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DARK SCENE  作者: 鵫弥
Secret
12/19

『 Secret 』part.5






相変わらず湿っぽい、日曜の朝。



少し肌寒い理由は窓の外の薄暗い空を見れば一目瞭然。



6月も、もう9日。




「あっ!そこ取るかっ!」



家の階段を降りていくと、何やら声が聞こえる。



「ふふっ、詰めが甘いわね〜」



小さく細かい音と共に聞きこえてきたのは、母の声と聞き覚えのある声。



「くっそー!挽回出来んのかこれ...」



リビングに入ると見えた姿は、私の予想通りそれは敏郎叔父さんだった。



「あら夏樹、おはよう」



「おっ、夏樹か!おはようさん」



テーブルに座る2人は何をしているのかと思ったら、



母が得意だと豪語するチェスをしていた。



「夏樹助けてくれ、やつの馬が攻めてくる...」



「馬じゃなくてナイトね。このまま行けば総大将の首は取ったも同然ね」



細やかな音はチェス盤を打つ音だった。



母と叔父さんがチェスをしているのは、久しぶりに見たかもしれない。



「叔父さんおはよう。今来たの?」



「ああ。今日は日曜ってこともあるし、明日は10日だしな」



そう言いながら叔父さんは足元に置いてあった大きめの紙袋を取った。



白いテープで封をされたその紙袋見た時、ふと何かを思い出す。



「誕生日おめでとう、...もう16歳なんだな」



そうだった。明日は...



「おめでとう夏樹、私からも!そっちに比べたら大分小さいけど」



...明日は6月10日。



もう、そんな時だったんだ。



「あ...ありがとう!」



「夏樹も大きくなったな、もう高1だもんな」



感慨深そうに叔父さんは言う。



渡してくれた紙袋の中に入った箱は、結構な大きさだった。



毎年のように何か貰っているような気がするけど、こうやって2人から同時に受け取るのは初めてかもしれない。



「叔父さん、母さんもありがとう!」



「10日が月曜日だから今日渡せて良かった。あ、そうそうこれも...」



叔父さんはまた足元に置かれた何かを私に差し出した。



「これは、お兄ちゃんにな。...あげといてくれ」



それは叔父さんがよく持ってきてくれていた、兄へのお供え物だった。



「うん、ありがとう。...いつもごめんね」




...昨年の今頃を思い出す....



あの時はこんな風に、自分の誕生日を喜ぶ余裕もなかったから...



「はいっ!取ったぁ〜!私の勝ちね」



「あっ!!不意打ちズルいぞ!」



こうやって日常を送ることができるのが、幸せだった。






―――




「やっりぱ梅雨になると肌寒いなー、半袖は失敗だったなこりゃ」



車の中に入ると窓が曇っていた。



後部座席には小さいクッションと雑誌が置いてある。



「梅雨入りしてるった分かっててなんで半袖シャツ1枚なのよ」



助手席に母が乗ると叔父さんは車のエンジンをかけすぐさまエアコンのスイッチを入れた。



「夏は半袖っていうポリシーがあってだな....悪いが暖房入れさせてもらうぜ」



センターコンソールから暖かい空気が出る。



私は通風口にそっと手をあてがった。



冷え性の私にはやはり心地良い温度だった。



「とりあえず、言ってたあの飲食店でいいな?」



「そうね、夏樹も私もずっとあそこには行きたかったから」



叔父さんは車を出すとフロントのワイパーを動かす。



滴る雨粒が梅雨真っ只中のこの季節を彩る。



長いようで短かかったあの日々の記憶を何度も思い出してしまいそうになるけれど...


過ごす時間の中で少しづつ弱さを捨てることができたのかもしれない。



私は今までより、段々と過去に囚われることはなくなったと....そう言えるかもしれない。



窓に滴る透明な雨を目で追いながら、外を眺めた。




明日で16歳...。



亡くなった兄さんと同じ年になった。



....厳密に言えば誕生日の遅い兄さんより年上。



もう、兄さんより長い時間を生きている。



この世界で。



「夏樹〜、この前言ってた崔鳳でいいわよね?」



「あっ、うん!いいよ」



...私はまだ兄さんを失った悲しみを背負っているけれど。



私には大切な家族がいる。...友人がいる。



だから、どんなに悲しくても今ある大切さを見失わないように生きなきゃいけない。



辛いのは...私だけじゃない。



下ばかり向いていられない。



...ずっと俯いていた日々。



あれから一年が経ち、私も一つ年を重ねた。



再び前を向くには....今しかない。



俯いていた顔を上げて、立ち上がらないと。




―――私は窓の外を眺める。



雨の中を走る日曜の昼前の景色は、懐かしさとは少し違う感覚で記憶を撫でた。





「....ん?」



窓の外。



勢い良く、走り去ってゆく姿...。




(どうしたんだろう、あの人)




.....白?









