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DARK SCENE  作者: 鵫弥
Secret
14/19

『Another secret』






「....もう6月か」



涼し気な夜の風が肌をそっと撫でる。



音もなく靡く初夏の夜風は、控えめに流れている音楽と程よく絡まり心地良い。



耳を澄ますとより正確に聴こえてくる。



歩いている人たちの足音が一つ二つと、静かに鳴っているウッドデッキの端で、椅子に深く腰掛けてまた景色を眺めた。




遠くに海が見える....。



ここは高い丘の上。




とても見晴らしの良い景色が広がっている。



小さく見える夜の町は、灯りを所々に煌めかせている。



小さいけれど、確かに。



場所によっては消えたり付いたりを繰り返して。




車のヘッドライトが多く並んでいるようなあの橋は、渋滞でもしているのかな。




そしてもう少し向こうに見える海は暗い地平線を描いていた。



明るい町と隔てられたように暗く染められた水面は、不思議と心を癒してくれる....。



光の賑わいから少し距離を置いて...



静かな自分だけの場所で、ひっそりと佇む。



夜の海が住まうその静寂は、何者にも触れられない...まさに神秘の場所。



そんな海は、私が求めているもの、そのものであると...



強くそう思える。




「...ああ、疲れた」



椅子に深く座り込んだまま、大きく手を伸ばす。



今日一日分の溜まった疲れを指の先から放出するかのように。



眺めていた景色から視点を逸らし、テーブルに置いてある自分の携帯電話に手を伸ばす。



「もう20時か...」



携帯の画面が表示していたのは、もう夜遅くのそんな時間だった。



いつもなら家にいる時間。



けれど、今日は違った。




「...翼遅いなぁ」



店の中を見た。数人のお客さんと注文を運ぶ店員さんの姿が見えるだけだった。



「....コーヒーまだかな.....」



思えば夜も更け、少し肌寒くなってきた。



暖かいホットコーヒーで体を暖めたい。



―――数分前、二人分の注文を取りに行った友人がまだ戻ってこない。



...何しているんだろう。



そんなに広い店内でもないから、迷うこともないだろうし...。



なにより、ここはその友人が教えてくれた場所。



その本人が迷うはずが...




