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DARK SCENE  作者: 鵫弥
Secret
9/19

『 Secret 』part.2

深夜の暗い帰り道で夏樹が見つけた、友人の翼に酷似した姿。

それは小さな外套の明かりでも分かるほどだった。

その人物が翼であるはずがないと、そう信じる一方で増していく疑問。

そんな思いを抱えたままで目覚めたその日は...

忘れず覚えていた大切な日だった。









何か..... 音が鳴っている。




なんだろう。





.....。




強く騒がしい音。




これは...。






「........っ」





片手で空をまさぐる。



勢い良く何かが手の平に当たる。





「.....。」




....鳴り止まないその騒がしい音を消そうと。




手にぶつかったそれを、おもむろに叩く。






軽い音と共に、騒がしいその音も鳴り止んだ。





「.....んん」






朝だ。



鳴り止んだ目覚ましの音。



静寂が部屋の中を包む。






ふと、時計を見る。






午前9時。






よく眠れた......方なのかな。






カーテンの向こうから朝日が射し込んでいるのが分かる。



薄暗い部屋の中、ベッドから立ち上がりカーテンを開ける。



眩しい朝の日が瞼に刺さった。




目を細めながらカーテンを広げ、机の上に置かれた携帯電話を取る。



今日の日付の横に、予定日のマークが付いている。





「.....そうだった」



私は、今日の予定を思い出す。




少し遅めに設定されていた携帯の目覚まし機能をオフにして、画面を閉じた。




...窓の外は晴れている。




鍵を外し開けると朝の空気が私を出迎えた。






穏やかな気候。




ここから見える、道路沿いに咲く草花が静かな風に揺れている。




「.....」




6月の土曜の朝。



何気無い、なんでもない朝なのに...。




この気持ちは....





「....。」





何なのだろう。






「....あの姿は.....」





....翼だったの.......?







再び携帯の画面を開く。



メールボックスに残っている、翼からのメール。




昨日の19時。





その後会って....一緒に話して....




夜中には、お互い家に帰って。





そのはずなのに...。






帰り道に見つけた、翼にしか見えない姿。



知らない人を背負いながら歩いていた、翼にそっくりだった姿。




暗い夜の小さな外套の明かりだけでもしっかりと分かった。




でもそれは.....




私のただの見間違いかもしれないし、他人の空似なのかも知れない。




服装だって....ちゃんと見えてはないが、全く同じではなかったと思う。






「やっぱり...気のせいかな」





翼からのメールを一通り閲覧した後、携帯電話を閉じる。



それを片手に握ったまま部屋を出てリビングへ降りた。





「.....あれ、もう起きてたの?」



キッチンには母の姿があった。



いつものように朝食を作る姿。




「おはよう夏樹。今日は早いからね」



そう言うなりテーブルに朝食を置いた。



少しだけ焦っているのか、料理を盛り付けながら片手に電話を持ってメールを打っているような器用な事をしている。



「それ食べたら着替えて準備しといてね!」



母はその場で朝食の食パンを頬張る。



何処かへ電話をかけるのか、換気扇を弱くして食パンを飲み物で押し流している。




「...座って一緒に食べようよ」



「善は急げって言うでしょ!夏樹も早く食べて準備しなさいよー」




母はそう言うと電話の相手と話し出した。



この後の予定を話しているのだろう。



急ぐのも無理はないけれど。






『...続いてのニュースです』




リモコンで付けたテレビから聞こえたニュースの声。



聞き慣れたような、そうでもないような声はいつものようにテレビから鳴る。



そして、何気無しに聞いていた声から聞こえてきた内容に、私は箸を止めてしまう。





「......」




「また自殺ね」




不意に椅子に母が座る。



気付くともう電話を終えていた。




「...こんな日に、こんなニュース流さなくてもねぇ.....」



そう言った母の表情は悔しそうで、どこか諦めを浮かべた様子だった。




「今日でやっと1年....」




「.....」






今日は、兄の一周忌。




休日なのに早起きして準備するのも、朝のうちにお墓を参るため。




いつもは思い出さないようにしているけど.....今日は...




「....朝から気分が良くないわよね.....」




母はそう言いながら私の空いたコップにお茶を注ぐ。



きっと暗い顔をしている私に気を遣っている。




一年前のあの日....




