。注意しておきます。」と半田が言った。


「実は、毎朝新聞社会部の依頼で金融担当相・松永雅洋が調査指示を出していた13兆円相当のアメリカ国債運搬事件を調査しています。」

「イタリアとスイス国境の町で発生した日本人が絡んだ事件ですね。我々警察庁も、つんぼ桟敷に置かれた事件でした。毎朝新聞は何か掴んでいるのですね、大和探偵。」

「ええ、掴んでいます。守秘義務がありますので調査内容などの詳細情報はお話できません。しかし、毎朝新聞の許可が得られればお話します。ブラッククロスが絡んでいる可能性があります。」

聞屋ぶんやさんにお願いすると交換条件が付きますからな・・・。ちょっと考えてみますが、ブラッククロスが蘇民将来殺人事件に関係してきますかね・・・。ブラッククロスね・・・。」と半田が腕組みをして考え込んだ。

「たぶん、関係があると私は推理しています。」と太郎が言った。


「ところで、先日、爆弾テロに襲われた海上自衛隊基地がある広島県の呉市は、地中海ではイタリアのどのあたりに相当しましたっけ?」と半田が確認するように訊いた。

「先日の半田警視長のお話では、確か、ローマと仰っていたと記憶していますが、ローマが火に包まれるのですかね。」と太郎が言った。

「毎朝新聞の日曜版特集記事から類推すると、ブラッククロスの目的ですが、ナンバースリー計画、あるいはサントリニ計画ですかね・・・。」

「聖なる数字・スリーですか。」と太郎が言った。

「ブラッククロスの狙いはヴァチカンですかね・・・?そこを海神ポセイドンが三つ叉槍・トライデントで襲うのですかね・・・。」

「トライデント型の原子力潜水艦ですか・・・。」と太郎が言った。

「それと、河菱会の狂犬・張帆二ちょうはんじの動きが気になります。」と半田が言った。

「アメリカ第七艦隊、あるいはCIA、FBIと連絡を取りましょうか・・・?」と太郎が訊いた。

「自衛隊も含めた合同のテロ対策会議が必要ですかね。」と半田が真顔で言った。

「テロ対策だけで済めばいいのですが・・・。」

「軍事衝突も視野に入れる必要がありますかね・・・。ブラッククロスの組織規模と実力がはっきりしませんがね・・・。」と半田が空を見上げながら言った。



越の風華52;アポロンの神託

2012年11月13日(火)  24時ころ   ギリシア国デルフィ遺跡

(日本時間 11月14日(水) 午前7時ころ)


アテネ市から西北西へ178km、中部ギリシアにデルフィの町がある。パルナッソス連山に囲まれた山の斜面に石の土台と石柱だけが残っているアポロン神殿遺跡がこの町ある。紀元前6世紀ころ、古代ギリシア時代にはアポロンの神託が下される神殿であった。アポロン、それは音楽と弓矢の神。そして、予言の神でもある。


朔・新月のため、月は出ていない。暗闇をこばむかのように神殿の石床が残っている部分の四隅に置かれた大きな篝火かがりびが床石や石柱をオレンジ色に照らしている。

黒い色で薄く足もとまであるキトンと呼ばれる布衣を着た10人の男が等間隔に立って半円形の円弧『月の半分』を造り、その円弧の中心点を見ている。円弧の中心点には白いキトンを着た女性が一人、三脚の肘掛椅子に座っている。女性は頭に月桂樹の冠をかぶっている。また、この男女11人は肩からヒマティオンと呼ばれる紫色のマントを垂らしている。

白い衣を着た女性の足元には、乳香と大麻が焚かれている大きな赤い皿が二つ置かれており、緩やかな風にあおられ、そこからは薄白い煙が篝火の明かりに照らされてオレンジ色にたなびいている。女性の後方から緩やかなメロディをかなでる弦楽器・竪琴ハープの音が聞こえてくる。

女性の顔は大麻の煙を吸っている為か、うつろな表情を浮かべて、肘掛椅子に座っている。


「アポロン神にお訊ねいたします。」と一人の男がギリシア語で言った。

「勝利の女神は我々に微笑むのでしょうか?」とその男は続けた。

「勝利の女神・ニケは、正義を行い、その為に努力する者に援助を与える。しかし、は違う。」とうつろな眼差しの女性が男性のような声で、ゆっくりとギリシア語で喋った。

「どのように違うのでしょうか?」と男が訊いた。

は『両刃もろはつるぎ』である。たてでもあり、ほこでもある。医術の神でもあり、疫病の神でもある。オリオンの七つ星でもあり、北斗の七つ星でもある。オリオンの七つ星はたてであり、北斗の七つ星はほこである。努力する者には正邪に関係なく知識を授ける。しかし、その効果はその知識を用いるものがどのように利用するかで結果は異なる。」

「それでは、謹んでお願いを申しあげます。我らが勝利するための知識をお授け下さい。」

「荒ぶる神・ゴルゴン三姉妹の復活。それには、昔、ゼウスの息子ペルセウスが刈り取った三姉妹の末妹であるメドーサの首を見つけ出し、ゴルゴン姉妹たちの姉である老婆が保存しているメドーサの胴体に還してやらねばならぬ。」と女性が男の声で言った。

「メドーサの首はアテナ神が左手に持つ青銅で出来た円鏡の楯の中心に飾られているそうですが、それを見つけるにはどのようにすれば良いのでしょうか?」と男が訊いた。

「違う、処女神アテナの円鏡楯にはメドーサの首が写っているだけだ。しかし、その円鏡の楯がメドーサの首の在り場所へ導いてくれる。メドーサの首は勝利の女神・ニケがエーゲの海で護っている。」と女性が言った。

「『円鏡の楯』と『エーゲの海』とはどこにあるのでしょう?」

「円鏡の楯とエーゲの海はギリシアの東方にある。エーゲとは波の事。海はどこでも波がある。アテナの円鏡の楯が導くエーゲの海を自分の努力で探せ。予は天空から眺めるだけだ。」

「判りました。その他に注意することはあるでしょうか?」と男が訊いた。

「勝利の女神・ニケは不死身だ。ニケを眠らせなければ、メドーサの首を取り戻せない。なぜなら、ニケの心魂はメドーサの首の中に入り込んでいるからだ。」

「ニケ女神を眠らせる方法をお教え下さい。」と男が言った。

「紫色の光を発する竪琴たてごとの波動でニケは眠る。紫色に光る竪琴、それを自分で見つけることが必要だ。以上である。ブラッククロスとホワイトクロスの戦い、予は天空より眺めておく。この謎が解けなければお前たちは負けることになる。お前たちの対極に居るホワイトクロスは着々と計画を遂行しているぞ。」と男性の声が言い終わったあと、椅子に座ったままの女性は首を垂れて静かに眠り出した。



越の風華53;

