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DARK SCENE  作者: 鵫弥
sins
6/19

『sins』Last part.











「........誰..........?」








俺は多分、そんな風に言ったと思う。






それは至極反射的に、言葉の意味すら意識せず、吸った息を吐くような自然さで。







そしてその言葉は的を得ているようで外しているのかもしれない。



まるで事実に対して白を切り続けるかのような薄情さを帯びていたかもしれない。



けれどそこに罪悪の感情は浮かばない。

唯一救われるとしたらそこだけ。




ただ何となく今まで口にしてきた、"恐怖"という感情に、どれほどの構成要素が含まれていたのか....



今ならそれに答えられる。




それは溢れかえる疑問と微量の戦慄。



一瞬の内にその渦中に立たされた自分に、

感じたことのないほどの無力感を感じている。






目の前には他でもない、





"俺"が立ち尽くしている。








正しくは俺ではない。






俺ではなく赤の他人。





ただ間違いなく、他人という括りの中で最も俺に姿の似た者。



その姿は身に纏っている服装こそ違うものの、それでも俺が目の前にいる者を俺だと形容してしまえるほど、



"それ"は俺だった。














「.........」







俺は次に続く言葉を探している。


先程とは違う、もっと語りかけるような台詞を探している。




この目の前の存在に対して今、どんな言葉が適切なんだろう。


何も浮かばない。


言葉を紡ぎ出せない。






「......ここで、」



すると目の前の存在は声を発した。





そんな気がした。


気がしただけ....とでも俺は思いたかったのかも知れない。



しかしその声は確かなものだった。






「何してるんですか...?」



紡がれるその声は紛れもなく確かな言葉で、問いかけてきた。



その声と言葉が響くと、止まったような世界から何故か現実へと戻されたような感覚を覚えた。




「え..........と...」




それでもやはり俺は何も言えない。

やっとの思いで出た声。



それを聴いた目の前の存在はこちらに意識を向けている。





...さっきまでよりも、確かに。



俺は口を半開きのまま、言葉の続きを言えずに前を見ている。



その姿は滑稽とか憐れだとかいう説明を超越した、なんとも言えない奇怪なものだろう。



俺は今この、目の前の突如として現れた存在に対して、どう対応すればいい...?



そしてこの場をどう収めればいい?




今確かに放たれた、"何してるんですか?"という言葉が、ぐるぐると俺のすぐ周囲を取り囲み廻っている。



俺に返事の言葉を求めている。





「.......きっ....」



俺は何を言おうとしてるんだろう。


何を言いたいのかも分からずに、零れた声を無理に言葉に変える。




「...気分転換..ですっ....」



なぜ語尾が敬語になったのかも、分からない。


そしてこんなに声が震えたことも恐らく初めてだ。



俺は今人生で最も怖気づいている。


俺と瓜二つの、この存在に。



恐怖というものを越えた、もっと謎めいた感情で時間がちゃんと流れているのかさえ疑問だ。






「........」




目の前の、この男はどこか驚いたような表情で俺の言葉を聞いた。


その表情すら、当の自分が見てもまさに瓜二つ。



怖いほどに。




けれどその怖さも、少し様子を変えた男の表情に、薄れていくような感覚を覚える。



少し驚いたような表情から、男は何故か小さく微笑んだ。


俺はそれが、とても日常的に人がとる仕草の一つとして容易に認識できたことから、そこで初めて日常という時間に引き戻された気がした。




「気分転換でしたか....!」



そして男は切り出した。


それまでのこちらの戦慄にも似た恐れの念を知らない、汚れない微笑みで。



その姿は勿論のこと、その声の色も俺のようだった。



「なんだか....」



男は少し俯きがちになって再び話し始める。


その様子はちょっと照れているようにも見れた。




「なんだかお邪魔しちゃった見たいですみません...!」



軽くお辞儀をして伝えている。


俺は呆気に取られていた。





さっきまでの、自分を支配した凍り付いた様な恐れ。


そして今の目の前の俺のような男の、ごく有り触れた健気な様子。



動き出した時間の中で俺は一人遅れてその流れに乗っているというような違和感をも覚えた。



そんな様子の俺をまるで見透かした様な無垢な瞳でこちらをのぞき込む。





「さっき友人に僕に似た人がいたと聞いて、あの人がそうじゃないかなぁって...なんかすみません...」



「....!!」




流暢に流れ出した彼の言葉には思い当たる節がある。



さっき2階のフロアで....