もう二度と思い出したくもないのに。






「......」




「.....さ、食べ終わったら.....お兄ちゃんに挨拶しとかなきゃだよ。もうすぐ行くからね」




そう言ってキッチンに戻り洗い物を始めた。




私はまた進まない箸を取る。






―――――











窓の閉め切った和室は室温が高かった。



空気を取り入れるために窓を開ける。




朝の涼しげな風が入った部屋で、仏壇の蝋燭に火を灯す。



灯された火に線香を近づけた。





...漂う香り。



この匂いを嗅ぐ度に、あの日々を思い出してしまう。





今はもう、過去に捨てたと思っている、あの日々。





まだ....捨て切れていない日々。





「.....兄さん........」




揺らめく線香の煙を眺める。



積み重ねた日々は、共に過ごした時間は、失われていくのかな。



この煙みたいに.....。






静かに手元の鈴を鳴らして目を閉じる。




「おはよう...」




その音が鳴り止むのを待っていると背後から母の声が聞こえた。



「もう準備オッケー?そろそろ行くからね!」



「わ、分かった!」



私は焦って自室に鞄を取りに行った。















車の中は直射日光で蒸し暑くなっていた。



母はエンジンをかけるなり冷房を入れる。




...冷え性の私にはどこか心地良い温度と感じながらも、



「冷房効くまでのこの熱い風がヤなのよね~...」



そう言って母はエアコンの温度を極端に下げていた。



通風口から出る冷たくなる前の暖かい風に両手をあてがって、私はただぼーっと前だけを見ていた。










大通りに出ると車の数は多かった。



どこも家族連れのようなファミリーカーでいっぱいに見える。




「こんなに早く出ても巻き込まれたかー...」



「...まだ全然混んでない方でしょ、ちょうど時間も良さそうだし」



「夏樹はほんと落ち着いてるわよね、この前友達のとこの子を見て余計思うわ...」




笑いながら母は言った。




落ち着いている...と言うのは昔から言われてきた。



そんなつもりは、自分ではあまりないのだけれど....



