第二話 自己紹介
今回はタイトル通り登場人物達の自己紹介です。新キャラが二人ほどでます。
第ニ話
『はあ〜!』
『ふざけんなよっ!』
『何で俺達がこんな時代遅れの校舎なんだよ!』
『納得いかねえ!』
『それになんだ!ロクデナシって!?』
自分達のクラスが時代錯誤も甚だしい木造校舎だと知って新陸組の生徒達は口々に不平を叫んだ。それもそのはず。今日から高校生、部活に勉強から文化祭に体育祭、修学旅行など様々な青春イベントが満載だというのにその高校生活を最低1年もこんな何もないようなところで過ごさなければいけないとなると不平不満が出て来るのは当然の流れというものだ。
「確かに。いきなりこのような所に連れて来られて怒りたいのも解ります。ですが、皆さんのクラスが此処だということは揺るぎようのない事実なのです。」
だがそんな不平の嵐の中でも、麦田の対応は少々厳しくいいながらも穏やかだった。想像するに毎年のことなので慣れたのだろう。
『理由を聞かせろ!』
「理由は入試の成績だろ?」
一人の生徒の疑問に答えたのは麦田、ではなく秀貴だった。
「……よく、ご存知ですね?」
「まあな。パンフにも書いてあったからな。『成績の良い生徒は相応の高待遇』って」
秀貴がクラス分けの方法を知っていたことに麦田は眉を細めた。対して秀貴は不遜とも言える態度で返した。どうやらさっきの仕返しのつもりのようだ。
『確かにそんな感じのことが書いてあったな』
「ならその逆、『成績の悪い生徒にはそれ相応の低待遇』ってのも有り得るわけよ」
学園PRのパンフレットに書かれていたことを思い出した生徒に続ける様に説明したのは設楽だ。彼も企みが成功したような笑みを浮かべていた。
『け、けどパンフにはそんなこと一文字も−−』
「人を呼ぶためのパンフレットにマイナスになるようなこと書くわけないよ。まあ書いてないからって書いてることを全部鵜呑みにするのもどうかと思うけどね」
「英光も厳しいねえ。まあメリットばっか見てて『そこ』に行くための努力をしなかった報いってことで諦めなよ」
毒づいた英光の笑顔はどことなく黒かった。それに正宗は英光に厳しいと言いながらもかなり辛辣な台詞を吐いていた。
『なっ!?そこまで言うことはないだろっ!』
「五月蝿いっ!此処に来たってことはそういうことでしょ!なら何時までもグダグダと文句を言わない!」
「少なくとも合格する程度にしか勉強をしていなかったのは事実なんですから。男らしく現実を認めては?」
「あははは。二人とももう少しオブラートに包もうよ」
陸組の数少ない女子にバッサリと斬り捨てられて男子のほぼ全員(秀貴達以外)は地面に突っ伏した。洸も二人を諌めてはいるが彼女らの言葉を否定しないあたり考えていることは同じなようだ。
「ま、こんな所で何時までいてもしゃあないから早く中に入りましょうや。」
どこまでも軽い物言いの秀貴に麦田は内心
(今年の生徒は骨が折れますな)
とゴチた。そして彼の予想はもうすぐ現実のものとなる。
「そうですね。いくつか連絡事項もありますし。では皆さん。教室に移動します。靴は履いたままで構いません」
秀貴に促されたこともあり麦田は生徒達を教室へと案内した。旧校舎は土足でいいようだがそれは自由というより昇降口ですら床板がボロボロでソベラが刺さって危ないからだろう。
「此処が私達陸組の教室です」
と言って麦田は『壱之陸』と書かれたボロボロにひび割れたプレートが付けられた教室のドアを開けた。
「へぇ。外見の割りに中は小綺麗だな」
「そうだね。けど設備の方は見た目通りみたいだよ」
秀貴の言う通り、廊下側の窓の磨りガラスがひび割れと補修のためのテープて満ちていたにも関わらず教室の中は余り埃っぽさはなかった。
