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DARK SCENE  作者: 鵫弥
Same
19/19

『 Same 』part.5






「誰やお前?」



軽く驚いたような、戸惑ったような声でそう言われた。



予期せぬ返答に焦りながらも、次の言葉を探す。



「っ....な..苗薔薇黒乃です!...お久しぶりです....!」



努めて良い印象を与えようと口角を上げて接する。



本来なら、ここで思い出してくれて、話が進んでいくものだと考えていた。



「.....すまん、誰か分からんわ。今忙しいからまた後で頼むわ」



怪訝そうな表情でこちらを見た後、そう言って足早に彼は去って行ってしまった。



「......。」




これは.....どういう......



...なにやってるんだろう.....俺。






―――3日前...




「は.....初めまして!」



焚かれたアロマキャンドルのような甘い匂いと、むせ返るような煙草の煙が入り混じった暗い室内。



少しだけ置いてある変わった形の小さいライトが部屋の中で唯一の光源になっている。



....数人の人が座って話しているカウンター。



そこに置いてある灰皿からだろうか、濃い煙がいくつも立ち上がっている。



その中にはバニラのような甘ったるい匂いのものもあった。



強いその匂いは少し離れたこのテーブルの所まで届いてくる。



...俺は咳き込んでしまいそうになるのを抑え、初めて会うその男に丁寧に挨拶をした。



「...苗薔薇黒乃と申します...お....お会いできて光栄です....」



「おう、結構結構!」



男は聞いているのかいないのか分からないような答え方で、酒をあおった。



白衣のようなその服は、どこかナース服を思わせるような形をしている....



長く伸ばされた黒い髪は肩まで伸び、顔は驚くほど濃い化粧を施している。



.....彼が、何故こんな格好をしているのか、到底理解できない。



「黒乃君、彼がここのオーナーの四季さんだよ」



「オーナーって、そんないいもんじゃないですよ、もう店長はアイツみたいなもんだし」



そう言って彼が指差した方向には、またも濃い化粧をした人物がいた。



カウンターの向こう側で話しているその人も男なのか女なのか、ここからでは判別出来ない。



この四季という男と同様に、声を聞けばすぐに分かるのだろうが...。



「今日はこれから予定はないんですか?」



桜華が男の咥えた煙草に火を付けるとそう聞いた。



首を横に振ると煙草の煙を吹いて四季は言った。



「あったけどなくなった、出るはずの車が使われとるとか言われて」



そう笑いながら言うと、灰皿に煙草の灰を落とし置かれたビールのようなものを飲む。



「ということは...今夜は朝までお付き合い頂けるということで?」



「アホ!そのつもりや!」



冗談っぽく聞く桜華にそう切り替えした。



....彼らは一体どういう関係なのか.....



それが不思議でならない。



「それじゃあ今夜はゆっくりさせてもらいますね。あ、僕コーラでお願いしまーす!」



桜華はカウンターの方へそう注文すると俺にも注文するように促したので、同じくコーラと言ってカウンターの方へ頭を下げた。



奥に居る人のメイクが禍々しさを醸し出している。



髪に隠れた片目も、あんな風に真っ黒なのだろうか....?



「お前ら、酒飲んでもええぞ」



「いやいや、僕ら一応まだ未成年なんで。雰囲気で酔っておきますよ」



「なんや繊細やなぁ、俺はもう一杯おかわりくださいッ!」



そんな調子でやりとりしている彼らを眺めていると、四季が思い付いたようにこっちを見た。



「黒乃、普段お前何しとるん?」



突然興味深そうにそう聞いてきた。



「あ...はい、普段は高校へ行ってます...!」



「彼、鈴蘭高校に通ってるんですよ、あの名門の」



「ほぉ、そうなんか、大したもんや」



ありがとうございます、と頭を下げながら運ばれてきたコーラを一口飲む。



多少の緊張で乾いていた喉が炭酸の刺激と共に潤された。



...それにしても....ここは一体なんなのだろう。



ただのバーというわけではなさそうだし...。



すぐ横の壁に貼ってある一枚のポスターを見る。



この四季と同じような格好をした物々しい人物数人が立っている写真が暗い中薄っすらと見える。



...何かいけない所へ来てしまったんじゃないか.....俺.....。



桜華に言われるままに、ここへついては来たが....本当に良かったのだろうか。



目の前の四季は再び新たな酒をあおり、何とも言えない空気感を醸し出している。



.....桜華が言うにはこの男が.....