2012年11月14日(水)  午後4時ころ   毎朝新聞社会部


「部長、大和太郎の動きを掴みました。」と外出から帰ってきた姫子が言った。

「でかした、姫子。それで、どうなんだ?」と向山部長が訊いた。

「先週の土曜日、直子からの情報で大和探偵が土曜日の夕方から何処かに出掛けるとの情報があり、駅前にある大和探偵事務所を見張りました。大和太郎はポンコツのバイクで出かけるようでしたので、駅前のタクシーで尾行しました。行った先は駅から10分くらい車で走ったところで、東松山市のGパークタウンと云う団地型マンションでした。」

「東松山市のGパークタウンか。」

「マンションの向かい側にある公園の木陰から双眼鏡で何処かの部屋をのぞいている風でした。午後8時ころでしたかね、目的の男が一人で部屋に帰ってきました。6号棟503号室に住んでいる中村竜と云う男です。男の帰宅を確認したら太郎は事務所に戻って行きました。私は、その男が午後11時に部屋の電気を消して寝るまでの間は見張っていましたが、一度、私も自宅アパートに帰りました。翌日、徹夜の準備をして午後からGパークタウンマンションに戻り、中村竜を見張りました。大和太郎も前日と同じ場所で見張っていましたが、午後9時ころには帰って行きました。その日には特に動きはなかったのですが、翌月曜日の朝です、マンションを出た男は池袋にあるアラビアン・ビークルと云う中古自動車の貿易をおこなっている会社に入って行きました。そこの社員かどうかは調べていません。大和太郎もその男が会社に入るのを見届けたら帰って行きました。とりあえず、私は、東松山のGパークタウンのマンションに戻り、中村竜が住んでいるマンションの管理事務所に行き、中村竜の事を聞きました。」

「どのような人物だった。」と向山が訊いた。

「どうも、中国人のようです。国籍はアメリカ合衆国でした。マンションを購入し、住み始めたのは1年前からだそうです。2011年の9月からですね。管理事務所の話では入居時には広告代理店TT社で中国人旅行者の旅行ガイドとして勤務しているとの事だったようです。私が調べたところTT社には3カ月間は勤めていようですが、現在は止めています。まだ、アラビアン・ビークルには乗り込んでいませんが、太郎の動きがちょっと変です。何故に、アラビアン・ビークル社に入っていった中村竜を見張らないのかです。男が会社に入ったのを見届けるとあっさり帰って行きましたから、何か変です。」と姫子は手帳のメモを見ながら言った。

「その中村竜の中国名は判っているのか?」

「いいえ。法務局で登記簿を調べたところ、アメリカのサンフランシスコ出身でリュウ・ナカムラでした。」

「中国人のくせに中村か?それにアメリカ国籍?」と向山が言った。

「管理事務所の話では中国語なまりのある日本語を話すようです。」

「日本人の3世とかじゃないのか?」

「判りません。」

「確かに、怪しい男だな、中村竜か。」と向山が言った。

「何処かの国のスパイとか?」

「いろんな顔を持っているのかな・・・?どこかの国の情報機関なら公文書の偽造などは簡単に出来てしまうからな。おい、姫子。中村竜を徹底マークしろ。遠距離の追跡用の現金は持っているな。それと、尾行ようの七つ道具も持って行動しろよ。」と向山が言った。

「はい、クレジットカードも常時携帯していますから大丈夫です。携帯電話の充電器、小型一眼レフのデジカメと充電器もハンドバッグに入っています。でも、大和太郎はどうします?」

「心配するな。大和探偵も中村竜をマークしている訳だ。だから、どこかで二人は必ず交差する。その時が勝負どころだ。どんな結末が待っているのか、楽しみだな。うっひっひっひ・・・。」と向山部長が自分勝手な妙な笑い声を上げた。

「でも、13兆円のアメリカ国債事件の方はどうするのですか、部長?」

「心配するな。それも大和探偵が追いかけている。どこかで・・・、中村竜と国債事件が何処かで交差するはずだ。大和太郎とはそう云う運を持った男だ。俺の勘に狂いはない。がははははっ。」と向山は自分を納得させる様に笑った。

「運と勘ね・・・。そうなりますか・・・?」と姫子が向山の顔を見ながら、不安そうに呟いた。


「ところで、姫子、訊きたい事がある。」と向山が言った。

「なんですか?」と姫子が訊いた。

「おまえ、『地中海の旅』の記事の最後に蘇民将来と書いていたな。あれの意味は何だ?」と向山が訊いた。

「ああ、蘇民将来ですか。特に意味はありませんが、イタリアでの13兆円国債運搬事件が頭にあっただけです。」

「おまえのイメージでは13兆円事件が蘇民将来とどう関係するんだ?」

「13兆円国債事件の調査を指示した松永金融担当相とその愛人であった寺田純子が死んでいます。この二人が出入りしていたレストラン『越路』の社長・高城六郎が蘇民将来と朱文字で書かれた牛王神符の置かれた車の中で死んでいました。そして、高城六郎の会社に資金提供していた風祭武文も蘇民将来と朱文字で書かれた牛王神符の置いてあった車の中で死んでいました。高城六郎は自殺と云われていますが、風祭武文は殺された可能性も残されています。」と姫子が言った。

「なるほど、13兆円国債事件の松永金融担当相と高城六郎の関係。高城六郎と風祭武文と蘇民将来の朱文字の関係。そして、13兆円国債事件と蘇民将来が関係する可能性があり、13兆円国債事件にはイスラエル情報機関モサドの岡上正一が関係している。イスラエルは地中海の東端にある訳か・・・。それで、地中海の旅が蘇民将来と結び付いた訳か。」と向山が姫子の考えを推理して行った。

「それだけではありません。イスラエルの首都エルサレムは十字軍が地中海を渡って行った最終目的地です。そして、13階段を登ったのではないかとされている救世主イエス・キリストが十字架で処刑された場所でもあります。実際には13階段はなかったとも謂われていますが、13兆円と13階段の13とは何を意味するのかです。蘇民将来を掲げている家の者は殺さないと云うスサノオの言葉が気になりました。スサノオは疫病神となると言っていますが、蘇民将来を掲げている家の者には救世主なのかも知れません。」と姫子が言った。

「救世主・スサノオ、か・・・。蘇民将来ね・・・。」と向山が呟いた。


「現代の十字軍であるNATO軍はイギリス、フランス、ドイツ、イタリアなどのヨーロッパ・キリスト教国連合軍です。NATO軍はすでにアフガニスタン、イラクなどの中近東アラブ地域に派遣されています。」と姫子が言った。

「もう、現代の十字軍はイスラム地域に乗り込んでいる訳か・・・。そして、そろそろ、イスラムの反撃が始まる訳か・・・・? そして、それは、『荒ぶる神・スサノオの復活』を導くと云う訳か・・・?」と言いながら、向山部長は腕を組んで考え込んだ。



越の風華54;

2012年11月15日(木)  某所のブラッククロス本部・会議室


「アポロンの神託によるとホワイトクロスがいろいろな計画を行っているらしいが、ホワイトクロスとはどのような組織なのか知っている者はいるか?」とナンバーワンが訊いた。