「ごめーん夏樹さん!おまたせー!」



すると突然、聞き慣れた声が響いた。



声の主は、やっと戻ってきた友人の翼だった。



「あ、やっと戻ってきた...」



両手にコーヒーカップを持った彼はいつものような笑顔で、私の分と自分のコーヒーをそれぞれテーブルに置いた。



私のもとへ置かれたのは、予め彼に頼んでおいたホットコーヒーだった。



「はいどうぞ、夏樹さんこんな暑いのにホットでよかったの?」



翼は自分のアイスコーヒーを手元に置いて不思議そうにそう聞いてきた。



涼しげな服装の彼からすると確かにそれは謎に満ちているだろう。



「私は極度の冷え性だから。今は暖かい飲み物が一番いいの」



持ってきて貰ったホットコーヒーを一口飲むと、体中に暖かい温度が染み渡る。



...少し熱いくらいだった。



「...結構美味しいんだね、ここのコーヒー」



普段飲み慣れた市販のコーヒーとは違い豆の香りがより引き立っているように感じる。



その分普段はあまり感じないような苦味もある。



「気に入ってもらえたみたいで良かったよ、ここは僕も最近知った場所だったから...」



地元の丘の上にある、見晴らしのいいウッドデッキが設けられた、大き過ぎでもなく小さくもない店。



今日、初めてここへ来たけれど、このウッドデッキからの景色を見た時、なぜか懐かしさを覚えた。



その街並みは、私がよく行き来する所なのだけれど。



「...そういえば戻って来るの遅かったけど、何かあったの?」



「ああ、そういえばカウンターの近くにいた時、店の窓ガラスから外に派手な髪色の人を見つけて追いかけてたんだ」



「えっ?」



ごく稀に彼は意味の分からないことを言う。



「すごく白っぽい金と言うか、もはや白!白だったねあれは!」



喜びに満ち溢れた表情でそんな事を言っている。



「...追いかけてたって...外に出て行ったってこと?」



「うん、そうだよ」



当然のように彼はそう答えた。



「店員さんに何も言われなかったの...?」



「ちゃんと言って出たよ~!でもほんとに真っ白だったなー」



片手にアイスコーヒーを持ったまま、その目をきらきらと輝かせていた。



「そんなにすごい髪色なんだったら写真の一つでも撮ってきてよ」



「あー!写真!...撮ればよかった~」



残念そうにいいながら彼はポケットから携帯を取り出した。



...が、それは普段見ていたものと全く違っていた。



「ねぇ、それってあれ?...スマートフォン?」



「ん?ああ、そうだよ!新たに買い換えたんだ!」



翼が手に持っていたのは最近よくメディアで取り上げられている携帯端末、所謂スマートフォンだった。



まだ新しいそれは、照明の光を吸収して光沢を放っている。



「すごい...なんか薄いね」



「薄さもだけど、カメラの画質もほんとにいいんだよね。まだ一枚も撮ってないけど!」



大きめに設けられた画面を指で触れると画面のロックが解除され、ホーム画面が表示されていた。



私は物珍しくそれを眺めた。



「...さすが、金持ちは違うよね。私まだこれだよ」



「ガラケーってやつだね。いやでも、一括では買ってないからね」



画面に並んでいるアイコンの一つを翼が触れる。



すると別の画面が開き、新たなページが表示された。



「せっかくだから、なんか呟こうかな」



彼は何やら文字を打ち始めた。



「なに書いてるの?」



「"喫茶店なう".....っと!」



何か文字を打ってどこかに書き込んでいるようだった。



「そうだ、初めての撮る写真は夏樹さんとのツーショットにしようかな!」



翼はそう言ってスマートフォンを自分の斜め上の方に掲げた。



「夏樹さん、いい?」



「い...いいけど....ちょっと待って」



咄嗟に携帯の画面越しの自分の顔を見つめる。



写りが気になるけれど、せっかく翼がそう言ってくれているから写真に写ることを了承した。



「それじゃ撮るよ~....はい...!」




―――響き渡るシャッター音。



その音が予想以上に大きく、隣に座っているお客さんにも聞こえていたようだった。



「あ....ごめんなさい...」



隣の席に座る二人の人が不思議そうにこちらを眺めている。



偶然にも、二人とも私たちと同じくらいの歳か、或いは少し下ぐらいだろう。



見かけない顔...ではあるものの。



この二人...



「あ!沙夜君!だよね?」



突然、翼がその姿を見て声を上げた。




「あれ?もしかして翼?」



彼の声に答えた一人は、翼の姿を見ると思い出したような表情をしていた。



「...翼、知り合い?」



「知り合いも何も、同級生だよ!同じ学校の!」



「え?....あ、そうだったの?」



初めて見るその顔に、まさかとは思ったけれど...



「翼が隣に座ってるなんて気付かなかったよ!」



「いや僕だって、隣を見るまで全く気付かなかった~」



とても親しいその様子から見るに仲が良さそうだった。



ということは...もう一人も....?



「あ、由沙君も一緒なんだね!お久しぶり」



「どうもお久しぶりです、なんかすごい偶然ですね!」



「....あの、お二人は.....」



"兄弟ですか?と、そう聞こうとした時、翼が行った言葉にその疑問はかき消された。



「双子だよ、この二人!似てるよねぇ~!」



双子.....



そう告げられて、本当に納得してしまうほど....



似ていた。



「翼は学校終わってすぐ来たの?俺たちはさっき来たばかりなんだけど」



「もう着いて30分くらい経ったかな?学校終わって家に集合してから来たんだよ、夏樹さんと!」



不意に自分のことを紹介され驚く。



三人の視線が私に集まる。



「あ...は....初めまして...」



「初めまして~!...ええと...翼...もしかして...!?」



「あ、彼女とかじゃないですっ!」



咄嗟にそう返してしまっていた。



「ちょ....!夏樹さん、そんな即答で返さなくても...」



隣で項垂れる翼には申し訳ないけれど...。



「ああ、もしかしてこの前メールで言ってたクラスメイトの子?」



「そうそう!覚えててくれたんだ」



「覚えてるも何も、あんなに嬉しそうな文章送ってこられたら...ね」



「ちょっと!それ言わないで!」



「一体...なんて送ったの?」



私がそう聞くと、急に焦り出した翼。



「いや普通に、クラスに友達が出来たって、そう送っただけだよ!」



....照れ隠しか?...あの翼が....