「間違えられた....」



「ああ....やっぱり!」




俺が呆気に取られて呟くと、彼は合点がいくような感じでそう言った。


まだ流れに追いつけていない感じの俺だが、一つ確かになった。




本当に.....似ているんだ。



俺はまだ呆然として目の前の彼を見つめている。


まだ脱力しきった心がふらふらと揺れている。




(一体何なんだ...?)



(本当にただの所謂そっくりさん.....なのか....?)





「....友人が失礼なこと聞いてすみません!あと、ゆっくりされてる所お邪魔しちゃったみたいで...」




俺にそっくりの彼は至って律儀に対応している。


もし同い年かその辺りの年だとしたら、珍しいくらいに礼儀正しい。




確かに数秒前まではこの上ない驚きと恐ろしさを感じていたのは事実だが....




「だっ....大丈夫....ですよ?僕も...ちょっと驚いただけなんで....」




俺は軽いような重いようなよく分からない嘘をついた。


至極冷静を装ってはみるが、まるで冷静でないことは自分が一番分かる。





まだどこか俺は宙吊りのような気持ちだ。






けれど、嫌に激しくなっていた鼓動は落ち着きを取り戻しつつあることは分かった。



この...俺のような人物は、どうやら幽霊でもドッペルゲンガーでもない。



本当にただただ.....




「似て...ますよね....?」




俺は導かれるようにそう尋ねた。


神様がもしいるなら.....この言葉をここで俺に言わせるためのキーワードのような台詞..。



紛れもなく俺に似ている....その彼に最も聞きたい事....


そうであると、同意を求めたい事。





「ふふ....ほんとにそうですね...!」



どんな答えが返ってくるか分からなかった。


聞いてもいいものかと思ったけど、



彼は屈託のない笑みで答えてくれた。





俺は何故かその笑みが懐かしかった。





「不思議なことがあるものですね」



彼は少し空の方を見て言う。



もう暮れ始めた夕空に、思い出を見透すような眼差しを向けて。



彼の瞳はその夕映えに染まり、昼夜を一つにしたような健やかさと安らぎを纏った色合いを見せる。





やはり確かにその姿は俺に瓜二つなのだけれど、その遠い宇宙の様な瞳は、今まで見たことのない光を映しているように見えた。




俺のようで、俺ではない。




そんな人物が....何故こんな所に。



何故こんな状況の時に...?





これが天のいたずらなのだろうか....?












俺はふと、デパートの中で人違いをされた、あの瞬間のことを思い出した。



あの時......





「もしかして、横井...さん、ですか?」



俺が思い出して問い掛けると彼は頷いた。



「そうです!もしかして.....友人が言ってました?」



俺もこくりと頷く。




なんだろう。


本当に.....何も心配要らなさそうだ...。





「僕は苗薔薇って言います。....なんかちょっと.....安心しました.....その、いい人だったので」



俺はそう言うと、なんだか照れくさくなって俯きがちになる。


それでも和らいだ不安を、口に出して確かめたかったのかもしれない。




「僕は横井翼です。僕の方こそ苗薔薇さんがいい人で良かったですよ....それに....」




彼は続ける。



「こんなに似ている人に、出会うなんて奇跡みたいで....なんか得した気分です...!」




奇跡...。


彼はまた屈託のない笑顔で伝える。



でも...本当に奇跡....みたいだ。





こんな状況下で....。






「苗薔薇さんは、この辺りの人?」




「そうですね...もう少し南の丘の方ですけど...」





彼に問われて改めて、今日この場所へ来た意味を思い出した。




この屋上で.....



自殺場所の下見をしに来ていたなんて....彼は知る由もないだろうな...。






「僕はこの辺りは昨年末に引っ越してきたばかりで...」



「えっ....そうだったんですか」




まさかの言葉だった。


この俺に似た彼は元々地元民ではなかったのか....。




「この街はまだ慣れないてないですけど....ずっと東北にいたのでここは暖かい気がします」




彼は西の空を仰いで言った。



日は完全に落ちていた。




「でも....越してきた街で苗薔薇さんと遭遇出来て.....良かった気がします!」




そ... 遭遇って......




暗がりになった屋上で、そう言っている彼の目は輝いているように見える。



気が付けばもう空は夜に染まっている。




「僕もそ.....会えてよかったですよ。こんなことって.....絶対滅多にないでしょうから」



まだ現実の事と認識するには疑わしい事だと思うが、紛れもない事実なんだろうな。



これがもし夢で、ここへ下見に来たことも....