「ビッグストーンクラブのことではないのでしょうか?」とナンバーセブンが言った。

「その理由は?」

「『北斗七星の暗示』計画を阻止したのはビッグストーンクラブだった可能性があります。彼らは『火を使う白衣の天使の誕生』を画策しています。」

「白衣の天使がホワイトクロスを意味しているのですかね・・・?弾武典が言っていた『影の軍団』と云う事はないのですか?」とナンバーワンが訊いた。

「神威示現斎こと岳内太郎が率いる『影の軍団』の正体はまだ判っていません。ただ、日本の古代から続いている組織だとの報告が入っています。」

「古代から続いている組織?」

「はい、日本の天皇体制を護るための組織だと判断できます。」

「日本の国体を護る組織ね。それがホワイトクロスなのか?」

「判りません。その組織は古代の天皇軍団を率いた大伴一族の子孫たちだとの噂もあります。」

「大伴と云う血族関係が組織を維持する役目をしている訳だな・・・。どこかでホワイトクロスに繋がるのかどうかですね・・・。」とナンバーワンが考え込んだ。


会議場は暫らくの沈黙が続いたが、ナンバーワンが口を開いた。

「弾武典の消息はまだ判らないのか?」

「はい、何の連絡もないです。もしかして、影の軍団に殺されたのかも知れません。」

「弾武典は何処かで死んだか・・・、そうか。弾武典が訓練していた11人は如何しているのか?たしか、サラ・シスターズから派遣してオメガ教団に預けていた男10人、女1人で構成していたのだったな。」とナンバーワンが確認するように言った。

「はい。京都の山奥で弾武典が指導しながら修験術の訓練を行っていました。しかし、影の軍団による危険がせまっていましたので、弾武典の指示で訓練の場所を変えました。」

「場所を変えた?」

「はい。11人は岡山県玉野市のT工業団地に新しく創ったAV総業株式会社の従業員を隠れ蓑にして活動しています。弾武典が言うには、玉野市はギリシアのアテネに相当する都市だそうで、そこにパルテノン神殿を模した建造物を造ったようです。」

「日本のアテネか・・・。それでは、日本のデルフィも存在しているのか?」

「はい、弾武典の話では、由加神社のある地がデルフィと云うことらしいです。」

「由加神社か・・・。それで、弾武典はそこで何を行おうとしていたのだ?」

「弾武典が居なくなった今、それは不明です。」

「弾武典は何を11人に教え込もうとしていたのかだな?」とナンバーワンが言った。

「11人のメンバーを呼んで訊いてみますか?」とナンバーセブンが言った。

「そうだな、訊いてみるか・・・。」

「それでは、11人のリーダーである中村竜と云う男を至急に呼びます。」

「そうしてください。話を聞く場所は日本国内の何処かにしましょう。東方にある紫色に光る筑も探さなくてはならないからな。」とナンバーワンが言った。



越の風華55;

2012年11月16日(金)  午後1時ころ   毎朝新聞社会部


向山部長の事務机の電話が鳴った。

「はい、向山です。」

「部長、姫子です。」

「おう、どうした?」

「中村竜を尾行してJRの東海道新幹線の博多行きに乗っています。」

「新幹線?」

「中村の行き先が判らないので、取り合えず博多までの切符を買いました。」

「おう、それは会社の経費で落とせばいい。」

「それで、中村が下車したら、また電話を入れます。その下車駅の最寄りにある支局員の応援をお願いしたいのです。」

「よし判った。俺の携帯の番号は知っているな。そっちに電話を入れろ。」

「はい、判りました。では、また後ほど。」と言って鮫島姫子は電話を切った。



越の風華56;

2012年11月18日(日) 午前10時ころ  岡山県玉野市T団地のAV総業株式会社の工場内


工場内には高いビルに囲まれて、縮尺が2分の1で再現されたパルテノン神殿が建っている。ここのパルテノン神殿は基台部が15m×34m、高さが15mくらいある、大理石風の人工素材で作られている。

神殿の奥には高さ3mくらいのアテナ神像が置かれている。そのアテナ像は、左手に大きな円形の楯を持ち、その楯の裏側では大蛇が首をもたげている。円形の楯の中央にはゴルゴン三姉妹の一人であるメドーサの顔が浮き彫りにされている。そして、勝利の女神とされているニケ神が背中の羽根をひろげて右のてのひらに載っている。

破風壁の下の梁にはゼウスの雷紋がオレンジ色の絵具で描かれ、壁の一部には中心の太陽から16本の光が鋭く発している光芒紋が青色を背景にしてオレンジ色で描かれている。また、壁のところどころには世界の王の紋章である16弁複葉菊花紋が白色とオレンジ色で描かれている。



神殿の内部では10人の西洋人たちと11人の東洋人たちが長テーブルを挟んで対面しながら英語で質疑応答形式の会議が進められている。


「君は、弾武典から何を教えられたのか?」とナンバーワンが中村竜に訊いた。

「女戦士アテナ神の再臨を実現する方法です。」と中村竜が答えた。

「それはどのようにすれば実現するのか?」

「ここに居る一人の女性、諸山巳もろやまかみにアテナ神を降臨させます。『』と云う文字は、古代には『まつる』と書きました。『示』は人の象形を表し、『』はかみを表わしました。神が人に宿り、留まることを『』と書き、『ほこら』とも読みます。精霊を象徴するへびの形にかたどり、神をとどめまつる意を表す文字が『』です。」

「そんなことが本当にできるのか?」

「まだ、その方法をマスターしていません。その術を得るために修行をしていたのですが、弾師が居なくなりました。しかし、修行法は教えられていますので、修行は続けています。もう少しでマスター出来るでしょう。」と中村竜が答えた。

「その術には名称があるのか?」

「はい。弾師は『帰神示現きじんじげん法』と命名しておられました。」

「『帰神示現法』か、なるほど。ところで、勝利の女神であるニケ神については何か教えられたか?」

「ニケ神ですか?」と、何のことか判らないと云った表情で中村竜が言った。

「この神殿に入るのは何回目だ?」とナンバーワンが訊いた。

「この工場に入るのは初めてです。この近くの工場には京都の大悲山から移動したころには出入りしていたことがありました。弾師からは『帰神示現法をマスターした時にギリシア神殿で神業を行う。』とは聞かされていましたが、このような神殿がここにあるのは知りませんでした。」

「そうか。ニケを知らないか・・・。それで、修業とはどのような事を行うのか?」とナンバーワンが訊いた。


「修行の目的はゴルゴン三姉妹の再生です。」

「おおおっ・・。ゴルゴン三姉妹の再生。それができるのか・・・?」とナンバーワンが体を乗り出した。

「そのためにはアテナ神の円鏡の楯に映っているメドーサの首の魂を円鏡の楯から取り出し、その魂をゴルゴンの胴体に戻す必要があるとのことでした。」

「弾武典は、その方法を知っていたのか?」

「ええ。そのためには、アポロン神の双生児ふたごの妹である月の神・アルテミスを呼び出す必要がありました。そのため、我々11人はここから北西に10km離れたところにある倉敷市由加地域の熊山の頂上で月に祈る行法をマスターする修行をしています。月の半分の配置で業を行います。」