その様子が普段見ないようなもので、変な感覚だった。



「...まぁ....そうだね。友達ができた、みたいな感じの文章だったかな....うん...」



その彼も納得したように頷いている。



けれど何か不自然...。



「それにしても、もう日本に帰ってきてたんだね」



「そうだね、今回は短かったからさ。用事があっただけだし」



「え...海外に行ってたんですか..?」



「夏樹さん、この双子はすごいよ。学校をほったらかして旅行に行っちゃうんだから!」



「人聞きの悪い言い方するな~、まあその通りだけどね」



冗談なのか本当なのか分からない言い方をした翼だったが、どうやら本当のようだ。



「どう?ハワイは満喫できた?」



「由沙はできてたんじゃない?俺はほとんど人に会って話を聞いてただけだから」



そういって話を振られた双子のもう一人も、彼にそっくりだった。



茶色がかった長めの髪に、華奢なその体が引き立つような服装。



正直、初めて会った私では二人の区別など到底つかない...。



「満喫できてたよ。ただ、すごい事言われちゃって」



「誰に?」



「占い師に」




―――占い師。



聞いただけで胡散臭いワードが飛んだ。



「そ....その占い師になんて言われたの?」



「自分と同じ歳の綺麗な黒髪の男性に気を付けろ...って」




...全員の視線が翼に集まる。



「...って、ええ!?僕!?なんで?!」



「由沙は翼に近づかないほうがいいかもな...」



「いやいや、なんでそうなるの!」



慌てふためく翼は、確かに同い年の、綺麗な黒髪...。



全て該当しているわけだけれど...。



「み...みんなして見ないでよ!」



「翼....そういうことだから由沙にはあまり近付かないでくれ...」



「いやいやいや!おかしいでしょ!!」



こんなに慌てている翼は初めて見たかもしれない。



その様子が可笑しくて少し笑ってしまった。



「夏樹さんはそんな事言わないよね!?僕は安全だって信じてくれるよね!?」



藁にも縋る様に私に問い掛けてくる翼があまりにも面白くて、つい意地悪してしまう。



「由沙君、翼には気を付けて....」



「な......夏樹さんまで~!.....」




そんな翼にまた笑ってしまう。



普段見ないようなその取り乱した姿が可笑しくて...。



その後もしばらく私達は賑やかに談笑を交わしていた。




...こんなに話し込んだのはいつ振りだろう。



こんなに笑ったのはいつ振りだろう、と。



そう思ってしまうくらい、楽しい時間だった...




―――店の閉店時間も近付き、私達は席を立った。



気付けばもう23時近くだった。




「もうこんな遅くになってたんだね....コーヒー美味しかった」



「気に入ってもらえてほんと良かったよ、もう話すのに夢中であんまり味わえなかったけど!」



「今日は偶然だったけど久しぶりに会えてよかったよ、翼」



「いやほんと、僕も嬉しいよ。隣に座ってた時は驚いちゃったなー」



店の外に出ると涼しげな夜の風が私たちを迎えた。



予想はしていたものの、この時間帯の野外はなかなか肌寒かった。



「結構冷えるねー、さすがの僕も半袖だと寒いよ」



長袖の私と沙夜とは対照的に、翼と由沙は半袖に半ズボンと言った夏らしい服装をしている。



「君たち双子を見分けるには、服装しかないのかもね!」



翼が二人を見て言う。確かに瓜二つの二人の違いは、その服装ぐらいしかないほどだった。



「由沙は普段から薄着で参っちゃうよ、俺の服も勝手に衣替えされるから」



「もう6月なんだから普通でしょ~」



「あははは!でもほんとに似てるよね二人とも。僕にもそっくりの双子がいたらなぁ~」



「...翼が二人....なんかすごい賑やかになりそうね.....」



「.....あー確かに....ははは!」



「って、なんでそこで笑うの沙夜君!!」



翼を中心に笑い合う...



こんな楽しい今が、いつまでも続いていけばいいのに、と.



静かに思いながら。



「それじゃ...そろそろ俺たちも行くね。二人ともおやすみ~」



「おやすみ、また学校でね!もうあんまり休んじゃ駄目だよー!」



笑って手を振る二人...。



何もかも似ているその二人は、並んで歩くその後ろ姿さえも似ていた。




「ほんとに...そっくりだったね。二人とも」



「そうだね。最近になっても、まだはっきり見分けられないよ」



そんなことを言いながら二人を見送っていた最中、振り返った沙夜と、私たちは目が合った。




「二人とも!デート中に邪魔しちゃってごめんねー!今度は二人きりで楽しんできて!」



「なっ.....!」




その言葉に黙って目を合わせる私と翼...。



...その目を合わせたまま、やり場のない恥ずかしさに、二人して固まっていた。





また涼しい風が一つ吹いて肌を撫でる。



夏の夜のこの涼しげな風が、訪れた季節の節目を彩る。



心地良い温度に吹かれて...。






















-The Another Wind-






& Another secret.










END...








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