「四季さん今日も良い飲みっぷりですね」



四季は新たなビールを飲みながら、再び煙草に火を付ける。



静かに煙を吐いて真っ黒に染められた目元をまたこっちに向けてきた。



「黒乃、お前の夢はなんや?」



「えっ....!?」



咄嗟の質問に戸惑う。



....というかあまりに唐突すぎて.....



「ゆ...夢ですか....?」



俺は即座に答えを探す。



けれど、こんな時に限って何も浮かばない。



戸惑いながらも、なんとか頭の中で捻り出した答えを口にしようとした。



「....僕の夢は...」



その瞬間、




――――――パリーーーンッ




鳴り響くガラスの割れる音。



足元で響いたそれに一番早く反応したのは俺だった。



「うわっ!」



「あちゃー、やっちゃいましたね」



立ち上がる桜華。



すぐ下の床には割れたグラスの破片が見事に散らばっている。



.....どうやら、飲んでいたビールを勢いよく落としたらしい。



「おお、すまん桜華」



微動だにせず椅子に座ったままの彼。



隣に座っていた桜華は至極冷静に散らばった破片を拾い集めていた。



...この様子を見るに、よくあることなのだろう.....



「だっ大丈夫ですか...!?」



「ああ大丈夫大丈夫」



ガラスの破片を捨てに行った桜華を余所に、また煙草を吸っている...



なんだろう....とりあえず...まともではなさそうだ.....



突然のことに遮られた夢の話も、もう忘れているかのように静かに煙草を吸い続けている。



やっとこの男がとんでもない変わり者なんだということを理解した俺は、この間を埋め合わせるようにゆっくりとコーラを飲む。



変わらず強いこの刺激でこの嫌な緊張を解くことが出来たらどれほどいいか.....



「.....。」



彼は虚ろな目をしてテーブルを見ている。



何か話したほうがいいのか、何を話せばいいのか....分からない。



今この瞬間に感じる疑問は沸々とわき上がってくるのだが....



「.....ふぅーっ...」



満足気に煙草の煙を吹かしている。



...なんとなく、そこに介入してはならない気がして俺はただ静かにしていた。



「すみませんお待たせしました、四季さん怪我ないですか?」



割れたグラスの破片を捨てにいっていた桜華が戻ってきた。



その手際の良さから、やはりこんなことが何度もあるのだろう。



「お酒持って来ましたよ、次は割れないように木製コップなんで安心してください」



「おお、すまんすまん」



桜華が手渡した新たな酒を飲み始める。



その中身は先程のように麦酒なのか何なのかよく分からないが、かなり酔っているということはなんとなく分かる。



再び桜華が隣に座り話し始める。



この男の酔い方から、早急に話を進めたほうがいいと思ったのだろうか。



「...それで、お電話させていただいた時にも申したんですけど、たってのお願いがありまして...」



改まる桜華に少しだけ反応を見せる四季。



「ほう、なんや?」



「....ガーディアンズキーの、スペアをお貸しいただけないでしょうか...?」



桜華から出たのは重みのある言葉だった。



俺にはまだ、それが何のことなのかさっぱり分からないが...



途端に神妙な面持ちになる四季。



その様子を見るに、やはりそれは重大な事.....なのだろうか?