ことある事に、大人びているとか、しっかりしているとか。



悪い気はしなかったけど、今でもそれが良いのか悪いのか、自分では分からない。




「....友達の子って?」



「ああ、裕樹の同級生だった子のことよ。年上の子と比べてもそう思うのよねー」




「そうなんだ.....」




兄の同級生。



よく聞く言葉。




兄に関わっていた人たちとは、まだ普通に接したりしているらしい。



....私には、それは出来ないけど。




それが正しいのかさえ、分からない。




...未だに。





「そういえば今日、そんな鞄もってどうしたの?」




母が私の膝に置いてある小さ目の鞄を不思議そうに見た。



普段、鞄なんて滅多に持たないけど...。




明日の.....日曜のために.....。




「.....明日使うから....久しぶりに持ち出しただけだよ」



「なに?明日デート?」



「そっ....!そんなんじゃないからっ!!」




焦ってつい声がひっくり返る。




母は嫌ににんまりと笑う。




「.....ふふ、まあ楽しんでらっしゃい」



「っ....!もう......」





やがて渋滞もなくなり、しばらく走っているうちに墓地の駐車場に着いた。




林の中にある墓地から少し離れたここに駐車場がある。



車を停めようと近付くと、見慣れた人たちの姿が見えた。




「あら、おじさんたちもう来てたのね!」




母が車越しに手を振ると、外で一様にこちらに気付いた。




久しぶりにその姿を見た.....ような気がする。





車を駐車しドアを開けると、不意に元気な声が聞こえた。




「夏樹姉ちゃん!ひさしぶりっ!」




声の主は従兄弟の涼太郎だった。



外の晴れやかな気候と共に懐かしいその声が出迎えた。




「おはよう、ひさしぶりだね涼君」




私は笑顔の彼に自然と笑みが零れる。



...また少し、大きくなった...のかな。




「おい涼太郎!今日はそういうノリじゃないんだよっ!」




その後ろから声が聞こえる。




母の兄の敏朗伯父さんだ。




今日という日だからだろう、落ち着いた服装だ。



その姿が長身な身体をより引き立たせている。




「いやぁ、同じ頃に着けてよかったよホント...」



「伯父さんおはよう、お久しぶりです」



「おお、夏樹~、ひさしぶりだな~、また大人っぽくなって」




伯父さんはいつものようにフランクだけど、どこか私に気を遣っているような様子だった。



車の鍵を閉め、荷物を持った母も伯父さんの顔を見て少し安心しているようだった。




「夏樹はだんだん私に似てきたのよ、おじさん!」




母は近付き嬉しそうな表情で言った。




「お前はおじさんて言うな!二つしか離れてねぇだろ!」




「あれ?そうだったっけ?」




母はわざと惚けたふりをする。



...このやり取りを見る度に、相変わらずだと思うけど...。




私もどこか気持ちが安らいでいる。




そんな気がした...。





「父さんこういう時だけノリとか言うのずるいぞ!いつもずれてるくせに~」




隣で涼太郎が頬を膨らませていた。



賑やかな傍ら、後ろからも姿が見えた。



奥さんの理香子さんと、知哉だった。



その姿を見た母は小さく手を振った。




「おはよう、時間ぴったりね~」



ゆったりとした口調で理香子さんは言う。



たれ目がちでおっとりとした佇まいは、隣にいる知哉も同じだ。



兄の涼太郎とは対照的に大人しく、まったりとしている。




「理香子さん、おはようございます」



「あら、おはよう、今日は晴れて良かったわね」




そう言って朗らかな表情で空を眺めた。



....いつもと違う所は、伯父さんと同様その服装だけ。




「知君もおはよう、ひさしぶりだね」



「...おはよう、夏樹お姉ちゃん」