「その熊山で月に祈る修行法を行ってどうなるというのだ?」

「倉敷市由加地域の熊山、龍王山、瑜伽(由加)山はオリオン座の三ツ星の配置にあります。エジプトのギザにある三大ピラミッドのうち、熊山は一番小さいメンカウラー王のピラミッドに相当し、また、役の行者の5人の弟子が開いた新熊野三山のひとつである瑜伽ゆか山にある由加神社はギリシア国・デルフィのアポロン神殿に相当すると弾師から教わりました。また、月に祈る行法の目的はゴルゴン三姉妹のうちのメドーサを復活させることです。また、由加神社の主祭神である彦狭知ひこさしり命は『作盾者たてぬい』とも呼ばれ、盾をつくる技術のある神様でもあります。盾を扱う技術に優れた彦狭知命に祈りを奉げ、アテナ神の円鏡の楯からメドーサの首を取り出す方法を教わります。また、月の神アルテミスは野獣の熊と関係が深い神です。だから、熊山で月の祈りを奉げ、アルテミス神のご加護を祈るのです。アルテミス神は人身御供ひとみごくうを要求する神です。そして、熊とは未開で荒々しいと云う意味もあります。荒ぶる神ゴルゴンの復活を祈るのです。そして、ゴルゴン三姉妹は人間に謎を掛けて、謎を解けなかった者は食い殺すスフィンクスとなってよみがえるのです。」と中村竜が言った。


「オリオン。それはアルテミスの恋人であり、アポロンがアルテミスに殺させた狩の名人。そして、月の通り道にある星座・オリオンの魂。また、狩人オリオンはアポロンとアルテミスの犠牲者であり、オリオンは人身御供となったと云うことか・・・。」とナンバーセブンが呟いた。

「アルテミス神が月の半分です。残りの月の半分がアポロン神です。」

「おお。アポロン神とアルテミス神の再臨。それが満月・・・。弾武典、流石だな。それで弾武典は何処にいるのだ?」とナンバーワンが訊いた。

「筑波山で『月の神業』をするために、弾師は関東地方に行かれたままです。消息は判りません。」

「やはり、弾武典は姿を消したままか・・・。死んだかな?」とナンバーワンが呟いた。

「弾武典の筑波山での『月の神業』の目的は何なのだ?」とナンバーセブンが訊いた。

「知りません。弾師は詳細を語られませんでした。」

「筑波山とはどのような処か?」

「弾師の話では、竪琴ハープのような楽器であるちくがさざ波のように響いてくる山だそうです。関東地方の茨城県にある山です。」

「何、ちくの音がエーゲとなる山!」とナンバーワンが声を上げた。

「アポロンの神託と重なりますな。アポロン神が弾く竪琴ハープの音がさざ波となってニケ神を眠らせる。そして、メドーサの首が取り戻せる。」とナンバーセブンがナンバーワンに向かって言った。

「その筑波山にゴルゴンの首があるのか? だから、弾武典は神業に向かったと考えられるのか?紫の光を発するハープが発見できるのか?」とナンバーワンが言った。

「正しく、その可能性がありますな。しかし、弾武典による月の神業は成功したのでしょうかね?」とナンバーセブンが言った。

「どうかな? やはり、弾武典は死んだのかもしれないな。その場合、殺されている訳だが・・・。殺したのは誰かだが・・・?筑波山に行ってみるか・・・。」と考えるように言いながら、ナンバーワンは腕組をした。



越の風華57;

2012年11月19日(月) 午後4時ころ 東京・溜池のアメリカ大使館・会議室


CIAのジョージ・ハンコック、FBIのジョージ・ギャリソン、大和太郎が話している。


「大和探偵から報告のあった岡山県玉野市T団地周辺を監視衛星で地球上空から探査し、写真撮影ました。」とハンコックが言った。

「何か出ましたか?」と太郎が訊いた。

「この写真を見てください。どうも、ギリシア神殿風の建物がAV総業という会社の工場内に造られています。外部からは見えないように周辺を高いビル建築で囲んであります。」

「なるほど。これがそのギリシア風神殿を宇宙空間からみた写真ですか。」

「CIA本部の科学分析班の調査結果ではギリシア・パルテノン神殿の二分の一サイズで建造されています。疑似パルテノン神殿とでも呼びましょうかね。昨日は日曜日にもかかわらず、20人くらいの人物たちがそこに出入りしていたようです。」とハンコックが言った。

「何の目的で、建築されたのでしょうかね?」と太郎が言った。

「単に、AV総業の社長さんの趣味と云う事も考えられますが、AV総業は投資会社サラ・シスターズから出資を受けています。」とハンコックが言った。

「筑紫の皇子が絡んだ都府楼殺人事件に関係があったのではないかと考えられているサラ・シスターズですか。とすると、オメガ教団もAV総業に関係していますかね。オメガ教団が北九州に聖武祇園連合会という名称の暴力団を創った意味が見えてきますね。」と太郎が言った。

「ハンコックから聞いているモサドの潜入諜報員・岡上正一が組長だった聖武祇園連合会ですね。」とギャリソンが言った。

「聖武祇園連合の意味ですね、大和探偵。」とハンコックが言った。

「そうです。オメガ教団が何故に聖武祇園連合と命名したのか。その意味、その目的です。祇園にある八坂神社の祭神は須佐乃男命。聖武は聖武天皇の創った奈良の大仏。大仏建立の目的は疫病を祓うこと。末世になって疫病神となって舞い戻ると宣言したスサノオ命を再臨させるのがオメガ教団の狙いだった。その計画を今も続けているとしたら、『蘇民将来』の朱文字が書かれた牛王神符の殺人事件の意味が見えてきました。」と太郎が言った。

「兵庫県と長野県で起きた『蘇民将来』の殺人事件ですね。オメガ教団がそれに関係しているとすると、背後にはブラッククロスが居る可能性がありますね。」

「そうです。AV総業はブラッククロスと関係があると云うことですな。」

「そして、中村竜が関係しているアラビアン・ビークル社。中村竜はAV総業に出入りするために、T団地のマンションに住んでいた。いや、今でも、時々はT団地のマンションに戻っていると思われます。そして、疑似パルテノン神殿で何かの神業を行っているのかも知れません。」

「奴等が疑似パルテノン神殿で行う神業は何か、ですね。それが、ブラッククロスの狙い。」とハンコックが言った。

「パルテノン神殿。それは、女戦士『アテナ神』を祀る神殿です。戦を始めようと云うのでしょうかね?」とギャリソンが言った。


「ああ、それから。」とハンコックが付け加えた。

「毎朝新聞社の鮫島姫子と云う女性事件記者が池袋にあるアラビアン・ビークル社の事務所を監視し始めました。どうも、中村竜をマークしているようですが、何か心当たりはありますか?」