四季は黙ったままテーブルの上を見つめている。



その視線の近くの灰皿に置かれた吸いかけの煙草の煙だけがゆらゆらと動く。




真剣な眼差しで返事を待つ桜華に振り向いて、四季は口を開いた。




「ええよ」



「えっ!?」



あまりにも軽い返事に桜華と俺は驚いた。



「...ほ、本当によろしいのですか...!?」



「うん、ただ今は手元に無いから多少時間は掛かるけど」



早すぎるその返事に俺たちはただただ拍子抜けしていた。



...さっきの間はいったい何だったんだ.....?



「あ...ありがとうございます!こんなに早くOKが貰えるなんて思っていなくて...」



「俺はそんなケチちゃうぞ!印象悪すぎやろ!」



笑いながら桜華にそう言っている。



こんなにも簡単に承諾してもらって...よかったんだろうか...。



今日の用件の事をまだ完全に把握していない俺は宙吊りの様な心境で目の前のやり取りを眺めているだけだった。



「それで、ご都合の良いお日にちをうかがいたいんですけど....近頃はお忙しいと聞いていましたので...」



「ああ、3日後ぐらいでええよ」



「そんなすぐでもよろしいんですか!?」



「うん。ただその日は展示にゲストで呼ばれてるから会える時間が限られるけど」



話が上手く進みすぎている....そんな気がしているのは桜華も同じだろうか。



彼は日程や詳細を事細かくメモ用紙に書き込んでいる。



予期せぬ助け舟が現れた、そんな状況だろうか...。



「.....それでは、お言葉に甘えさせていただき3日後に伺わせてもらいます。お忙しいところありがとうございます」



手早くメモを書き終えると、四季が咥えた煙草に素早く火を灯していた。



「そんなことより、お前ら一杯酒飲めや!」



「あっ、それではいただきます...」



冗談っぽくカウンターにビールを頼む素振りをした桜華は、笑顔でコーラ二つと言い換えて俺の分も頼んでくれた。



無事に用件が済み、彼も肩の荷が下りたのだろうか...