あの時のことも全部目覚めたら夢、という結末だったとしても....








多分、驚きはしないだろう。








由沙を夜中に呼んだことも、傷付けたことも。


飛び降りて死のうとしていることも.....


自分と瓜二つの人にこうやって会ったことも....




夢だったとしても何も驚かない。









不運にも悪い夢を見たと....そう思うだろう。






「.....?...苗薔薇さん?」



「あ、いや....なんでもない、です」






また若干うわの空になりかけてしまった。


.....死ぬ時までには、こんな癖も無くしておきたいな....。




「ほんと、急に現れて驚かせてすみませんでした苗薔薇さん、僕そろそろ行かないと...暗くなってきましたし」



そうだった。



時間のことをすっかり忘れていた。



「そ、そうですね、僕も時間のことすっかり忘れてました.....」




たった数分のうちにこんなに話し込んでしまうなんてな。



こんなそっくりなんだから....記念写真の一つでも撮っておきたい気もするが.....



携帯の充電も切れているし、もういいか..........。

























ーーーーー




「それじゃあ失礼します!苗薔薇さん、またどこかで」








2人でデパートを降り店内を出て暗い駐輪場。



お互い別々の方向だった帰り道。



俺は道が違って少し良かったような、寂しいような気持ちに包まれた。






気が付けば明かりを灯す外套。



外はすっかり夜。




俺は自転車を飛ばして自宅へ向かう。





携帯の充電が切れていることもあって、少し焦っていた。



けれど連絡をくれるのも母親くらいで、毎回のように置き手紙だから、あまり問題は無いのだけれど。









部屋の鍵も閉めてある。



ベッドには由沙がいる。



家では今夕食を作り始めている頃....。














何も焦ることなど無いはずだった。










自宅近くの坂道。






少し色々と思い巡らせながら、自転車をこぐ。






涼し気な夜風が肌を撫でて....





少しだけ気持ちは落ち着いて.....












自宅が見えてくると片手に鍵を取り出し、






家の鍵と一つになったホルダーの自転車の鍵で施錠する。








小さめの車庫の中で細かい金属音が控えめに木霊する。















今までと何も変わらない。








変わっているけれど、変わってない。








変えてしまったけれど、変わってない。

















そうなら、よかった。















「ただいまー.....」




「ちょっと黒乃!?あんたどこで何してたの?」







玄関扉を開けると、母が少し怒り気味で俺に問い掛ける。




夜遅くまで出掛けていて怒られることは、たまにある。






最近は少なかったけれど。







でも、なんだろう。



久しぶりだからかな。




母親の怒っているような姿が....怒っているというよりは、疑問に満ちたような....複雑な色を見せている。









俺は辻褄の合うような事を言ったはずだ。





"デパートへ買い物をしてきた"




そんな風に。







それは、俺が勝手に辻褄が合っていると思い込んでいるから、言える台詞。







辻褄が合っていれば。









「あんた友達放ったらかしてそんな所行ってたの!?」



















え.....?








今.......









「いやいや、母さん」




「あんたがいないから、由沙君、ついさっき帰っちゃったわよ?」
























は.....?











今..........なんて....











「あんたほんっと馬鹿なことして!ちゃと謝っときなさいよ」

















意味が分からなかった。









「母さん、由沙は」




「ほんとに可哀想な由沙君!!でもあの子ほんといい子よね、きちんとお邪魔しましたって....ほんとそれに比べて...」

















母さんは、まだありもしないことを言い続けるのだろうか?







由沙が....帰った.....?










意味が分からない。









だって由沙は.....












「っ......!?母さんっ」



「由沙君、携帯電話持ってきてなかったみたいだったから家からあんたにかけたけど、充電も切らして....情けないわよほんと」

















いつもの風景。



ここも。家の....中も。








なんだ。










何がおかしいんだ。















俺が....おかしいのか.....?


































「......どう.....して......?」





自室のベッドの上には小さいブランケットが1枚




静かに置かれている。




綺麗に畳まれている。






すぐ横の床には見覚えのある大きめの寝袋。









小さく開けておいた窓からは、涼し気な風が入ってきている。














何も変わってない.....









そう思っていたはずなのに。




























由沙がいない






































DARK SCENE 『sins』 END



































『sins』というパートはこれで終わりになります。




次項から、新なた部へ移るのかどうかはまだ決めかねていますが...。









(続きを書くのかも怪しいです.......)




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