「毎朝新聞の鮫島さんが中村竜をマークしているのですか。たぶん、私が中村竜を見張っているところを見たのでしょう。以後、気をつけます。」と太郎が言った。

「もし、お知り合いなら、忠告してあげてください。万一、中村竜がテロ関連の人物なら、尾行を気付かれた時点で殺されます。たぶん、消息不明と云うことになるでしょう。」とギャリソンが言った。

「判りました。注意いたします。」と太郎が言った。

「我々も、これからは中村竜の監視と尾行を強化する必要がありそうですね。」とハンコックが言った。

「そうですな。今までは手薄でしたね。」とギャリソンが呟いた。

「これからは専任の尾行要員を中村竜につけます。大和探偵と協力して活動をさせます。活動方法の詳細は後ほど連絡いたします。」とハンコックが言った。



越の風華58;

2012年11月20日(火)  午後3時ころ   毎朝新聞社会部


鮫島姫子が向山部長に岡山県玉野市での状況を報告している。


「部長、これが岡山県玉野市のAV総業の工場です。」とデジカメで映した写真映像をパソコンで見せながら姫子が言った。

「この工場に中村竜が入って行った訳か。」と向山が言った。

「中村竜だけではなく、様々な人物が工場に入って行きました。日曜日なのにですよ。周辺の工場はみんな休業でした。」

「これが、工場に入って行った車の写真です。ナンバーが判るように撮ってあります。」

「工場の内部の写真はないのか?」

「外壁塀が高くて、中は写せませんでした。刑務所みたいな塀で周囲には堀のような水路が造られていました。不信者の進入防止対策でしょう。」


「中村竜は工場から歩いて15分くらいの所にあるマンションの一室で宿泊しました。どうも、自分の部屋のようです。出這入りの際、自分で鍵を開け閉めしていましたから。」と姫子が言った。

「岡山にもマンションを持っているのか、中村竜は。東松山のマンションの登記簿を調べたが、中村竜が所有者ということ以外、何も新しいことは判明していない。税務署から情報が取れれば国籍が判るはずだが、個人情報は公開していないからな。岡山支局でも、AV総業の工場と中村竜のマンションについて調査させよう。」と向山が言った。

「東京都板橋区の夜来香いえらいしゃん貿易については何か判りましたか?」と姫子が訊いた。

「今のところ、中国上海に本社があり、中国製の食品を扱う輸出商社と云う事しか判っていない。」

「その食料品貿易会社の社員が中古車を扱うアラビアン・ビークルに出入りしているのでしょうかね?」と姫子が言った。

「そこが怪しい。やはり、どこかの国の情報部員か工作員かも知れんな・・・。しかし、今回は大和探偵は中村竜を尾行していなかったのか?」と向山が考えるように言った。

「大和太郎は土曜と日曜にGパークタウンのマンションを見張っているだけです。夜来香いえらいしゃん貿易とアラビアン・ビークル社を見張ることはしていないようです。金曜日に夜来香いえらいしゃん貿易の事務所から岡山へ出て行った中村竜には気が付かないでしょう。」と姫子が言った。

「大和探偵さんは、それほど真剣に仕事をしておらんのかな?はっはっはっは。」と向山は茶化すように笑った。



越の風華59;紫峰筑波山

2012年11月20日(火)  午前10時ころ   茨城県の筑波山


筑波山神社の駐車場に黒塗りの高級車が5台、列をなして止まった。

白人、有色人、日本人3名を含めた合計13人の男たちが車から降りて、拝殿に向かって歩いて行く。

通訳をしているのは一人の日本人男性である。

一行は、大きな銅の鈴がひさしに掛った拝殿前で横二列に並び、日本人男性の指示に従い、神社参拝の礼を行った。

そして、日本人男性が英語で外国人たちに説明している。


「筑波山神社の主祭神は男神イザナギ尊、女神イザナミ尊の二神ですが、その御子神たちである天照大御神、月読尊、スサノオ尊、蛭子ひるこ命も祀られています。日本神話では、天御中主神、高御産巣日神、神産巣日神の三柱の天つ神の命を受けたイザナギとイザナミによって国土が創られたとされとおり、イザナギとイザナミは国生みの神様とされています。また、イザナギとイザナミが交わって蛭子命と淡島あわしま命を別々に産みますが、この二神は不完全なものとして海に流され、捨てられてしまいます。天照大御神とスサノオ尊は姉と弟の関係にある神様ですが、天照大御神は地上に降臨したことはありません。天照大御神は天(高天原)を治め、天つ神の意志を知らせる神で、太陽を司る神とされています。スサノオ尊は海原を治める命を受けて地上に現れた神様です。月読尊は月弓命、月夜見命とも呼ばれ、『日にたぐいて天の事を知らせる』神とされています。すなわち、天照大御神とは異なり、夜空の星を見て暦を読み解き、それを知らせる神と云う意味です。」と日本人が言った。

「男神イザナギ尊、女神イザナミ尊はアダムとイブだな・・・。」と白人が呟いた。


その後、一行はケーブルカーで筑波山頂駅に登り、駅前広場から左右の丘の頂きをながめている。


「左の男体山には筑波男つくばお命が住み、右の女体山には筑波女つくばめ命が住んでいるとされています。筑波男命、筑波女命の正体はよく判っていません。弾師は、筑波山は二つの山上(頂)をもつ二上山ふたかみやまであり、二柱の神がます二神山ふたかみやまである、と申されていました。」と日本人が説明した。

「二つに並んだ男神と女神か・・・。双子の兄妹神。弓の名人であるアポロンとアルテミスかも知れないな・・・?月弓はアルテミスの弓を象徴しているのか・・・。」と白人が呟いた。


「あちらに、紫峰杉と呼ばれる推定樹齢800年の杉の木があります。紫の峰と書いて紫峰です。この筑波山は紫の筑琴ちくきんと呼ばれる竪琴が発する音の波が着く山と呼ばれています。そのことから紫峰山とも着波山つくばやまとも呼ばれます。紫峰杉をご覧になりますか?」と日本人が言った。

「おおおっ、紫の筑琴ハープの音波が届く山か・・・・。その紫の筑琴の音は何処から発せられるのか?」と白人が訊いた。

「それはよく判りません。ただ、弾武典師から聞いた話ですが、九州地方に筑紫野と呼ばれる地域があり、そこに筑紫神社があります。筑紫神社の祭神は白日別命とスサノオ尊の御子神の五十猛いそたける命とされています。五十猛命は日本国土全体に樹木の種を植えた神様です。筑と云う文字を象形文字で表すと、左のへん竪琴ハープを表わし、右のつくりは琴を弾く人物を表しているらしいのです。また、筑紫野地域の山にはスフィンクスに似た荒ぶる神が現れ、人々を殺し尽し、その死んだ人々を納める棺を作るために山野の樹木を使い尽したとも謂われており、この荒ぶる神は後に改心して筑紫(尽し)の神とも呼ばれるようです。」と日本人が英語で説明した。