不意にこぼれた笑みからは、大人びた彼でも年相応の無邪気さが感じられた。




その後、変わらず飲み続ける四季の色んな話を聞かされた俺たちは、夜明けも近い午前3時過ぎ頃に解放された。



「四季さん、今日は本当にありがとうございました」



「あ、おう、構わん構わん」



「それでは3日後に文化会館にお伺いします」



「あっ...よろしくお願いします...」



ふらふらと立っている四季の様子を心配しながら、俺たち二人はこのよく分からない店の扉を開いた。



「ご馳走様でした!失礼します」



「失礼します...!」



「....黒乃!」



扉を出ようとした時に不意に四季から呼びかけられた。



「えっ!?はい!」



「いや、その、学校頑張れよ」



「....?...ありがとうございます」



何故その時そう言われたのか分からなかったが、俺は深々と頭を下げて店を出た。










―――




「あー、疲れた...四季さん相変わらず飲んでたなー」



両手を命一杯伸ばしてあくびをする桜華。



外も夜明けの時刻となりカラスが鳴いている。さすがに眠気もピークを迎えていた。



「...あの人は、いつもあんな感じなのか.....?」



「まぁ、普段は大人しい人なんだけどね。お酒が入ると止まらなくなっちゃう感じなんだと思うよ」



重いまぶたをこすりながら何度もあくびを繰り返している桜華。



それでも事が上手く運んだことが嬉しいのか、その足取りは軽やかだ。



「キーのスペアは借りられることになったし、ドリンク代まけてもらえたし、今日はついてるなー!.....ふぁ~...けど眠い.....」



「.....まだそのキーの事は教えてもらえないのか...?...俺には」



「んー、教えたところでまだ何も分からないと思うんだ。順を追って説明したいし...ね?」



大きい瞳を半目に空きながらそう答える。



...お互い眠気で意識が朦朧としているのがよく分かる.....。



それでも歩きながら眠るわけにもいかないので、お互い適当に話しかけ合いながらふらふらと夜明けの町を歩いている。



「はぁ~、今から始発まで長いよね~」



「....そうだな、あと二時間以上はある」



携帯を開いて時間を見る。



その数字を見るだけでも眠気を強く誘った。



隣から画面を覗き込むように桜華が近付く。



「てかガラケー使ってるけど、スマートフォンに変えないの?」



「いや、親に許可取らないと無理だし....第一あれ...使いにくそうじゃないか?」



同じく携帯電話を取り出した彼にそう問いかける。



折りたたみ式の画面を勢いよく開けた彼はゆっくり頷く。



「まぁ確かにね~、僕も触ったことないから分からないけど、しばらくはガラケーでいいや」



「ガ....ラケー.....?」



「...ふふ、ま....僕は黒乃君みたいに親に許可とか取らないかもだけどね~」



笑いながらそう言って携帯の画面を閉じると、何かを思い付いたようにふと目の前を眺めていた。



「...どうした?」



「いや、電車ないなら始発の時間までネカフェで寝ない?ベンチで寝るよりいいでしょ?」



そう言って彼は目の前の看板を指差す。



ビルに備え付けられた細長い看板は、よく見るネットカフェの看板だった。



「...あそこ、寝れるのか?」



「個室があるからね。ドリンクまけてもらってお金浮いたし、ここはお兄さんが奢ってあげるよ」



「いや、自分の分は出す。...というか、年同じだっただろ?お兄さんって....」



ビルの地下に続いている階段が見えた。



奥には透明のガラス扉がある。



「ん?もしかして初めてかな?黒乃君は」



「あ...うん。初めて...」



「僕が会員だから大丈夫だよ~」



そう言ってカードのようなものをちらつかせる。



おそらくこのネットカフェの会員証なのだろう。



階段を降りて扉を開けると小奇麗な店内が広がっていた。



「二時間でお願いしまーす」



カウンターに会員証を出すと二人分のコップが渡された。



ドリンクバー式で、おかわり自由らしい。



「僕先に部屋行っとくから、黒乃君ドリンク頼むねー」



桜華にコップを渡され、慣れない店内の中をうろつく。



「あ、僕アイスコーヒーの甘めでねー!」



奥からそう聞こえた。



....静かな店内で大きい声を出さないでほしいのだが.....



ドリンクを入れ、二人用の個室が並ぶ奥のスペースまでゆっくりと運ぶ。



「22番....と、ここか...」



両手が塞がっていることに気付き桜華にドアを開けるように促す。



「.....返事が無い....寝てるのか...?」



仕方なく肘でスライド式のその扉を押してスライドさせた。



辛うじて開いたドアの向こうには、備え付けられたソファベッドで既に横になっている桜華の姿があった。



テーブルにはテレビとPCモニターのような画面が置いてあり、その手前にドリンクを置いた。



「....ん、ああ、黒乃君ありがとね」



「いいけど...さ。.....これ、二人寝れなくないか?」



桜華が横になっているソファベッドは彼一人でもうほとんどのスペースを占めている。



....二人用とは書いてあったが、二人座れるというだけで二人寝れるということは想定してないんじゃ.....



「大丈夫だよ~、ほら、詰めたら二人寝られるよ?」



そう言いながら端へ体を詰める桜華。



...それでも全然狭い。



「...これじゃあ密着するじゃないか.....」



「寝るだけだしいいじゃん、気にしない気にしない....ふぁぁ~眠い....」



そのまま眠りの中へ落ちていきそうな桜華を俺はただ眺めるだけ。



...どうしたものか。



「....俺も...眠いし.....」



正直立って居られるのも限界だ。眠気がピーク。



「....隣で...寝るからな.....」



躊躇いながらゆっくりと、俺は少し開いたソファベッドのスペースに体を横たわらせる。



...その時、



「あっ、アイスティー飲も」



突然頭を上げた桜華が俺の脇腹にヒットする。



「ぐおっ.....」



「んあ、ごめんごめん」



地味な痛さにゆっくりとうずくまる。



...なんだろう....このやり場の無いもどかしい痛みは.....