少し恥ずかしそうな様子だった。



もうそんな年頃なのかな。




「知哉はホント大人しいわね~、なんか裕樹を思い出すわ」



母が笑ってそう言った。



理香子さんも頷きながら笑っていた。




....私は笑えなかった...けれど、




確かに、ちょっと似ているかもしれない。




兄さんに。




知哉は少し困ったような表情で恥ずかしそうにしていた。






「んじゃ、揃ったことだし行きますか」




無事合流しみんな一緒に墓地へ向かった...。










林の中は日差しが当たらず涼しかった。



風が木々を揺らす音がなんとも言えない気持ちにさせる。




私は目を閉じて小さく息を吸った。





まだ消えずに残っている、あの夏の日々。



こうやって目を閉じるだけで、また蘇る。





....いつもは目を背けるように、忘れ去るように過ごしていたけど...。






今日は.....




思い出しても良いよね...。






(兄さん....)







「夏樹姉ちゃん、どうしたのー?」




突然、涼太郎がそう問いかけてきた。



私は何事も無かったように微笑む。




「ううん、なんでもないよ!」




「ふーん...」




どこか不思議そうな目で私の事を見つめていた。



いつもの...私の悪い癖.....。




今日という日にも...変わらず。







.....変わらず、兄さんの事が頭から離れない。





やっぱり、忘れようとしても無理なんだ。





どれだけ違うことを考えようとしても。




どれだけ、他の....



例えば、学校のこと.....翼のことを考えたとしても...




忘れ去ることはできない。






それに....





深夜の涼香川で見たあの姿。




今はあの姿も...頭から離れないでいる....。







「涼太郎~!走るな!」




気付くと涼太郎は駆け出して先に行こうとしていた。




「だってぇ~、みんな歩くの遅いんだもん!」




「あはは!涼太郎は相変わらず元気だねぇ~」




呆れる伯父さんを余所に、母は笑っていた。



その後ろで理香子さんも微笑んでいる。



そしてその傍で歩いている知哉。






(これが...家族なんだろうな.....)





その時私はそんなことを思った。











―――――






墓地に着くと、他に二組ほどの家族がいるだけで相変わらず静かだった。



私たちは水桶に水を汲み、兄さんのお墓がある場所へ向かう。




小さな階段を少し登った奥まった場所に兄さんのお墓は立てられている。



墓石は変わらず綺麗にされていて、やはり立派だった。




「多分、お母さんたちが綺麗にしてくれてたのね」



「そうだろうな。夕方にはおふくろの所行くように言ってあるから」



「そうだったわね、お礼言いに行かなくっちゃ」




母と伯父さんはそう話しながら花を新しいものと換えている。




私はその間に線香を取り出して、蝋燭とライターを取り出す。



新しく花が入ったそこに水を注ぎ、墓石にも水をかけた。




「お、ありがとうな夏樹」




私は伯父さんに水桶を渡して蝋燭に火をつけた。




「....一年って...ほんと早いわよね...」




兄さんの墓石を見つめながら母は言った。



その視線の先には兄さんの名前がある。




「ああ、早いな」




静かに、伯父さんは呟いた。




「まるで...ついこの前のようだ」




伯父さんはどこか空虚な表情で空を見上げた。



理香子さんもどこか遠い目で墓石を眺めている。



涼太郎と知哉は、その様子を不思議そうに眺めている。





しばらくの沈黙が続いた後、みんな線香に火を灯し、目を瞑り手を合わせた。










.....兄さん、見ていますか?