「荒ぶる神・スフィンクス。それは、ゴルゴン三姉妹の合体した姿であるはず・・・。九州地方の筑紫野へ行く必要があるな・・・。そこに紫の筑琴ハープがあるのか・・・?そして、ゴルゴン三姉妹の一柱であるメドーサの首と胴体はどこにあるのかだが・・・?」と白人が考えるように呟いた。

「このまま、その筑紫野に行っても、日本の古代の神話を知らない我々が紫の筑琴を発見できるとも思えませんが・・・・。」ともう一人の白人が言った。


「その通りだ。適当な日本古代学者を見つける必要があるな。君は世界の学術研究情報誌はよく読んでいたね。確か、以前、オメガ教団が拉致に失敗した学者がいたな。」

「はい、宝達君広という富山県のT大学教授でした。しかし、九州地方にはB大学教授の曽我三郎という学者がいます。地元の古代史には精通している学者です。宝達君広よりは曽我三郎の方が良いと思われますが。」

「その曽我教授はギリシア神話などヨーロッパの古代史には詳しいのかな?」

「それは、どうか判りません。」

「我々の目的は勝利の女神ニケを眠らせることができる紫の光を発する筑琴のあり場所を見つけるだけではない。ゼウスの子であるペルセウスに刈り取られ、アテナ女神に捧げられたゴルゴン三姉妹の一柱メドーサの首を見つけ出さねばならない。さらに、メドーサの首に入り込んでいる勝利の女神・ニケが眠っている間にメドーサの首を手に入れ、そして、その首をメドーサの胴体に戻して荒ぶる神の再臨を実現することによりナンバーセブン計画の目的を達成しなければならないのだ。ギリシア神話の意味をも熟知した日本の古代史研究者が必要だ。」

「それでは、京都市の藤原大造教授が適任かと思います。」

「京都市の古代学者が適任?」

「はい。D大学神学部教授です。旧約聖書、新約聖書の研究だけでなく、2年くらい前からギリシア神話と日本の神話、古代史との関係を研究しているようです。まだ、発表論文は少ないようですが、ヨーロッパ古代史を含め、ユダヤの歴史を研究しているようです。」

「あの藤原一族の子孫か・・・。確か、藤原一族は大和朝廷のために神殿祭祀を行った中臣家の血族だったな。そして、旧約聖書も研究している人物ですか・・・。」

「その通りです。」

「よし、その藤原教授に話を聞いてみましょう。何かありそうな気がする、その中臣家の子孫の教授には・・・。」

「拉致しますか?」

「そのような乱暴な手法は取らない方が良い。拉致しても、我々の質問に素直に答えてくれるとは限らない。トゥーレ財団から研究資金100万ドルを提供したい、と云う触れ込みで面会を求めることだな。面会時にいくつかの質問があると伝え、その面会時点では手付金1万ドルの研究寄付金を支払う事にすれば、こちらの話に乗ってくるのではないかな?」

「判りました。日本の学者は研究資金が少ないので、話に乗ってくるでしょう。早速、手配します。」

「よろしく、お願いする。」と一行のリーダーと思われる白人が言った。



越の風華60;

2012年11月30日(金)  午前3時ころ  神戸市内の河菱会本部


暗闇の中、黒装束に身を包んだ10人の男たちが、和風建築の河菱会本部周辺に現れた。

忍者のように背中には日本刀を背負い、胸元には消音器付拳銃が入ったホルスターを付けている。

また、頭部には赤外線スコープを装着している。


兵庫県警の刑事が数人、河菱会本部周辺の異常事態を警戒して見回っている。

刑事たちの背後から近づいた黒装束の男たちが刑事たちの背後から首筋に一撃を加えた。

そして、気絶して倒れ込む刑事の体を抱きかかえ、ゆっくりと地面に寝かせた。

それから、素早く刑事たちの両手両足を結束バンドで括り、目隠しと猿轡をかませた。

刑事たちの胸ポケットある携帯無線機のスイッチを切り、道路わきの溝に刑事の身体を転がした。

その間、30秒くらいの時間経過であった。


そのあと、黒装束の男たちは素早く和風建築の塀を乗り越え、中に入って行った。



越の風華61;

2012年12月3日(月)  午前11時ころ  国会前庭


大和太郎と半田警視長が噴水池の前のベンチに座って話しあっている。


「兵庫県警からの報告によると、河菱会本部の中はかなり凄惨な状態だったようです。腕を切り落とされて死んでいる者、首を切り落とされて胴体だけの死体。30人弱の遺体が転がっていたそうです。すべての遺体にはとどめが刺されていたそうです。江戸時代にでも舞い戻ったのかと云った状況だったようです。」と半田が言った。

「三田組長も殺されていたと新聞記事に出ていましたが?」と太郎が言った。

もとは工藤組組長の三田阿礼樹みたあれきか・・・。無残な最期だったようだ。遺体には激しい拷問の傷痕が数か所あったそうだ。激しい拷問は短時間のうちに何かを訊き出したかったからだろう。死因は青酸化合物の服毒だったらしい。拷門の後で毒を飲まされて殺されたと云うところだろう。」

「拷問で犯人は何を聞き出そうとしたのでしょう?」と太郎が訊いた。

「それは判りませんな。三田阿礼樹から聞きたかった事があるから河菱会本部を襲ったのかどうか?三田阿礼樹を殺したからと云って、それで広域暴力団・河菱会が潰れるとは思えない。直ぐに、新しい組長をてて、再出発するだろう。河菱会組長をめぐる権力闘争があると云う話は聞いていません。また、他の暴力団組織による行動とは考えられません。現在、縄張り争いがあると云う報告も聞いていません。」と半田警視長が言った。

「そうですね・・・。やはり、三田阿礼樹から何かを聞き出すことが河菱会本部襲撃の目的ですね。何を聞きたかったのでしょうかね、三田阿礼樹から・・・。」と、太郎は腕組みをした。

「ああ、それから。全国版の新聞には出ていないが、工藤組の張帆二ちょうはんじも同じ日の午前3時頃に愛知県岡崎市内にある自分のマンションの部屋で殺されている。3人の犯人たちは14階にある部屋のベランダから侵入したらしい。こっちは、張帆二を殺すことが目的だったようだ。」

「目撃者が居たのですか?」

「ええ、同じマンションの住人が目撃しています。犯人たちはベランダ側の防犯対策をしたガラスドアーをたたき壊して侵入したようです。大型の鉄槌ハンマーが2本、現場に残されていたそうです。犯人たちは屋上から14階のベランダに降りたようだ。夜中に発生した騒音に驚いた住人がベランダに出た時には、黒装束の男たちがロープで地面に向かって降りて行くところだったそうだ。まるで、忍者映画を見ているようだったと目撃者は言っていたそうだ。犯人たちは、道路で待っていた車に乗り込んで逃走したのを数人のマンション住人が目撃している。ベランダの上から見ただけなので車種やナンバーは判っていない。部屋内では2人の用人棒と張帆二が銃で撃ち殺されていた。銃声は聞こえなかったらしいから、消音器付の拳銃で撃たれたのだろう。ガラスの割れる音がしてから1分〜2分くらいの出来事だったらしい。」