「はぁー...やっぱり夏はアイスティーに限るねぇ~」



たっぷりとガムシッロプの入ったアイスティーを飲み干した彼は、うずくまる俺の頬に冷たいウーロン茶の入ったコップを押し付ける。



「飲まないのぉ~?」



「....いや....ちょっと待って....まだ痛い.....」



ソファベッドに倒れむと、もうそのまま眠ってしまいそうになった。



...こんな朝方近くまで起きていたのは久しぶりだったかもしれない。




(...あの時を思い出すな.....)



「んじゃ僕も寝よっと。隣失礼するね~」



アイスティーを飲み終わった彼は何の躊躇いも無く俺の隣のスペースに入り込み寝転んだ。



「.....うう...狭い.....」



「.....おやすみぃ」



即座に眠りに落ちていった桜華の顔が、目の前にある。



染められた白い髪の向こう側で長い睫毛を生やしたまぶたが閉じている。



白すぎるその肌は眠っているその表情を、どこか虚ろで神秘的なものにしていた。



「.....この香り.....」



至近距離で眠る桜華からほのかに香る匂いが、どこかで嗅いだことのあるような気がした。



.....この甘い香り。



....気のせいか。



寝息を立てる彼の表情に、俺は何故か少しだけ見蕩れてしまっていた。



(...駄目だ....この近さ...変は気分になる.....)



眠気で閉じかけるまぶたの向こう側にいる桜華の寝顔が気になってなかなか寝られない。



「....何考えてんだ俺.....」



桜華は男じゃないか...。別に何も意識することないだろう...。



さっさと寝てしまえば済む....。



「.....うーん.......」



「わっ.....」



寝返り打とうとする桜華の体がもろにぶつかる。



二人横たわったまま完全な密着状態になった。



「な....なんだ.....この状況....」



傍から見たら抱き合っているような風に見えるだろうこの状態、一体どうすれば....!?



というか、なぜ彼は何も気にせず寝ていられるのだろうか....



出会った時から変わった奴だと思っていたが...



寝息が顔に当たっている...。ほのかに暖かい体温が体に伝わる....。



そんな状況下で、落ち着いて眠れというのは無理がある....



俺はゆっくりと体を起こし桜華を起こさないように立ち上がる。



「...お茶飲もう.....」



気持ちを落ち着けるためにテーブルに置かれた自分のウーロン茶を取る。



乾ききった喉を潤すと、変に目が醒めてしまった。



利用時間はまだ一時間以上ある。



「ネットでも見るか...」



テーブルの隅に置いてあるPCの電源を入れる。



静かな音を立てて起動すると、モニターに映像が映し出される。



何を調べるわけでもないけれど。



大きい本体からは想像できないほど静かな音で起動するそのPCを見ていると、モニターにはデスクトップ画面にいくつものフードメニュー等が映し出されていた。



何も注文するつもりのない俺はそのままインターネットを開く。



後ろで寝息を立てる桜華を余所に俺は何気なしにネットのサイトを閲覧していた。



いつも見ているようなネットショップのサイトから、掲示板まで。



空調の効いた静かな店内でそんな風にネットサーフィンをしていると、やはりまた眠気が襲ってくる。



...このまま机に頭を突っ伏して寝てしまうのもアリかもしれない。



どうせ、寝床は桜華に独占されているし。



振り返ると彼は相変わらず気持ち良さそうに寝ている。



「いいか.....起こすのも悪いし.....」



俺は開いていたページを閉じ、そのまま机に腕枕をした状態で顔を突っ伏し目を閉じた。





―――




「あー、よく寝たぁ!危うく寝過ごすところだったね」



(....くそ.....結局全然寝れなかった.....)



ネットカフェの扉を出ると外は明るく陽が照らしていた。



二時間の中でちゃんと眠れたのは、ほんの20分くらいだったかもしれない.....



