拓斗の日常 #4
「ねぇ、たっくん……」
放課後。拓斗と美樹はいつものように帰り道を歩く。手を少し差し伸ばせば届く、そんなもどかしい距離を保ちながら。
「うん? 」
いつもならここには智がいて、そんな間に割って入ろうとする。
しかし、今日は智がいない。友達の家に寄るかもしれない、と昼休み、美樹がギリギリに昼飯を食べ終え、急いで教室に向かっていた時、何故か拓斗達の教室の前で待っていた智はそう言ったのだった。
「手……、繋いで良いかな……? 」
「どうした? いつもならそんなこと聞かずにしてくるだろ? ほら」
いつもと調子の違う美樹にちょっと驚きながらも、拓斗は美樹の左手を握る。
「はは、そう言えばそうだね」
美樹は、優しく包まれている自分の左手を見ながら言う。
「ねぇ、たっくん……? 」
「今度はどうした? 」
「今日、たっくんの家……、行っても良いかな? 」
「別に良いけど……、どうしてだ? 」
「Elysionやりたいなぁって……」
「それなら、俺の家に来なくても出来るだろ? 」
拓斗は何で美樹がこんなことを言い出したのかが、分からなかった。
「たっくんの隣にいたいの……」
「え…………? 」
……俺の隣……?
「Elysion始める時も、終わった後も、たっくんに隣にいて欲しいの。その方が何か……、心強いから……」
「分かった」
美樹に心を揺さぶられた拓斗は、美樹の言葉に頷くしかなかった。
「ありがとっ。たっくん」
元気良くそう言うと、美樹は拓斗を引っ張りながら走ろうとする。
「こら、美樹。そんなに急がなても」
「良いの。私は早くたっくんとしたいんだから」
そう言うと美樹はかけている眼鏡を外し、着ている茶色のコートのポケットにしまいこんだ。
「おい、美樹……」
「ん? 何……」
隣を走っている眼鏡をしていない美樹の顔は、拓斗にとって新鮮だった。
「眼鏡無くて見えるのか……? 」
「うん。見えるよ? 」
「じゃ、その眼鏡は何なんだよ……」
「キャラ作りだよ、キャラ作り。この方が賢そうに見えるでしょ? 」
「そりゃそうだけどさ、美樹はそんなことしなくても頭良いだろうよ」
クラスではトップ。学年でも上位10位以内には入る実力の持ち主なのだ。ちなみに拓斗はどちらの順位も美樹の下で、テストの度に歯痒い思いをしている。
「そうかもしれないけど……、そっちの方が面白いからさ」
「そんな理由かよ……」
「たっくんは、どっちの私が良い? 眼鏡してる方か、してない方か」
「うーん。それは難しい質問だな……」
そう言いながらも、拓斗の中にはもうすでに答えは出ていた。