「工藤組の張帆二ともと工藤組組長の三田阿礼樹が殺された。殺したのは忍者ですか・・・。短時間での見事な殺し方ですね・・・。」と太郎が考えるように言った。

「大和探偵、何か思い当たることでも?」と半田が訊いた。

「いえ、神武東征伝説殺人事件の犯人・岳内林太郎を自白させた警視庁中央署の鈴木刑事の話を思い出しただけです。」

「ああ、熊野牛王神符連続殺人事件合同捜査本部の時の鈴木刑事の話ですか。」

「ええ。架空の黒鵜族の話をした時の岳内林太郎の反応が異常だったと云うことで、黒鵜族のような殺し屋の忍者集団が存在するのではないかと、鈴木刑事は思ったと云うことでした。」と太郎が言った。

「忍者集団・黒鵜族ね・・・。」

「と云う仮定に立つと、犯人は神威示現斎こと岳内太郎の一味と云うことになりますかね・・・。」

「岳内太郎の一味ですか。うーん。とすると、広島県呉市の自衛隊爆弾事件の報復ですかね。」と半田が腕組みをしながら言った。

「張帆二が自衛隊爆弾事件の犯人ではないかと云う話は警察内部だけの話でしたよね、確か。」と太郎が言った。

「警察情報が岳内一派に漏れている訳ですか。」と半田は首を傾げた。


「警察情報が漏れたのではないなら、自衛隊の特殊部隊による報復と云うことも考えられますかね。河菱会が犯人であるとの確定的な証拠を呉市の自衛隊は持っている、と考えられませんかね。」と太郎が言った。

「爆破事件時の監視カメラ映像などに張帆二の基地に侵入する姿が映っており、それが誰であるかの情報を調べ、暴力団員の張であることが判った、と云うことも考えられますか・・・。爆破事件の背後関係を知るために三田組長を拷問した、と云うことですか・・・。しかし、自衛隊で日本刀を使う特殊部隊の話は聞いたことはありませんがね・・・。やはり、黒鵜族ですか・・。」と半田が残念そうに言った。


「ところで『蘇民将来』事件の方の捜査は進展していますか?」と太郎が訊いた。

「いやあ、五里霧中です。捜査の手掛かりが全く見つかりません。」と半田が答えた。

「以前お話した件ですが、毎朝新聞から情報を聞く話は検討されましたか?」と太郎が訊いた。

「大和探偵、その件、仲介してもらえますか?」と半田が言った。

「ええ、構いませんよ。それで、河菱会本部屋敷の抜け道は発見されましたか?」

「ありましたよ。屋敷を襲った犯人たちがそこを通って逃げたようです。100m先の民家まで通じていました。そこの家の住民も斬り殺されていました。もちろん、河菱会の人間だったのでしょうから、殺されたと思われます。」

「ああ、それから、以前に質問があった松永金融相の遺品の件ですが、牛王神符は無かったようです。遺品はすべて松永金融相のお兄さんが引き取って行ったそうです。」

「そうですか。牛王神符は遺品には無かったのですか・・。」と太郎は考えるように呟いた。



越の風華62;

2012年12月4日(火)  午前10時ころ  東京桜田門の警察庁会議室


毎朝新聞社・社会部の向山部長、鮫島姫子、警察庁・刑事局補佐の半田警視長、そして仲介役の大和太郎の5人が会議室内で話し合っている。

お互いの名刺を交換し、椅子に座り、そして話が始まった。


「本日はご足労頂き、ありがとうございます。情報漏洩を心配して、必要最小限の人物での話し合いを大和探偵にはお願いいたしました。ご了解いただき、有難うございます。」と半田が言った。

「いえ、どういたしまして。警察のお役に立てるなら、この上ない光栄です。」と向山が言った。

「早速ですが、毎朝新聞社さんが持っておられる情報をお話していただけますか?」と太郎が言った。

「何から話しましょうかね・・。」と向山が言った。

「まず、イタリア国境の町のキアッソでの情報をお願いします。」と太郎が言った。

「その件は鮫島からお話しいたします。なお、キアッソ市はスイス国の都市です。」と向山が姫子を促した。


「ポイントだけご説明いたします。国債を運んでいて、イタリア財務警察に拘束された二人の日本人は岡上正一・51歳と大崎隆弘・62歳です。岡上正一は福岡県北九州市にある暴力団・聖武祇園連合会の初代組長ですが、大和探偵の話では、イスラエルの情報機関モサドの情報部員と云うことです。潜入捜査していたオメガ教団からの指示で岡上正一の名前を使って聖武祇園連合会を立ち上げた人物です。大崎隆弘は神奈川県川崎市に在住と云う事でしたが、調査の結果はパスポートを偽造で、川崎市の当該住所に大崎隆弘なる人物は住んでいませんでした。謎の人物です。また、当時、イタリア政府の発表では、二人は日本銀行職員とされていましたが、そのような人物が日本銀行に在籍した形跡はありません。二人がイタリア税関で財務警察に拘束された後、ハンス・マルクスなる人物が二人の釈放に向けてイタリア人弁護士を雇い、二人を即日釈放させることに成功しています。このハンス・マルクスなる名前は、2年前の横浜市内のホテルでの『赤い靴女性殺人事件』で指名手配されているドイツ人と同名です。また、ハンス・マルクスとキアッソ駅で会って話をしていた第3の日本人が居たことが駅の監視カメラ映像から判っています。第3の日本人に関しては何も判っていません。また、国債運搬事件発覚に関してはイスラエル政府からの情報でイタリア政府・財務警察が税関業務の強化に動いた結果と云うことでした。たぶん、岡上正一がモサドに報告し、モサドの報告を受けたイスラエル政府がイタリア政府に国債運搬の情報を伝えたと云うことでしょう。以上ですが、『蘇民将来』殺人事件との関係があるかどうか、特に、松永金融担当相の自殺事件との関連について、現在は何も掴んでいません。」と姫子が言った。

「しかし、松永金融担当相はキアッソ国債事件を調査させている最中に自殺しています。これは、本当に自殺なのか、他殺ではないのか。やはり新聞記者としては事実確認をしたい案件です。」と向山部長が付け加えた。

「『蘇民将来』事件の死亡者である投資会社社長の風祭武文と寺田純子、そして自殺したレストラングループ『越路』の社長・高城六郎と松永金融担当相とは接点があります。現在、この4名が殺されたと断定する証拠はありませんが、初動捜査に勢いをつけるため、殺人事件を視野に入れて捜査活動を行っています。もちろん、その死体の状況から、同一犯とは限りません。これらの事件に関する情報共有が必要ですから、風祭武文と寺田純子の死亡に関し、『蘇民将来殺人事件合同捜査本部』を兵庫県警内に設置したのです。高城六郎と松永金融担当相の死亡事件に関しても長野県警と警視庁にも捜査継続の指示を出しました。殺人事件としたのは私の判断です。松永金融担当相のかつての愛人であった寺田純子は風祭武文と殺される前に会っていました。しかし、新しい証拠が見つからず、捜査の進展が暗礁に乗り上げています。そのために、毎朝新聞さんがお持ちの情報提供をお願いした次第です。」と半田警視長が言った。