「これで始発に間に合いそうだね、今日は付き合ってもらってありがとうね」



「.....ああ」



よく眠れたんだろうか...彼は。



俺は帰ってから寝直すことにしよう...。




しばらく歩き最寄の駅に着くと、すぐに到着した始発の便に乗り込み空いている車内の椅子を適当に選び座った。



窓の向こうには見慣れているようで、見たことの無かった風景が広がっている。



「...ここからの電車には...初めて乗った」



「へぇ~そうなんだ、地元なのにあんまり乗らないんだね?」



「そうだな。そんなに出掛けることもないし...」



動き出した電車からの風景は、早朝のひと気の疎らな町を映している。



あまり訪れることのなかったこの辺りの景色に、何故か見入ってしまった。



「若いんだからもっと遊びなよ~。ま、僕も遊ばない若者だけどね」



そう言って小さく笑った。



そんな表情を何度か見てきたからだろうか、最初は浮世離れしたように見えた彼の出で立ちが、自分の中で凄く身近なものになった気がする。



....あんな至近距離で...寝顔も見てしまったし.....。



...あの場所で腕を掴まれて命を拾われた時は、何者だろうと思っていたが。



「...桜華は...確か.泊の近くに住んでるんだよな...?」



「ん?うん、そうだけど?」



「....もしまた時間があったら...その......出掛けないか?行きたい場所があるんだ...」



「それは男同士で行っても大丈夫そうなところ...?」



桜華は微かに笑いながら聞いた。



正直、大丈夫かどうかは不安のある場所だけれど...。



「....今日同じ個室に入ったくらいなんだから...どこだって平気だろ...」



そう答えると彼は可笑しそうに笑った。



「...ふふ...やっぱり黒乃君って強引なとこあるよね」



「あ...いや...別にそんなつもりじゃ.....」



「男は強引なくらいが丁度いーんだよ!って僕の婆ちゃんも言ってたし、悪いことじゃないと思うよ」



「そうなのか....?」



「....ってまさか真に受けるとは思わなかったよ!」



「....?」



そんな風にしばらく話していると駅に到着し、俺たちは分かれてそれぞれの帰路についた。



3日後に四季のいる文化会館に集合するということを交わし、眩しく照る朝日に目を細めながら自宅近くの見慣れた道を歩いた。











――――そして、3日後。





「こんな仕打ちがあるか...!?」



人が行き交う文化会館のホール。



会う約束をした四季に見放され、俺は途方に暮れていた...。




大体...なんなんだ...!



こっちは朝早く支度して集合場所に来たと思ったら、突然の電話で桜華は来れなくなったと言うし...。



何故かと聞くと急用が入ったからという.....身勝手にも程があるだろう...。



そして何より四季は、俺の事すら覚えていないなんてどういうことだよ!?



あの日、酔ってはいたが長時間目の前で話していた人のことを忘れるか普通!?



あの男にとって俺はその程度の存在だったというのか....



....まだ桜華がいれば気付いたかもしれないのに....くそ!こんな場所で一人取り残されるなんて想像してなかった!



「どうすればいいんだ.....桜華は電話にも出ないし」



周囲を見渡すと、二階へ続く大きな階段を歩く人や、ホールのソファで腰をかける人、賑やかに話している人....



どこもかしこも人だらけだ。



「目が回ってきた...」



一旦外に出よう、そう思って出口の自動ドアから外へ出ようとする時、ポケットの中から携帯の着信音が鳴り響いた。



不意の着信に驚きながら画面を見ると、桜華からだった。



「....もしもし」




『黒乃君っ!?今どこにいる....!?』




その声が、あまりに真剣さを帯びていたから。



「えっ....?....文化会館だけど...」





言おうとしていた事すら、消え去ってしまった。




『今すぐそこから!......そこから離れて!』




「えっ...!?」























 ...to be continued




 



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