―――



「あれ、禁煙席でいいの?」



3名とだけ言って席へ案内され、母がそう聞いていた。



叔父さんはふと思い出したように、禁煙しているという事を伝えていた。



この前私が思っていたことはその通りだったのだと知った。やはりもう煙草を辞めたようだった。




―――叔父さんがご馳走してくれると言うので訪れた、お気に入りのこの崔鳳という飲食店に訪れた私達は食事をしながら話す中でいくつか過去のことを話した後に、やはり私の学校生活の話へ落ち着いた。



「まぁそう簡単にできるもんじゃないよなー、恋人ってのは」



「うん...私まだそういうのに疎いって言うか...」



「何言ってんのよ〜、お母さんが夏樹くらいの頃はそりゃもうとっかえひっかえなのが普通で、誰でもそうだったんだから〜」



案の定ありきたりな話に行き着く。



そんな事を話している最中、思い出すのはあの帰り道のこと。



翼にそっくりだった....あの人の事をここで話してもいいものか...。



「今は時代が変わって恋愛事情も様々なんだよ、なぁ夏樹!....それにとっかえひっかえって....お前どんな学生生活送ってたんだ....恐ろしいな」



「恐ろしかったのは兄さんのあの部屋よ、あのポスターは何だったのかしらね〜。悍ましい顔の人達がまだ脳裏に焼き付いてるわ」



「ヘビメタだろ、ここで俺の音楽遍歴を暴露しなくてもいいんだよ!」



「あ....あのさ.....!」



私はその時突拍子もなく問い掛けた。



2人の視線がこちらへ向く。


...聞いてどうなることでも、ないかもしれないけれど...。




「ド.....ドッペルゲンガーって...いると思う.....?」




2人の頭の上には、きっとクエスチョンマークが浮かんでいた。



「...ドッペルゲンガー?なんだそりゃ」



「どっかで聞いたこと...あるような気もするけど.....何それ?」



私はそんな事を聞いて、一体どうしたかったのだろう...



「ううん...なんでもない....!」



自分がよくわからなかった...。









―――帰りの車の中、



自宅近くの町の歩道を見てふと思い出す。



(あの人は...何だったんだろう...)



行きの車の中から見えた姿。走る姿。




フードの様なものを被っていた。



その中から少しだけ見えていたのは、白色の髪。



何処かへ向かっているのか急いでいる様にも見えた。



何故だかあの姿がずっと気になったままで。




「ご馳走様!美味しかったわあのお店」



家に到着すると私と母は車を降り、叔父さんを見送る。



誕生日プレゼントと食事のお礼を言い、叔父さんはこの後忙しいのかもう帰るみたいだった。



「まだ時間あるし家でコーヒーでも飲んでけばいいのに」



「涼太郎を塾へ迎えに行かないといけないからな、まあまた近い内に会おうや」



そう言って運転席の窓ガラスを閉めようとした時、ふと叔父さんは窓を閉めるパワーウィンドウを止め私の方を見た。




「....あれ...何者だと思う...?」




え?



「....叔父さん?」



「....いや、なんでもない」




じゃあな、と言って車を発進させた叔父さんは行ってしまった。



呆気にとらわれる私と、まるで何の事か理解するすべのない母を残して。



「夏樹、なんのことなの?」



私はただ、分からないとしか言えなかった。










―――



夕食を済ませ兄さんの仏壇を参り、いつも通り着替えの準備を用意している夜。



机の上に置かれた叔父さんと母さんからの誕生日プレゼントを眺めながら、私は変わりゆく日々のことを思う。



幕を開けた高校生活も、もう6月。



母さんと2人だけの生活も...もう慣れてきた。



仕事が夜遅くに終わる母に代わり作る夕食はまだまだだけど、母は褒めてくれる。



物心ついた時からいない父の役目も背負ってきた母の苦労は計り知れないだろう。それでも新たに再婚するということは考えていないみたいだ。



もう兄さんもいないのだから、しっかりしなきゃいけないのは私。



...けれどまだ、ふとした時に寂しさに俯いてしまう時がある。



まだ完全に立ち直れてはいないし、どちらかと言うと希望より不安の方が大きい。



でも私は1人じゃない。それを忘れてはいけない。



家族がいる、友達がいる。....翼がいる。



弱さに押し潰されず歩いていかなきゃいけない.....



―――大きめの箱の中には、綺麗に包装されたプレゼント。



叔父さんからのプレゼントは靴だった。



学校にも履いていけそうなローファー。これからという日常を歩んで行くための、とてもいいきっかけを貰ったんだと思う。



母からも貰った、ずっと欲しかったポーチも、この温もりを忘れないように大切に持っていこう。




私は開けた包装紙を小さく折って、空いた箱の中に添えた。



クローゼットの中、空いた隙間を探すその時にまた、思い出される...叔父さんの言葉。



....あの問い掛けに返す答えは、私はまだ"分からない"。



それでもいつか、分かってしまう...だろう。....何故だろうそんな気がする。



それはやっぱり、翼に似たあの人の事があったからかもしれない。




...雨の中走り去るあの姿を見た時、また何かを知ることになる...


あの涼香川の時と同様に。



それは私の意思に関係無く。



微かに、そう感じている。











~~~~




「夏樹ー、今日翼君休みだってー」




振り向くと同じ部活の友人がいた。



聞き慣れたその声が言った言葉は、多分、



「先生に聞いたらまだ連絡ないんだってさ、なんでだろ...珍しいよね、」



初めて聞く言葉。



「翼君が休むなんて...」




翼がいない....そんな日は




「どうしたの夏樹?」



初めてだから。




「ううん、なんでもない...!」




握った携帯電話。




今にも駆け出してしまいそうなこの足を止めるので精一杯だった。













...to be continued



















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