私は今もここに居るよ。





兄さんは今、どこにいるの.....?












しばらくして目を開け、遠い空を眺める。




変わらない青い空。




多分、一年前の夏も、こんな青空だった。





この空は.....兄さんの目にはどんな色で








映っていたの?










――――風が小さく鳴って、答えてくれているような気がした。













家に着いた私たちは兄さんの仏壇がある和室で法要を行った。




仏壇にはいつもより明かりが多く灯され、普段は暗がりに隠れていた形状の輪郭がはっきりと照らされていた。




あの日を境に、この部屋に置かれたこの仏壇は、



兄さんを思い出させてくれる一つのしるしであり、忘れることの出来ない要因でもある。





でも.....忘れないために....覚えているということを刻むために.....みんな供養してくれている。




だからこうやって集まってくれている...。





だったら.....忘れる必要なんて......ないのかもしれない。






たとえ、今辛くても...




思い出に寄り添い続けることで、何かが変わるのかもしれない。





仮にそうだとしたら...。





私が必死に忘れようとしている姿を、兄さんは悲しむかな。








.....どうか、悲しまないで。





私は忘れてなんかいないから。




忘れるはずがない.....。






大切な兄さんのことを。










ふと頬に生暖かい感触が走る。





もう枯らすほど流したと思っていた涙が、不意に零れた。




その不意の一滴が流れると、自然と溢れ出した。




それは嗚咽交じりとなり、熱を持ったような温度を感じる。





隣に座っていた母の手が、そっと私の左手に置かれた。




私は震える右手でその手に重ねる。





冷たい私の手には、その手はとても暖かかった―――。




















一周忌の法要も終え、みんなで祖父母の家に向かった。




こうやって揃って祖父母の家に集まるのは今年の元旦以来だ。



今日はこのまま夕食をご馳走になる。





「いやぁ~、やっぱり実家は落ち着くねぇ~」



「お前は落ち着きすぎなんだよ...おふくろ、今日はご馳走になるわ」




母と伯父さんのやり取りは仲の良い兄妹そのものの様子で見ていて微笑ましかった。



二人にとって実家であるこの家に一緒に帰ってくる度に、こんな様子だ。




「まぁあんたたちは相変わらずねぇ、夏樹ちゃんも、いらっしゃい」



「おばあちゃん、ひさしぶり。私も料理手伝うから、何かあったら言ってね」



「ありがとうね、今はいいから、あっちでゆっくりしてなさいな」




私は一先ず食器の準備を手伝った後、みんながいる居間へ行った。





冷房が効いた15帖ほどの居間は涼しく居心地が良かった。



母と伯父さんと理香子さんは祖父と共に語らいながらテレビを見て、涼太郎と知哉は携帯ゲームで遊んでいる。




「夏樹ちゃんもこっちでゆっくりしましょ!」



理香子さんは私の姿を見つけるとそう言ってくれた。



理香子さんたちと子供たちの間に腰を下ろす。




「おや、なっちゃん、ひさしぶりだの~」



「おじいちゃん、こんにちわ」




ソファに祖父が座っていた。



私と母を何度か見比べた後、少し笑っていた。




「それにしても、あんたら家族は似とらんのぉ~」



「あはは!お父さんそれ禁句っ!」



母は笑って手を叩いた。



伯父さんも、そら見ろ、と言わんばかりに横目で母のことを見ている。




「なっちゃんはぁ、大人びとるよなぁ~、父ちゃんもそんな感じではぁなかったでよ」



「おい!親父...」




伯父さんはそう制した後、申し訳なさそうに私たち親子を見た。



母は相変わらず笑って、その事について受け答えている。




「ははは、でもその通りかもねぇ...この子はあの人にも全然似てない」



「え!?誰!誰?」



すると涼太郎が興味深々といった具合で聞いてきた。



「涼太郎!お前には分かんない話っ!」



またも伯父さんは制する。




そのやり取りを眺めながら、私は手元に置かれたお茶をコップに注いだ。



お茶を再びテーブルに置いた時、隣に居た知哉と目が合った。



「知君もお茶飲む?」



「ううん、大丈夫」




そう言って手元に置いてあったペットボトルのジュースを飲んでいる。



父の話題が出たからか....少し気遣ってくれているようにも見えた。



ジュースを飲みながら、知哉は横目で私の方を見た。




その顔立ちからか、それが儚げな表情にも見える。



けれどそれは彼にとってはごく普通の表情。




私は何故か愛おしくなって自然と微笑んでいた。




「.....?」



知哉は不思議そうに私の方を見ている。



その様子が少しだけ懐かしく、けれどどこか新鮮だった。




「夏樹姉ちゃん!ジュース無くなったからお茶頂戴!」



すぐ隣の涼太郎が言う。



私は差し出されたコップに緑茶を注いだ。




「はいどうぞ。ジュースより緑茶の方が体にいいよ」



「はははは!良いこと言うな夏樹は~。涼太郎分かったか!」



伯父さんは笑って新品のコーラのペットボトルを開けた。




「あ!父さんずるい!」



涼太郎はコップを差し出して入れてくれるようにせがむ。




「緑茶入ってる!緑茶入ってる!!それ差し出すな!!」




賑やかにじゃれ合っている。



理香子さんたちは微笑ましくそれを見守っている。




「あれ?...母さん?」



母の姿がなかった。



見ると、母は祖母の方へ行って料理の準備を始めていた。




「...私も手伝わなきゃ」




立ち上がり代所の方へ向かった。













途中から私も加わり料理の準備を進めた。



3人がかりで進めるとあっという間だった。



完成した料理のメインは鯖の握り寿司で、他には揚げ物と吸い物等。




私たちは料理の乗った食器を居間のテーブルへと運ぶ。



自宅で法要をしていた時から食欲がなかったけれど、料理の匂いが食欲を誘った。




外は少し薄暗くなっていた...。






時間も既に夕刻となり、テーブルには夕食が並んだ。



この人数でも多いくらいの量だ。



みんなでテーブル囲み手を合わせる。





伯父さんと祖父はお酒を飲み交わし、母と理香子さんは祖母と談笑して食事をとっている。



私は知哉と、涼太郎の学校での話を聞きながら食べていた。




「それで、クラスマッチは俺のシュートのおかげで優勝だったんだ!」



涼太郎は得意げに話す。



知哉は変わらずマイペースに食べながらじっと話を聞いている。



「知哉、反応薄いってばぁ!」



「...だってお兄ちゃん、それ朝も聞いたよ」




知哉は困ったように笑って、兄弟二人で仲良く笑い合っている。




私はそんな様子を微笑ましく眺めて...。




(やっぱり兄弟っていいなぁ...)