だが設備まではそうはいかなかった。黒板は傾き所々亀裂が入りチョークや黒板消しを置くところは割れて虫食いの様になっていた。机と椅子は当然木造で脚が4本とも無事な物を探す方が難しいくらいで、中には椅子ですら天板がひび割れたり欠けている物も多かった。因みに先程外で文句を言っていた面々は八千代と緋奈の言葉が効いたのか、不満そうな顔をしているが口に出すことはなかった。
「まぁ設備に関しては仕方ないよ」
「だな。しっかしホントにあんまり埃とかないな。蜘蛛の巣くらいは張ってると思ってたんだが」
「そういやそうだな。案外先生が掃除していたりして」
正宗が教室の綺麗さの理由を麦田が事前に掃除していたからではないか、と考え麦田を悪戯っ子の様な嫌らしい目付きで見たが、
「ええ。そうですよ」
当の本人は聞いた方が拍子抜けするくらいアッサリと肯定した。
「本当ですか!?」
「はい。今朝の5時から7時頃まで。毎年の事とは言え骨が折れましたよ」
「今朝の5時から7時まで!!しかも毎年!?」
この回答には陸組の生徒はおろか秀貴達ですら驚きを隠せなかった。お世辞にもあまり運動の得意そうに見えない初老の紳士が、朝の5時から7時までの2時間も掃除して、しかもその後校門の前で例の封筒を配ったり、今でも生徒の引率をしたりと、とてもそんな体力があるとは思えなかった。ガーデニングをしていたと言う方がまだ納得がいく。だが秀貴は、あの手だから有り得る、と今朝の握手の感じから麦田の言葉の信憑性を考えていた。
「まあそれはともかく。皆さん席に着いて下さい。席は特には決まってないので好きな席に着いてもらっても構いません」
麦田の号令で生徒達は各々比較的まともな席を巡ってバーゲンセールに群がる奥様方の様に席を取り合った。しかし、というかやはりというか、秀貴達はこんな場面でも冷静さを失うことなく喧騒が落ち着いた辺りで余った席に着いた。偶然にも7人が互いにそんなに遠くに(といっても教室の中だが)位置することなく比較的近い位置に着くことが出来た。位置は大体1番後ろの列の窓側周辺だった。
「皆さん席に着きましたか?」
麦田が教壇の上から教室を見通す様に確認した。
「では改めてまして。コホン。皆さんはじめまして。私が今日から1年間皆さんの担任を勤めさせて頂くことになった麦田嘉仁です。どうぞよろしく」
校門の時と同様に麦田は生徒に対する態度とは思えないほど丁寧に挨拶をした。
「連絡事項がいくつかありますが、先ずは自己紹介から始めましょうか。では廊下側の人からお願いします」
麦田の号令で廊下側の1番前の席に座っていた、クリーム色の長髪をお下げにした女生徒が立ち上がった。
「はじめまして。R中学校から来ました、恵・S・シュルツ(めぐみ・シュトラウスキー・シュルツ)です。趣味は歌を歌うことです。よろしくお願いします」
恵はペコリとお辞儀をして座った。次に立ち上がったのは山吹色の髪をボーイッシュに纏めた長身の勝ち気そうな女生徒だった。
「ウチは龍ヶ峰凜。メグと同じR中学出身。趣味は特になし。あと男子に一言」
凜は教室を眺める様に見渡し
「メグに少しでもちょっかいをしたら、ただじゃおかないよ」
キッと睨んでそう告げ、ドカッと腰を下ろした。凜の凄みに負けてか男子の殆どは竦み上がってしまった。中には凜に熱い視線を送っている者もいたが。その後は淡々と続いていき英光の番になった。
「T中学出身の柴田英光です。趣味は演劇や絵画を観賞することです。因みに恋人はいません」
英光の一言で教室中がざわめいた。どうやら恵から英光にターゲットを変えたようだ。見た目美人な英光を狙おうとする輩は確かに多い。だが
「あと僕は男なんでその辺勘違いしないで下さいね」『『『何ぃいい!!!』』』
秀貴達を除く陸組男子全員の絶叫がこだました。というか名前と服で判断出来なかったのだろうか。陸組になったのも納得できる。騒ぎを起こした当の本人は何食わぬ顔で悠々と席に着いた。入れ代わるように次は八千代が立った。
「橘八千代です。柴田君と同じT中学校出身です。趣味は料理です」
