『 Same 』part.3
―――――生温い風が微かに吹いている。
目の前には空。
広くて青い空。
清々しいほど広大に広がる空に、飲み込まれそうなほど。
ここはどこなんだろう...
その瞬間の自分は、そう思ったのかもしれない。
そしてそれがこの景色の真実なのかもしれない。
...晴々としたその青は次第に、不規則に揺れ始める。
歪み、四方に散らばる。
景色として認識していたそれは、記憶の一部と結ばれる頃、形を失くす。
手を伸ばし、何かを訴えかけた一つの影。
それも、何もかも。幻だったと告げるように...
淡い幻影の色彩は、儚い夢と幕を閉じた。
静まり返る部屋の隅。
ゆっくりと瞼を開くと仄暗い紺色の空が窓に映えている。
「.....。」
枕元にあるはずの携帯を探す。
手探りで見つけたそれは、相変わらず静かだった。
「.......今」
何時頃だろう。
恐らく、4時か5時辺り。
そう思って画面を見ると、予感は当たっていた。
閉め切った部屋は、虚しいほど静かで。
さっきまで見ていた夢の景色を...忘れさせてくれない。
また、あの夢を見た。
厳密に言えば似ていた。
多分、同じ場所に居た。
もっと厳密に言えば....あの続きだったのかもしれない。
――――晴れ渡る空の下に居た彼が、
何かを告げるような様子だった。
それしか印象にない。
どんな格好をしていたのか、どんな表情をしていたのか。
何を言っていたのか。
その全ては識別できないほど曖昧で。
曖昧だけれど、それは彼なんだと分かった。
「......。」
ゆっくりと上半身を起こす。
少し頭が痛いし、動悸がする。
まだ眠気が覚めない。
朧げに残るあの姿浮かべながら、そしてそれをかき消すようにして、体を無理に起こす。
立ち上がると軽い目眩がする。
ただの眠気と少しの疲労からだろう。それにいつものことでもある。
無機質に静かな部屋に自分の足音を響かせながら、俺はゆっくりと部屋の窓を開けた。
視界に広がる夜明け前の小さな世界は、涼しげな風を運んでくる。
何も変わらない、部屋から見えるこの景色が、何故かいつもより空虚に見えた。
今はその空虚な風景が心を穏やかにしてくれる。
出来る事ならまだずっと、この空の色を眺め続けていたい。
深い青色の空を。
開けた窓をそのままにして、携帯の画面を眺める。
迷ったまま、同じことを考え続け、目を背けていたページを。
「.....由沙」
終わったと思っていた。
全てが。
俺は夢を見ていたのだろうか....?
或いは、まだ夢を見続けているのだろうか。
未だ信じられない...画面に映る文字。
この言葉が示しているのは....真実か....偽りか。
――――
『それは災難だったね』
『どうかな.....本当に災難なのは.....』
『君も性質が悪いな。いや、君だからできる事....か』
『そう、才能...ね』
『実力行使だね』
『大分役に立ってるでしょ、そちら側からしても』
『....まぁ...少し弱みは握れたかな』
『性質が悪いのはお互い様じゃないか』
『そうだね...。それはそうと、当の彼は...?』
『お察しの通り、何も知らないよ』
『そっか。...動きは特にないまま、という感じかな?』
『特には、ね。....まぁ、さっきは思い付いたように、誰かにメールしてたけど』
――――
「.....で...今日がいいと」
「...ああ」
暑い日差しが照りつける野外。
強い直射日光は容赦なく肌を刺さる。
空は青く、清々しい。
あの夢を思い出してしまいそうなほど。
「君意外と.....強引...だね」
目の前の彼、桜華は汗一つ流してはいなかった。
この炎天下で涼しい顔をしている。
「君は心が脆いのか、強いのか....」
よく分らない、とでも言いたげな様子の彼は何かを少し考えた後、落ち着いた笑みを見せて言った。
「いいよ、君が決めたんだから.....僕もそれに乗るとしよう」
意味深に微笑みながら彼は歩き出し、俺もその後を追った。
2011/06/01 20:10
―――『黒乃~、月曜日夏服着て行くか迷ってるんだけどさ、黒乃はどうする?』
to be continued...