そんな事を思っていた。




「こうやって見てると、夏樹はホントにお姉ちゃんみたいだな~」



こっちを見た伯父さんがそう言うと、母や理香子さんたちも私たちの様子を眺める。



そう言われて私は少し恥ずかしかった。




母と目が合う...。




どこか安心したような優しい眼差しが私を見つめていた。




「夏樹姉ちゃんがほんとの姉ちゃんだったら、俺ずっと一緒にいる!」



「涼太郎、お前それ....告白か!」




伯父さんは茶化したけど、涼太郎の言ってくれたことは素直に嬉しかった。




...今の私には本当に。












20時を過ぎた頃に食事は終わった。





「ごちそうさま、お母さんありがとね!」



「次ぎ会う時は盆辺りかな。ま、元気でやっててくれよ」




祖父母の家を出て玄関越しに手を振った。




庭にある駐車場まで行くと、車通りの少ない道路の向こうの方から鈴虫の鳴き声が静かに響いていた。




「もう夏だなぁ....」




車のキーを取り出した伯父さんは遠くの方を眺めて言った。



.....そう言えば、今まで見たいに煙草を吸っている姿を、今日はあまり見ない...。




「そりゃあおじさん、あれから一年経ってんだもの!夏だってくるわよー」



「だからっお前はおじさんおじさん言うなっつの!.....それに」




母が茶化すと相変わらず反応している伯父さんだが、少し何か言いたげな様子だった。



私の方をチラッと見た後、母に呟くように言う。




「あんまり軽いノリで言うなよ....そういうこと.....」





伯父さんが私を見たのは、やはり気を遣っているから。





「ねぇねぇ、父さん!車開けて早くー!」



涼太郎が急かす。



「あーはいはい!.....ほんじゃ、帰りますか」







私たちは車に乗り込み、伯父さんたちの帰る経路の途中で家まで送ってもらった――――。
















帰りの車の中でずっと外の景色を見ていると、静かだった携帯電話が不意にメールを受信した。




翼からだった。




私はすぐにメールを開く。






『明日何時に集合する?夏樹さんの都合のいい時間教えて!』





見ると、明日の集合時間のことだった。





(そういえば.....決めてなかった...)




私は即座に都合のいい時間を考え、昼食を一緒に済ませるということも考えメールを返信した。





『10時30分くらいでいいかな?』





送信出来たことを確認して画面を閉じる。




.....なんだろう少しだけ....




緊張.....じゃないけど。




この、そわそわする気持ち....





初めてでよく分からない感情.....。






「......。」




私は再び外を眺める。



やがて見慣れた景色が暗い夜に広がってきていた。




なだらかな坂を登って、交差点の赤信号で止まる。



この信号を越えるとすぐに橋がある。




.....涼香川だ。





またあの姿を思い出す。





私は手元の携帯をギュッと握る。





(...翼....じゃないと思いたい.....あの姿は.....)




忘れもしない、誰かを背負い宵闇の中をゆらゆらと歩き続ける姿。





...まるで死んだような誰かを、背負う翼に似た姿.....。





あんな場所に、翼がいるわけないと....






分かってはいるはずなのに。






「....あ、ここ」




すると突然、ずっと静かだった知哉が声を出した。



「ん?どうした知哉」



伯父さんは運転したまま問いかける。



理香子さんも隣で知哉の方を見た。



「この川、この前友達と来た」




「え?」




何故か私が一番最初に声を上げた。



母が横で驚いたように私を見た。



「どしたの?夏樹」



「え.....あ、いや....なんでもない」



私は何も気に留められないようにそう言った。




助手席に座る理香子さんは後ろの知哉を見ながら心配そうにしている。



「こんな遠くまで自転車で来てたの?」



「知哉も旅をしたい年頃なんだなぁ、男にはあるんだよなぁそういうのが」




伯父さんは相変わらずな様子だけど、理香子さんが心配するのも無理はない。



私の家と違い伯父さんたちの家はここからかなりの距離がある。



まだ小さいのに、この距離を自転車で来ていたとなると、心配するだろう。




「知哉にしちゃあ珍しいが、涼太郎のやつはこの前泊駅近くのデパートまで行ってたらしいからな...」



呆れたように伯父さんが言う。



当の涼太郎は、ぐっすりと眠っていた。



たくさん話して疲れたんだろう。




「あら、涼太郎寝たのね。寝顔だけはほんと天使なんだから~」



母はそう言って涼太郎の顔を見て笑った。




私はふと窓の外を見る。




丁度、橋を渡り終えるほどの所だった。






(あの場所.....)




私は土手の付近を見た。




あの深夜の頃のように、人影は見当たらない。





.....あれは本当になんだったんだろう。





気付くと知哉も窓の外を見ていた。



何故、知哉は友達とここへ来たのかは分からないけど、



その視線の先は、今私と同じ場所を見ている.....



そう思った。








―――っ!





突然、握っていた携帯が振動する。





驚きながらも画面を付けると、新着メール1件の文字。






『了解だよ!...明日楽しみだね、夏樹さん』





翼の返信だった。




分かってはいたけれど、少し安堵した。




明日.....






聞いてみようかな...。






でも...



そんなこと...




...聞くに聞けない。





ただただ迷い続ける。





あの場所に、翼は居たのか。







そんなはずないのに....







気になって仕方がない。






でも、それを聞いて...万が一翼だったら....






とても怖い。







あれは.....見なかったことにした方がいいの?








翼のメールを眺める。





どうしたらいいかなんて、私にしか分からない。








無言の問いを、画面の向こうに問いかける。



そんなことでは、何も返ってこない。



私がどうすればいいかなんて。




けれど何も返ってこないというこの事実が...




今の私には、ある種の救いなのかもしれない.....。













窓の外は、やがて自宅近くの景色を映していた。



























to be continued...













































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