プロローグ #1
「はぁはぁはぁ・・・・・・」
鷺ノ宮智は白い息を出しながら、一生懸命に走る。
「待っててね。にぃ」
智は大きな箱を大事そうに抱えながら兄のため、そして自分のために走る。
「ふぅ・・・・・・。やっと戻ってきた・・・・・・」
智は自転車を使えば良かったかも、と少し後悔をする。
「時間は、午後3時45分か。後15分しかないっ」
智はそれを確認するやいなや、物凄い勢いで自身の家の扉を開けた。
「にぃ。た、ただいま」
「智っ! 良かった。ちゃんと買えたんだな」
「うんっ。ほら」
智は手に持っている大きな箱を兄、鷺ノ宮拓斗に見せる。
「よし。上出来だ」
そう言うと拓斗は智に近寄り、智頭を撫でる。
「へへ、ありがと。にぃの方も買えたの? 」
「おぅよ。バッチリだ」
智はELYSION ONLINEと書かれている箱を拓斗に手渡す。
Elysion Online。それは2047年1月18日、株式会社Ankerから発売されるVRMMOだ。
この日本、強いては海外のゲームファンがこれが発売される今日をまだかまだかと待っていたのだ。
それは何故か。このElysion Onlineは自分の感覚という感覚をこのゲームに投影する事が出来るという新システムが搭載されているからだ。
これは今までに類を見ないタイプのシステムだったため、人々はそれに歓喜しこの日を楽しみにしていた。智と拓斗もそんな人の内の1人だ。
「なら、早く準備して時間ピッタリにログインしようよ」
「そうだな。俺の部屋に準備してあるから、行くぞ」
「うんっ」
拓斗の後ろを智はついていく。
早くElysion Onlineをやりたいという思いを込めて。
拓斗の部屋に入ると、智は拓斗のベットの上にこのElysion Onlineをやるためのハード【Anker】が二つあるのを見た。
「後5分だな」
後5分。午後4時から、Elysion Onlineの正式サービスが開始される。
おそらくソフトとハードの発売時間午後2時に買えた10万人の人々は今、智と拓斗のように準備を終えて待っていることだろう。
「ソフト、ダウンロードしよっか。にぃ、頼むよ」
「おぅ。任された」
智は箱からCDの形をしたソフトを拓斗に渡す。
「私、先にベットに入ってるね
「うん。俺もすぐ行くから」
智はベットに入る。
・・・・・・にぃの匂い・・・・・・。
「やはり、二人だと狭いな・・・・・・」
ソフトのダウンロードを終えた拓斗がベットに入ってくる。
「もっとくっつけばいいんだよ。にぃ」
「それもそうだな」
智と拓斗はほぼ抱きついている体制になる。
シングルベットだから仕方ないといえばそうなのだが、二人はそんなことを気にしている場合ではない。
「後10秒・・・・・・。9、8、7、6・・・・・・」
「5、4、3、2、1・・・・・・」
「「Elysion スタート」」