「ハンス・マルクスとはどのような人物ですか?」と向山が訊いた。


「横浜のホテルで殺された女性は自衛隊の情報部員でした。ハンス・マルクスは何らかの組織の情報員か連絡員と云うことで、その女性情報部員は横浜のホテルでコールガールを装いハンス・マルクスに接近したのですが、正体を気付かれ、自白を強要されている時に、隙を見てホテルのベランダから飛び降りたという結論になっています。」と半田は『ブラッククロス』の名前は表に出さないで言った。

「そのハンス・マルクスがキアッソ事件にからんでいると云うことは、その謎の組織が国債運搬に関係しているわけですね。そして、岡上正一のモサドが調査していたオメガ教団も関係していると云うことになりますかね。国債運搬事件があった当時、岡上正一はオメガ教団の一員になっていたのですから、国債運搬事件の黒幕はオメガ教団、あるいはオメガ教団と繋がる謎の組織ですね。」と姫子が言った。

「そうなりますかね・・・。」と半田が答えた。

「謎の組織の名称は判っていないのですか?」と向山が訊いた。

「まだ、はっきりとはしていません。」と半田が言った。

「判っていても、現段階では話せない、と云う事ですかね・・・。」と向山が嫌味を言った。

「外交上の問題もありますので、本日の所は、謎の組織と云う事にしておきましょう。」と半田が言った。


「ところで、鮫島さんは中村竜を尾行しているそうですね。」と太郎が言った。

「あっはっはー。ご存じでしたか。」と向山が言った。

「中村竜は危険な人物です。尾行が見破られれば殺されます。そして、死体は発見されないでしょう。」と太郎が言った。

「尾行をめろと云うのですか?」と姫子が訊いた。

「そうです。素人が相手に出来る人物や組織ではありません。」

「なるほど、組織とはアラビアン・ビークル、それとも夜来香貿易ですか?」と姫子が言った。

「そのどちらもです。これは、CIAからの忠告ですし、お願いでもあります。」と太郎が言った。

「CIAからの忠告は判りました。外交上のことですから、考えておきます。」と向山部長が言った。

「ところで、その中村竜から何か判りましたか?」と半田警視長が訊いた。

「先日の日曜日、岡山県玉野市T団地にあるAV総業の工場にいろんな外人が集合していました。目的は不明ですが、何かの会議でもしたのでしょう。それ以上のことは不明です。」

「国際的な事業計画の会議でもしていたのでは?」と半田が言った。

「日曜日に、危険な人物・中村竜を含めてですか?」と姫子が言った。

「なるほど。」と言って、太郎と半田が顔を見合わせた。

「なるほど、謎の組織ですね。」と向山がカマをかけた。

「想像にお任せします。」と太郎が言った。


「まあ、想像させて頂きますか。ところで、『蘇民将来』事件は牛王神符に朱文字で蘇民将来と書かれている訳ですが、以前、神武東征伝説殺人事件でも牛王神符に朱文字が書かれていました。この時の犯人である岳内林太郎の父親が岳内太郎こと神威示現斎ですが、この神威示現斎は何かの組織の人間ではないのですか?そのあたりの情報はないのですか?」と向山が訊いた。

「岳内太郎の動きに関する詳細な情報は持っていません。」と半田が言った。

「では、先日の河菱会本部の襲撃事件は暴力団抗争の可能性があるとの兵庫県警の発表ですが、同時刻に岡崎市にある工藤組の張帆二を殺したのは忍者の様な集団だったとの目撃証言がありました。我々の調査では、岳内太郎の長野県内の住処すみかは忍者屋敷のような逃げ穴が造られていたと認識しています。このあたりから推理すると河菱会本部の襲撃事件は岳内太郎の組織が何らかの関係があるのではないかと考えているのですが・・・。河菱会本部の組員は日本刀で殺されていたという話ですよね。」と向山が言った。

「現在のところ、岳内太郎が関わっているという事実は一切判明していません。今後の捜査活動によって、事実は判ってくるでしょう。」と半田が言った。

「我々の調査では、投資会社の風祭武文は河菱会の企業舎弟で、死体が発見された前日には河菱会本部を訪問していたはずですが・・・。」と向山が言った。

「その通りですが、河菱会本部の襲撃事件は岳内太郎の仕業とは断定する証拠は何もありません。また、『蘇民将来』事件の犯人であるという証拠もありません。重ねて言いますが、岳内太郎イコール忍者集団と云う証拠は何もありません。」と半田が言った。

「現在のところ、そう云うことにしておきましょう。しかし、何故に河菱会の三田組長と工藤組の張が殺されたのでしょうかね・・・。やはり、暴力団の権力闘争ですかね・・。」と向山が不満そうに言った。



越の風華・第一部〜須佐之男スサノオ復活伝説殺人事件〜 

      中編 完  (2013年12月23日) 

             後編に続く

             目賀見 勝利


参考文献:

増補三鏡 出口王仁三郎聖言集 八幡書店 2010年4月 初版発行

新訂 三神の秘義 高良容像 富士見書房 昭和54年4月 初版発行

大本 出口なお・出口王仁三郎の生涯  伊藤栄蔵  講談社 昭和59年4月

出口王仁三郎の大降臨 武田崇元 光文社 昭和61年2月

日本・ユダヤ封印の古代史 マーヴィン・トケイヤー 久保有政[訳] 徳間書店 1999年1月

神々の黙示録 金井南龍ほか 徳間書店 1980年4月 初版

陰陽五行 稲田義行 日本実業出版社 2003年3月 初版発行

パワースポットガイド富士・箱根 深見東州 たちばな出版 平成23年5月 初版発行

ノストラダムス大予言原典諸世紀  大乗和子訳 たま出版 昭和50年3月 初版発行

古代遺跡ミステリー アフリカ・ヨーロッパ編 DVD NHKソフトウェア発行

世界の神話101  吉田敦彦編  新書館 2000年6月 初版発行 

ピラミッド秘密の地下室  倉橋日出夫  学研 2003年8月 第一刷発行

地球の歩き方 ギリシアとエーゲ海の島々 ダイヤモンド社 2010年 第17版発行

海の文明ギリシア  手嶋兼輔  講談社  2000年5月  第一刷発行

古代ギリシア ロバート・モアコット/桜井万里子 河出書房新社 1998年6月 初版発行

アレクサンドロス大王  森谷公俊  講談社 2000年10月  第一刷発行

神々の系図 続神々の系図 川口謙二 東京美術 昭和51年10月、昭和55年8月 初版




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