「八千代ちゃんの料理はプロ級だからねぇ」
八千代の自己紹介に割り込んだ洸。その顔はまるで自分の事の話すかの様に誇らしげだった。
「そ、そんな。私なんてまだまだだよ……」
口では否定しているが頬に手を当てて腰をくねらせているあたり満更でもなさそうだ。だが直ぐに我に返り恥ずかしそうに席に着いた。次に立ち上がったのは緋奈だが、表情はどこか不満そうだった。
「五木緋奈です。出身校は八千代達と同じT中学校です。趣味、というか特技は……」
緋奈は途中で区切ると洸の手を取って立たせた。
「な、何?」
不安そうな顔をする洸にニッコリと微笑むと
「ふん」
「どっはあっ!」
洸の手首を後ろに反らすようにして投げ飛ばした。合気道で言う『四方投げ』だ。後ろのロッカーに向かって投げたので他の人に被害はなかったが変わりにロッカーが凹んでしまった。
「あ、洸君!大丈夫?」
「特技は合気道です。昔何人か痴漢や引ったくりを撃退したこともあります」
投げ飛ばされた洸を助けに行ったのは当然八千代で、投げた緋奈は悠然と自己紹介の続きをすると自分の席に着いた。余りの出来事に生徒はおろか麦田出さえ呆気に取られていた。秀貴達は慣れているのかニヤつきながらその光景を眺めていた。
「……ててて」
「大丈夫?もう!緋奈、やり過ぎだよ」
「ふんっ!」
洸を介抱しながら八千代は緋奈を諌めるが緋奈はそっぽを向いた。完全にご立腹のようだ。
「ふぅ。相変わらず緋奈は強いね」
「……何よ。暴力的だって言いたいの?」
「そんなこと言うわけないじゃん。強さは緋奈の魅力だもん」
「に゛ゃ!?」
洸のいきなりの告白に緋奈は猫の様な素っ頓狂な声を上げてしまった。
「だって緋奈みたいな小さい子がこんなに強い……」「もう一回投げられたい?」
「ごめんなさい」
洸は褒めたつもりだろうが緋奈にとっては禁句だったらしくまたもや怒らせてしまった。
「はいはい。いつまでもイチャついてないで。先に進めるぞ」
「い、イチャついてなんか」
「ちょうどいいから洸でいいな」
「人の話を聞けえ!」
茶化しといて勝手に進行させる秀貴に緋奈は抗議の声を上げるが秀貴はそれを華麗に無視した。
「えっと。加納洸です。中学は英光達と同じT中学出身です。趣味はゲームです。よろしくお願いします」
洸は先程のやり取りの恥ずかしさもあるのかアッサリと済ますとそそくさと席に座った。それに続くように八千代も自分の席に戻った。次に立ち上がったのは正宗だ。
「んじゃ次は俺な。俺の名前は北条正宗。同じくT中学出身。趣味は生命の神秘について語ること。以上。よろしく!」
正宗は最後にサムズアップして席に着いた。次は達城が立った。
「設楽達城。同じくT中学出身。趣味は……しいて言えば洸と同じゲーム。以上」
達城はサラリと自己紹介を済ますと席に着いた。
「次は俺っと。神前秀貴。出身は同じくT中学。趣味は読書、ゲーム。以上だ」
秀貴もサラリと済ますと席に着いた。後は同じく様な自己紹介が最後まで続いた。
「−−です。よろしくお願いします」
「これで全員済みましたね。ではまずこのクラスのクラス委員長を『発表』します」
麦田の発言で教室の中が少しざわめいた。委員長を発表すると言うことは既に決まっているということだ。
「委員長は神前さんです。神前さん前に来て一言お願いします」
「決意表明ってやつですか?」
「はい。そんな感じです」
秀貴は言われた通りに教壇に上がり教室を、正確にはクラスメイトを見渡した。
「ああ、何故か委員長に任命された神前秀貴だって名前はさっき言ったか。さて、決意表明と言うか抱負を言う前に一つ問いたい」
秀貴は勿体振るように一呼吸おき
「入学早々こんな所にぶち込まれた同士諸君……戦争をするきはないか?」
宣戦布告を表明した。
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